第176話 村に住むお友達

 村に帰ってくるなり宴会にしようとするおバカな男衆を蹴散らして皆と合流する。


「ベランジェール様まだ元気ないけどどう?」


「自惚れ屋だっただけなのでノエル様は気にしないで」


「そっか」


 とりあえず帰ってきた報告をしに家に帰ろうと思ったら、少し離れた所に赤い色が見えた。

 私はその色目掛けて一気に加速して距離を詰めた。


「アレクシアさんッ!」


 まだまだ私より背が高いアレクシアさんの首元にぴょんと飛びつき、しがみつく。

 具体的な年齢はしらないけど、アレクシアさんもまだまだ若い。未だに身体を鍛えてるからだと思うけど、シュッとしてて綺麗なままだよ。


「あっぶな。またやらかしてるみたいだな、ノエル」


「失礼だよ! 皆にも紹介するから来てよ!」


「バカバカ、明らかに高貴な人が集まってるから遠巻きにしてたんだっての! ちょ引っ張るな引っ張るな」


 割と本気で抵抗しているアレクシアさんの手をズンズン引っ張って皆のところに連れていく。遠巻きにエマちゃんはペコッと頭を下げて、リリも覚えていたのか少し懐かしそうな顔をした。


「急にごめんね! この人アレクシアさん! 私の友達で姉で第二の母みたいな人かな?」


「お初にお目にかかります。元B級冒険者、鉄拳のアレクシアです」


 アレクシアさんは胸に手を当ててビシッと頭を下げた。


「……思ってたよりマトモな人が出てきて驚いたわ。私はこの! モンテルジナ王国の! 第三! 王女! ベランジェール、ベランジェール・ヨランド・モンテルジナよ。よろしくね?」


 最初に名乗りを上げたのは一番身分の高いベランジェール様。いつになく自分の身分をアピールしながら気合いを入れて挨拶をした。


 アレクシアさんはにこやかな笑顔を浮かべたまま、まるで時が止まったかの様にピクリとも動かない。さすがはアレクシアさん、村のアホアホ男衆とは違い、不敬にならないよう無駄な動きは避けているみたいだね。


「私はアデライトよ。ノエル様にとって大事な人みたいだから覚えてあげる」


 アデライト嬢はサラッと名前だけを名乗り、身分を明かしたりはしなかった。私が補足しておこう。


「アデライト嬢はマルリアーヴ侯爵家のご令嬢だよ」


「……」


 アレクシアさんはノーコメントだ。まぁ王族最初に出てきちゃったら侯爵家といえども二番煎じ感あるもんね。インパクトに欠けるのも仕方がない。


「久し振りですわね。覚えてるかしら? リリアーヌですわ」


「お久しぶりです。ノエルちゃんの妻、エマです」


「あ、あぁ。覚えてますよ。なんだろう、十分とんでもない人と、ある意味とんでもない子なのに感じるこの安心感」


 アレクシアさんはガチガチに強ばっていた身体の力を抜いて、少し疲れた顔をした。


「最近まで王都に居たんだけどさ、皆が通ってる学園が夏季休暇になったから連れてきちゃった!」


「連れてくんなよ……。こんな国の端っこにある村に来ていいお家柄の方々じゃないだろ……。あとそれ。なんなのほんと」


「あぁ、この子はサカモト。王都の近くの山に住んでた! 魔法袋貰えなかったからサカモト貰ってきた。さわってみる?」


「……さわる」


 アレクシアさんは疲れた顔をしてたのに、サカモトには興味津々だった。元冒険者としての血が疼くのかな?


 サカモトの身体をぺたぺたと触りながら興味深そうな顔をしている。


「覚えてるか? ノエルむかーし言ってたよな。ドラゴンが来たら首をへし折って、フェンリルが来たら躾して番犬にするって。ノエルが連れてきてんじゃん」


「……言ったかも」


 確かベルレアン辺境伯家に泊まった日だ。アレクシアさんとのお別れ前夜、困ったら呼んでねって同じベッドで眠りながら言った気がする。うん、確か言ったよ。


「きゅるるるる……きゅるるるる」


 サカモトが口を膨らませながら悲しげに鳴きはじめた。


「ごめんねーサカモト。昔そんな事言ったけどサカモトにはそんな事しないよー。ほらアレクシアさんがそんな事言うからサカモト泣いちゃったじゃん」


「完全に飼い慣らしてんのな……。王都の連中に同情するわ」


「……わかってくれる?」


 突然会話に混ざり始めたベランジェール様の声に驚き、アレクシアさんはまた固まってしまった。


「お父様も胃薬が手放せなくなったし、お母様もノエルがサカモトを連れてくる切っ掛けを作ってしまった様なものだから、胃の辺りを抑えるお父様を見て申し訳なさそうにしているそうよ」


