第10話 三種族長会議⑤

 ウォーディンの一言を受けて、獣人族〈ボルボテア〉長アイゼンが眉をピクリと動かした。ウォーディンは生唾を飲み、浅く息を吸った後、アイゼンを見つめ、


「それでも協力して欲しいのです」


と肚に力を込めて言い切った。力は貸して欲しいが、何もやるものはない。目下のウォーディンがそんなことを言えば、下手すればアイゼンにこの場で切り捨てられても仕方がない。それでも"人"の未来を思えばそう言うしかなかった。


「食糧が…ない、と?」


 アイゼンは眉を寄せる。


「…はい。アイゼン王の話からして、我らの食糧源となる収穫間際の西側は、マハ・ガントの策略により、近く焼け野原となりましょう」

「なんだと!?どういうことだ、ウォーディン殿」


 ウォーディンの返答に威勢よくそう叫んだのはリーチ家とバハムト家であった。アイゼンは不敵な笑みを浮かべながらも黙り、その様子を見守る。そんなアイゼンの様子を窺い知る余裕もなく、ウォーディンは苛立ちながらも彼らに小声で説明する。


「我らはずっと東側で戦ってきたが、数日前に西側を攻められただろう?」

「そうであったか」

「あれはおそらくマハ・ガントの策略なのだ。奴らは収穫間際の麦を焼く気だ」

「なんと!こざかしい真似を。こちらは援軍を出していないのか?」

「当然出している、五百を」

「おお、流石ウォーディン殿!ならば大丈夫であろう」

「何が大丈夫なことか!」


 ウォーディンは怒鳴り付けた。そこには自分自身に対する怒りがこもっていた。しかし、そのことに気付きながらも感情を抑えることができなかった。


「貴殿らは戦場を知らな過ぎる!アイゼン王の話の何を聞いていたのだ。当然、相手方とて援軍くらい想定していよう。故に先手を打ってくる。我らの援軍をものともしない数か、援軍が到達する前に砦を落とし我らの援軍を迎え撃つかのな。守る側なら五百で足りたが、そうではなければ焼け石に水。五百は無駄死にだ。更に敵に武器まで与えるというおまけ付きでな」


 吐き捨てたウォーディンを見て、両家の者は気圧され黙りこくった。アイゼンが微笑み、ウォーディンに語りかけた。


「そこら辺にしておけ、ウォーディン」

「失礼。お見苦しいところをお見せしました」

「よい。気にするな。食糧の問題なら影響ない」


 ウォーディンは眉をひそめて、間を開けてから「…なんと?」と尋ねた。アイゼンは口角を上げる。ウォーディンはそれを見て「泳がされた」と悟り、長いため息を吐いてから、アイゼンに事情を尋ねた。


「どういうことです?」

「そのために植物人族〈ナルマテア〉を呼んだ。ナルマテアの長老ガラーシェよ。主らには植物の生育を早める秘術があろう」

「ええ」

「ミクステアの都にて麦を育てる。ナルマテアの協力あればなんとかなろう」

「なんと…!」


 ウォーディンの目に希望の火が灯る。しかし無常にもそれを打ち砕く言葉がナルマテアの長老ガラーシェより紡がれた。


「僕等は協力しない」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る