第160話 怒られない為に、今出来ること

 ブラックドラゴンは交渉らしい交渉もせず、すぐさま私に懐いた。


 言われてもいないのにお手をしてしまう所や、しっぽを振って嬉しそうにした所、そして吠えてビームみたいなのが出てしまってからは意気消沈した様に大人しくなった所。

 これらから判断するに多分だけど、以前飼い主か誰かがいたんじゃないかな。はしゃぎ過ぎて嬉ションするみたいにビーム出しちゃったもんだから、飼い主に怒られた事があるんだろうね。


 媚びを売るようにきゅるきゅると、少し口を膨らませるように鳴いてたもん。


 この甘えん坊のブラックドラゴンには名前を付けた。この子は龍であると同時に、私や大量の物資を運ぶ馬の代わりでもある。龍で馬、そう考えた時にピキンと閃いたのだ。


 この子はサカモトだ。


 サカモトはブラックドラゴンと言われているが、実際は煤けたような灰色だ。体は砂やらなんやらを、まるで揚げる直前の揚げ物のように身にまとったきちゃない子。


 体高の高さは恐らく10メートルくらいはあるんじゃなかろうか。マンション数階分、あるいは電柱を見上げるのと同じくらいの高さがある。


 体はゴツゴツトゲトゲした皮か鱗か分からないような物で覆われている。ワニの背中に近いゴツゴツさかな? 魚の鱗みたいにはついてないんだね。


 目は綺麗な金色。レッドアイズですらない。瞳孔が縦に割れているのが特徴的だね。

 体高10メートルを超える四足の、背中に大きな翼膜のはえた黒いドラゴン、それがサカモトだ。


 このサカモトがこのまま王都に向かえば、王都は蜂の巣をつついたように大慌てになってしまう。しっかりと従魔であると分かるようにしよう。


「ゴレムスくん、サカモトの首に首輪付けてくれる? それで鈴もつけて、あと私達のでっかいロゴも見えるようにつけられる?」


 ゴレムスくんは胸をガンと叩いてからアダマンタイトをサカモトの首の付け根あたりに巻き付けた。少し太めのシンプルな首輪に私の身長くらいのロゴをぶら下げて、一緒に鈴もつけてくれた。

 私がイメージした鈴はチリンチリンなる日本的な物だったけど、ゴレムスくんがつけてくれたのは教会の鐘のようなベルだ。


 騒音に気を使ってくれたのか、基本的には鳴らないようになってるみたい。ベルを叩いたり、ロゴとぶつかった時だけカランと高めの音が鳴った。


 首輪というよりはネックレスような感じだけど、外から見て野生とは違いますよと分かれば十分なのだ。


 サカモトは首元のベルを爪で叩き、カランカラン鳴らしながら少し不思議そうに首を傾げた。


「サカモト、それが私達家族の証みたいな物だからとっちゃダメだよ?」


「グルゥ」


 サカモトは嬉しそうに頷いて答える。後は王都までサカモトに乗せてもらって帰ろう。そんで帰ったらリリに協力して貰ってこの汚れきった砂埃まみれのサカモトを丸洗いだ。


「それじゃあ帰るとしますか! サカモト、背中に乗るね!」


 私はゴレムスくんとシャルロットを抱えてサカモトに飛び乗る。ゴレムスくんはかなりの重量があるけど、サカモトからすれば微々たる物らしく、特に問題はなさそうだ。ゴツゴツしたトゲの隙間に座っていざ出発!


「サカモト! 日本の夜明けは近いぜよ!」


「グラァー!」


 私の声に合わせてサカモトが咆哮して飛び上がり、一気に加速していく。その速度は残念ながらシャルロットよりは遅い。だけどサカモトの優秀な所は最大積載量だ。ヒノノニトンより積めると思う。

 私が持って走れば揺れで大変な事になるし、シャルロットでは持つのが大変だ。大っきいカゴみたいなのを作ればシャルロットでも運べるかもしれないけど、そうなれば速度は落ちると思う。


 だけどサカモトであれば沢山積む事もできるし、ティヴィルに帰りましょうってなった時も皆を乗せてひとっ飛びだ。いいぞサカモト! 凄いぞサカモト!


 私が魔力を注げば注ぐ程サカモトは速度を上げていき、元気に飛んでいる。

 いくら首輪を付けていようが、このまま王都へ行ってしまえば王都の人々は首輪を見る前に慌ててしまうだろう。一旦森を抜けた草原エリアで降りてもらう事にした。


 王都が見えない所で地上へ降り立ち、私一人だけサカモトから飛び降りる。


「念の為確認するけど、サカモトって小さくなったりできる?」


 サカモトは悲しそうな声を出しながら首を振った。出来ないらしい。それなら人化も出来ないんだろうね。


「そかそか! 気にしないで。それじゃあ予定通り一旦王都まで私一人行って説明してくるよ。それまで皆で仲良く待っててね!」


 きゅるきゅる鳴くサカモトを撫でてから私は一気に走り出す。

 一人で走るのは久し振りだよ。


 ●


 走り出すと何も聞こえなくなる不思議な草原をびゅんと走って、あっという間に王都へやってきた。

 まだお昼過ぎだからか、南門は結構賑わっている。門番さんに伝えるだけ伝えてさっさと戻りたいが、順番を抜かすみたいで気が引ける。少し面倒だけどちゃんと並ぼう。


 入場の待機列に並び、暫く待っているとようやく私の番が来た。


「身分証を」


「はい、これです」


 ほとんど使っていないEランク冒険者証をイカついおじさんに渡す。


「問題ないな、通って――」


「あ、すいません。今はまだ王都に入らないんですけど、ちょっと言わなきゃいけない事があって……」


「嬢ちゃん、どうしたんだ?」


「えっと、向こうでドラゴン捕まえたんですね? それで従魔登録もしたいので王都へ連れてきたいんですけど、そのまま何も言わずに来ちゃったら驚くでしょう? なので事前に知らせにきたんです」


「ガハハハハハッ! そうかそうか、それは有難い! 何も知らずにドラゴンが飛んできたら大慌てだったぞ」


 おじさんは大笑いした後で私の頭をポンポンと叩いた。


「俺もお嬢ちゃんくらいの時はな? 将来は何にでも成れると信じていた。一流の冒険者、近衛騎士、そして果ては貴族。いつか自分はデカイ事を成し遂げられるんだと、なんの根拠もなく信じていたものだ。いつかドラゴンでもなんでも連れて来い。そん時は門番としてちゃーんと通してやるからな! ガハハハハハッ!」


「……そうですか。えっとじゃあお願いしますね……?」


 この人絶対子供の遊びだと思ってるけどどうしよう? このまま連れてきたら大騒ぎになって怒られるのが目に見えてる。キラーハニービーやアダマンタイトゴーレムと違って、サカモトが空からやって来たらどう考えても王都中パニックだよなぁ……。


 フレデリック様にしっかりと報告してから、王都にお触れかなんかを出してもらおう。『これからサカモトが来るから慌てないでね、はーい作戦』だ。

 私は計画を変更して辺境伯家へ向かうことにした。


 ●


 辺境伯家にはフレデリック様が居なかった。ヘレナ様は他家でお茶会、フレデリック様は他のお貴族様と大事な会合があるらしく出かけているとの事。

 

 いよいよ困ったぞ? 会合の場所聞いて乗り込むか、伝令を出してもらうか、他の人を頼るか。


 もう少しで学園が終わるだろうし、とりあえずリリに報告と相談をしよう。報告、連絡、相談、丸投げだね。報連相丸!

 

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