第1章 暴走少女 29

 少女の身体は宙に浮かび、意識は完全に無い。しかし、彼女の中にある別のナニカが彼女の身体を操る。


 肩甲骨辺りからメリメリと骨が軋む音がしてきた。赤い血が拭き出し、ゴリッゴリッと鈍い音が大聖堂に響く。


 すると、少女の背中から背丈以上の翼が生えた。左右に二枚づつ、合計四枚の翼が彼女の皮膚を突き破り大きく羽ばたく。


 白色を基調とした翼には、彼女の血が所々に付着しておりアクセントとして際立っている。


 智天使級ケルビムクラスの天使が黒入の眼前に君臨した。


 大聖堂のステンド硝子をバックに、まさに神々しいとはこのことだ。


 しかし見惚れている暇などない。戦闘になれば限りなく敗北に近い戦いになる。お互いに全力を出そうものなら、パリが消えてなくなるだろう。


 少女の口と目からはドス黒い血が垂れ流れている。


 呪力汚染オーバーフローにより身体と精神が崩壊しかかっていた。早く抑え込まなければ、彼女の命は保証できない。


「覚悟を決めろ・・・」


 ふぅ、と深呼吸し戦闘モードに移行しかかった途端――――


「なんだぁ!この力ぁ!!黒入ィィイ!!!」


 後ろで、ドゴンッ!と両開きの木製扉が開く音がした。


 そこには、左目に眼帯を装着しメイド服を着て、更に手には日本刀を持った、なんとも格好がちぐはぐした相方が立っていた。

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