第3話 主人公ウォーディン

 そんなヨークから東に三十キロ離れた"タルマン草の丘"で、黒馬に騎乗し剣を振るう四十の男がいた。


「突撃!」


 剣の切先を丘の下へと掲げ、先陣を切るこの男の名は、ウォーディン・テル・ソーサー。ウェーブのかかった黒い長髪を靡かせ、力強さと鋭さを感じさせるコバルトの瞳を敵に向けて、馬をかり疾走していた。彼は王の次に権力を持つ"御三家"がうちの一つソーサー家の当主である。彼の率いる矢先型の軍が突撃するのは、"火から還りし土人〈ベオ・ウールシ・ガンへ〉"の集団であり、ウォーディン達三十人騎兵と二百人の歩兵に対して、三倍程度の量がいた。


 ベオ・ウールシ・ガンヘは、彗星よりもたらされた炎を駆動源として動く、泥の皮膚に四肢を持った人型の魔物で、顔はカエルを崩したような醜い顔をしており、その性格は邪悪で暴虐的である。知能が低く先を考えないことから恐れを知らず、ただただ殺戮衝動に基づき前進を続ける殺人部隊。今も、向かってくるウォーディンの一群を見つけ、死体から奪った武器を掲げて「ヒトだ!」、「殺せ!」と叫び囃し立てていた。


 丘を駆け下ったウォーディンの一群は勢いそのままにベオ・ウールシ・ガンヘの一群と衝突した。衝突面となったベオ・ウールシ・ガンヘは四肢を散らして吹き飛ぶ。ウォーディンたちは剣を振い、奴らの首を斬り落としていく。ベオ・ウールシ・ガンヘは首に宿る彗星の炎を露出することで死ぬが、それ以外の攻撃では死ぬことのない不死の体を持っているため、ウォーディンたちはただひたすらに首を狙い、剣を振り続ける。勿論、無傷とはいかない。跳ね上がったベオ・ウールシ・ガンヘに取り付かれ馬から引き摺り下ろされ殺される騎兵、ベオ・ウールシ・ガンヘとの斬り合いで殺される歩兵、足を失う者、馬を失う者、数多の"人"の血が流れた。陽が翳り出す前には決着がついた。


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