第11話 三種族長会議⑥

「僕等にとっては、君達人間族〈ミクステア〉も、ベオ・ウールシ・ガンヘも変わらない。君達が刈るか、ベオ・ウールシ・ガンヘが刈るかの違い。僕等から見ればどちらも変わらない。だから、協力する意味がない」


 子供天使のような見た目をした植物人族〈ナルマテア〉の長老ガラーシェは眠た気な目を擦りながら、たどたどしくあまり慣れていない人語を繋ぐ。ウォーディンは先般の勢いを引きずり思わず熱くなった。


「しかし、失礼ながら長老ガラーシェよ!我らは森を敬い、全てを刈り取ることは決してしてこなかった。気付かれよ!ベオ・ウールシ・ガンヘはそうでは無い。ただ焼いているのです。ただ切っているのです。進み続ける間、ずっと。その跡に森は残らない。貴殿らの仲間の若木は、母なる大樹は、そこには残らぬのです」

「それは君達の理屈だ」

「そうです。だが、貴殿らの理屈でもあるはずです。これから生まれて来るナルマテアたちは、生まれることも許さず、今刈り取られようとしているのです。我らは大樹を神聖なるものとして刈り取りはしない。今まさに貴殿の仲間らの未来が奪われようとしているのです。いや、ナルマテアだけでは無い。我ら"人"の形をした者ら全員"同じ危機"に遭っているのです。全ての命を刈るために生まれてきた者共が行進を続けています。どうか手を貸して欲しいのです」

「ガラーシェ。私からも頼みます」


 ウォーディンの言葉を引き取ってそう続けたのはナルマテアの男だった。長髪を束ねて目鼻立ちのすっきりした顔をしている彼は北の森に住むナルマテア。その名をオリバという。勿論見た目こそ若いがウォーディンよりも遥かに歳上である。しかし、そんなオリバとてナルマテアにおいては新参者に当たる。オリバは一歩前に歩み出てガラーシェを諭した。


「北の森はベオ・ウールシ・ガンヘに燃やされました。彼等に慈悲はありません。このままであれば確実に全ての森が焼かれましょう。種すら残りません。私は見ましたが、彼等は彗星の炎より生まれ続けています。その火を早く消さなければ、かかり続ける黒煙による雲はやがて私達の命をも奪うでしょう。今も若人から順に声が…声が消えていっています。ガラーシェ。私は少なくとも彼と行こうと思います。彼は信用出来る。彼と共に戦おうと思います。若人のために」


 そう言い切ったオリバは、ウォーディンに顔を向ける。その力強き同意の眼差しに心を熱くしたウォーディンは静かに語った。


「ありがとう、ナルマテアの戦士よ。長老ガラーシェ。今一度頼みたい。どうか我らに力を貸してくれないだろうか」


 ガラーシェはピクリともしない。場に沈黙が降りた。


 ガラーシェは目を瞑る。そこに浮かぶのは数多の歴史。同胞が生まれては枯れてゆく。その繰り返しを何度となく見てきた。死にゆく事は当たり前のことであり、生まれてくるのも当たり前のこと。その一つ一つに一喜一憂することはない。そして、オリバの一言に揺り動かさらることもない。だが、ゆえに。


「自然にすればいい。協力したい者はすれば良いし、静かに暮らしたい者はそうすればいい」


 ウォーディンは安堵し微笑んだ。アイゼンはふーっと深く息を吐き、「決まりだな」と言った後で皆に告げた。



「ここに三種族協定を制定する!」

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【打切】始祖となりし一族の悲哀 チン・コロッテ@少しの間潜ります @chinkoro

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