「……それ大丈夫なんですか? ウチのノエルが申し訳ありません……」


「ノエルは私のと、友達ですし? それくらいどうにでもなるわよ」


 ベランジェール様って友達がいなかったからか、友達って言う時どもるよね。恥ずかしいのか自信がないのか。


「じゃあお願いね? 親友!」


 私がそう言ってベランジェール様の肩をポンと叩くと、両手を組んで少し鋭い目をキラキラ光らせて「任せて!」と息巻いていた。私こういう輝かんばかりの笑顔に弱いんだよなぁ。愛いやつめ!


「……完全に飼い慣らしてんのな」


「……いつもの事ですわよ」


「リリアーヌ様も大変そうですね。そうだノエル、夏季休暇って言ってたし何日かいるのか?」


「うん。二、三日は過ごすと思うけど何かあった?」


「何かって程じゃないんだが、ウチのバカ娘がたまに言うんだよ。最近ノエルいなくない? って。良ければ顔見せてやってくれよ」


 オルガちゃん相変わらず私が村にいないの理解してないのかな? 裏表のない明け透けな態度のオルガちゃんは意外にもリリとアレクサンドル様から気に入られてたし、皆に会わせるのも面白いかも。


「わかった。明日か明後日かわからないけど、皆でオルガちゃんに会いに行くよ」


「み、みんなでか? ……早まったかも」


「じゃあ私たちはウチに行ってくるよ。アレクシアさんもその時に遊ぼうね!」


 アレクシアさんに別れを告げ、村の男衆に自慢の酒コレクションを披露されている護衛達に声を掛ける。

 馬車を用意してもらい、乗り込んでいざ出発だ。


「それじゃあ今度は私の家に行くから皆よろしくね! 皆からすれば狭い家だけど、そこそこ広く建て直したからゆっくりしてってよ」


「ノエルちゃんのお母さんに会うのは久しぶりです! ふふっ、改めてご両親に挨拶するなんて何だかあれですね。ふふっ」


 エマちゃんの言葉を聞いて、皆が身なりを気にし始めた。ウチのお母さんはそんな立派な人じゃないんだから肩の力抜いてよ。


「お母さんもだけど、エマちゃんはレオと会うのも久しぶりじゃない?」


「久しぶりですよ! レオくん覚えてますかね?」


「さすがに覚えてないんじゃない? 一、二歳の頃でしょ?」


「ノエル様、レオって誰ですか?」


「私の弟だよ。今は六歳かな? 七歳かな?」


「つまりその弟と結婚すれば私はノエル様と家族になれる訳ですね。任せてください!」


 ウチのレオはやらんぞ。アデライト嬢のお家闇深そうだし。

 少し暑い馬車内をリリの氷魔法で冷やしてもらい、快適な環境にする。対抗意識なのか、エマちゃんも馬車の窓を黒いモヤモヤで覆って陽射しを遮ってくれる。この馬車の中快適じゃない? 美少女多いし。


 切れ長な目にウェーブのかかったシルバーブロンドのベランジェール様。

 オレンジがかった髪を毛先だけ緩く巻いた目鼻立ちのハッキリした華やかさのあるアデライト嬢。

 艶のある黒髪をお団子ヘアーにしている、赤い目の美人なお姉さんメイド、イルドガルド。

 水色の涼し気な髪をした儚げな美少女リリアーヌ。

 金髪に碧眼、この世のものとは思えない神が与えたもうた天下御免の美少女エマちゃん。


 凄いね。圧巻だ。ちなみにゴレムスくんはサカモトとお外でのんびりするみたい。


「皆可愛いよね。この馬車の中は楽園かな?」


「ノエルちゃんも可愛いしカッコイイです!」


 隣に座っていたエマちゃんが私の首に抱きつきそう言った。

 私はありがとうとお礼を言いながらエマちゃんの首にチュッとキスをする。


「……最近ノエルはエマに対して少し破廉恥ですわよ?」


「うっ、確かに」


 言われてみればエマちゃんがちょっとずつ過激なスキンシップをする様になったからか、ハードルが下がってってる気がする。


 そうこうしている内に、馬車が止まった。

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