第2話 プロローグ(人間族の国)
人間族〈ミクステア〉の王都ヨーク。標高千五百メートルを超える岩山に張り付くようにしてその街はある。
ヨークは台形型の白色の岩山を彫り削り造られた。元々は麓にのみ街はあったが、権力者の意向や人口の増加などで徐々に高所に向かって建物が出来ていき、街は刃先の広いまさかりを地面に刺したかのような形状となっている。建築物は岩山を彫り削ったものか、又はそこから切り出した石材が主であるから岩肌とよく馴染み、街は白を基調としていることから太陽が降り注げば反射して輝いて見えた。岩山の頂上は平坦な高原と泉となっていて、そこから溢れた水が滝となって落ちているから、滝の飛沫が街をより輝かせ、いつも虹を掛けていた。
頂上に近づくにつれて建物が少なくなる特徴やそういった白く輝く街並みは、さながら"下を向いた百合の花"を思わせ、ヨークは別名〈百合の都〉と呼ばれた。
彗星の落下から半年が経った。
飢饉による食糧難、"火から還りし土人〈ベオ・ウールシ・ガンへ〉"の侵攻、領内で多発する略奪は国内に大きな混乱を齎していた。王政の執行機関はただでさえ腐敗し形骸化していたことに加え、食糧計画や防衛計画の策定と常ならぬ対応に奔走し、全てが後手悪手となっていた。そして、逃げ惑う人々が王都を頼り、難民として王都に駆け込み続ける事で、人口が定まらず計画が無効化、更なる混乱が生まれていた。ヨークの低階層では浮浪者や難民で溢れ返り、路上は臭く汚物に塗れ、時には上層の貯蔵庫に運ぶ荷車が襲われることもあり、治安は悪化する一方にあった。
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