第36話 知り合い
「シアさんの娘さん……って、え? フィオナさん!?」
「何でマルタがここにいるの?」
「あら、知り合いだったの?」
まさか二人が知り合いだとは思わず驚くシア。
二人もまさかここで会うと思っていなかったのか、驚いた様子だった。
「は、はい。フィオナさんとは同じ学校の同じクラスで……っ」
「まぁ、それはすごい偶然」
「はい。本当びっくりしました」
「ねぇ。何でここにマルタがいるのって聞いてるんだけど」
シアとマルタがすごい偶然だと盛り上がっていると、不満そうな表情で口を膨らませるフィオナ。
どうやら自分の質問の答えが返ってこないことに不満らしい。
「あぁ、ごめんなさい。さっきドリンク取りに行ったらマルタが一人でいるのを見かけてね。それで私が声をかけたのよ」
「そ、そうなの! シアさんが私が一人でいたら、その、声をかけてくださって……っ」
「ふぅん。そうなんだ。……そうやってあんたはいつも人を誑かしてるの?」
「フィオナ。もうちょっと言い方あるでしょ」
「だって、さっきお姉ちゃんがそう言ってたもん」
「もう、セレナったらフィオナにろくな言葉を教えないんだから……って、あら? セレナはどこにいったの?」
そういえば、先程までいたはずのセレナがいないことに気づくシア。
フィオナに聞くと「さっき男の人に連れて行かれた」と答え、シアはギョッとして「連れて行かれた!?」と大きな声を上げた。
「ど、どこに!?」
「声煩い」
「煩くもなるわよ! それで、セレナ達はどこに行ったか知らないの!?」
セレナの一大事だとフィオナに詰め寄るシア。
だが、そんなシアの様子などお構いなしに、フィオナは煩わしそうにして眉を顰めていた。
「知らない。でも、男の人がお姉ちゃんにダンスでも一緒にどうですか? とか言って声かけてた」
「えぇ!? ちょっと待って、フィオナ。それは連れて行かれたって言うんじゃなくて、ダンスのお誘いじゃないの!?」
「どっちも一緒でしょ」
「もうっ、全然違うわよっ! びっくりさせないでちょうだい」
とりあえず、セレナは連れて行かれたわけではないとわかって、シアはホッと胸を撫で下ろす。
言われてもまだどういうことか理解していないフィオナは、訳がわからないといった様子で首を傾げていた。
そういう男女関係はまだ十才のフィオナには難しいらしい。
「レオナルドさんはセレナを誘った相手見たんですか?」
フィオナでは埒が明かないと、近くにいたレオナルドに話を振る。
すると、なぜかレオナルドはあからさまに動揺していた。
「いや。その、私が見ていないタイミングだったから、相手の顔までは確認していなくてだな……」
「えぇ……? そうなんですか? では背格好は? セレナと同い年くらいでした?」
「あー、いや。どうだったか……」
シアが色々と尋ねてもしどろもどろ。
フィオナよりも要領を得ない回答に今度はシアが首を傾げる。
すると、そんなやりとりをしている二人に呆れたのか、フィオナが口を開いた。
「お父さんはアンナお姉ちゃんのほうばかり見てたからね」
「うっ」
フィオナに指摘され目が泳ぐレオナルド。
フィオナの言葉から想像するに、アンナに気を取られてセレナのことはすっかりノーマークだったらしい。
「……レオナルドさん。アンナのことが気になるのはわかりますけど、セレナも大事な娘なんですから、ちゃんと見てあげないと」
「面目ない」
「もう。……でも、セレナはダンスフロアに見当たらないわね。どこに行ったのかしら」
見渡してもそれらしき人はすぐに見当たらない。
というのも、先程に比べてダンスフロアにいる人数が増え、かなり混んできていた。
今はアンナすらどこにいるかもわからないほど、ダンスフロアは大盛況だ。
「セレナ、大丈夫かしら。本当に連れて行かれたら……」
自分もきちんと見ていなかった手前、不安になるシア。
探しにでも行ったほうがいいのかと思っていると、レオナルドに肩をポンと叩かれ、ハッと顔を上げた。
「そんなに心配するんじゃない。さすがに身内のパーティーだ。不審者に連れて行かれることはないだろう」
「確かに、それもそうですよね」
「あぁ。私も人のことは言えないが、気にしすぎてもよくないだろう」
「そうですね。過保護にしてばかりいたら怒られちゃいますし、そのうち戻ってくると思って気にしないようにします」
つい気にしてしまう癖をグッと堪える。
自分だって過干渉な母の言動には飽き飽きしていたというのに、いざ自分が親になったら全く同じことをしそうになっていることを自覚し、自重した。
(私はお母様とは違うんだから、我慢我慢。親として、時には信じることも大事よね)
気にはなるが、セレナもアンナもいい年頃だ。思春期ということで親が煩わしい時期だろうし、あまり干渉してはダメだと自分に言い聞かせる。
(程よい距離感が大事よね。つかず離れずを心がけないと)
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