第158話 目指せドラゴン飛行場

 王城ツアーを終えた翌日。

 王都南門から出て、道すらない草原を南西へ突き進む。正確な場所は全然分からないけど、そもそもの目的地が山なんだから南西に行けば見えてくるでしょう! 山が見えればまっすぐ向かえば良いし、歩いていけないようなところは空を飛べばいい。


 今日の旅はシャルロットと大型モードのゴレムスくんも一緒だ。ゴレムスくんはそれなりの速度で移動するために、四足歩行の巨大な牛の様な姿で走っている。

 私達の中ではゴレムスくんが一番遅いから小型のまま運ぶことも考えたけど、ドラゴンのサイズがわからないから小型だと首輪を作るにはアダマンタイトが全然足りない可能性があるから仕方がない。


 私は地面を穿うがちながら走るゴレムスくんの上に横座りしている。上を見あげると、シャルロットは久し振りの自由なお外を楽しそうに飛び回っている。


 時速何キロくらいかはわからないけど、今のゴレムスくんは馬より速い。普段運動不足のゴレムスくんはこの機会に運動してもらっている。ただ、全身アダマンタイト製のゴレムスくんに運動が必要なのか、そして効果はあるのかもわからないけどね。


 体感的に一時間くらい移動すると、遠くに山が見えてきた。見えては来たけど山がどの程度大きいのかわからないから距離は何とも言えないね。


「じゃあこの辺で少し休憩しよっか! ゴレムスくんもシャルロットもお疲れ様ー」


 私の合図に合わせて二人がゆっくりと止まった。休憩の場所に選んだのは森の手前だ。この森もどこまで続いているのかわからないけど、山まで続いてるなんて事はないと思う。ただ真っ直ぐ走るのも面白くないから、この森でシャルロットと障害物競争をしよう。


 休憩する二人を労うように魔力をたっぷりと食べさせてあげる。


 しばらく休憩した後、早速森へ入る事にした。


「んじゃあ、こっからは森を抜けるまでシャルロットと私の競争だよ! だからゴレムスくんは私と合体ね。形態は任せるよ」


 ゴレムスくんは私をドーム状に包み込むと、体に合わせて張り付くように姿を変えた。


「へーこれにしたんだね。まぁ森を走るなら便利なのかも? ゴレムスくんにしっぽの操作は任せるよ?」


 ゴレムスくんを纏った私は、やたらとトゲや関節の多い悪役みたいな甲冑姿だ。この姿の特徴は、大きな両腕と背中から生えた三本のしっぽ。


 鎧に関節みたいな節が多い分、体の動きはあまり阻害されないし、結構ボディライン自体はスッキリとしている。

 ただ、その分の余ってしまったアダマンタイトを他の部分に回している。それが三本のしっぽと大きな両腕だね。まるで背骨がそのまま体を突き破って出てきたようなゴツゴツとした関節の多い三本の太くて長いしっぽ。私の体にはしっぽが無いから、しっぽの担当はゴレムスくんだ。


 大きな両腕は前腕部分にヒレのような物が付いているが手は剥き出しだ。鎧(紙装甲)だから手を覆われちゃうと使いにくい。

 トゲやら突起やら攻撃的なデザインだけど、ゴレムスくんのアダマンタイトの体積を考えると、デカくするかゴテゴテするかになっちゃうんだよ。


 ガチャガチャと鎧を鳴らしながら軽く跳んで体の調子を確かめる。ゴレムスくんも感覚を確かめているようで、しっぽがドスドスと地面を刺したり、蛇のように動いている。


「シャルロットおまたせ! それじゃあ準備はいいかな? とりあえず森を抜けるまで競争だよ! ただし、何かあったら直ぐに合流すること! いいね?」


 シャルロットはガチガチアゴを鳴らしてから、虹色の羽を出した。結構やる気みたいだ。


「それじゃあよーいドン!」


 シャルロットが光を残しながらな森に突っ込んだのを確認してから私達も森へと入った。森の中はコケや落ち葉で滑りやすかったり、木の根に足を引っ掛けたりと歩くのは大変だ。だけど木の根に足を引っ掛けてもそのまま破壊して終わりだし、滑ってしまってもゴレムスくんがしっぽで支えてくれるから安心だ。


 木々の隙間を縫うように続く、虹色の光を追い掛けて森を駆け抜ける。ゴレムスくんの動かす三本のしっぽが、時に地面を、時に木に突き刺して私の走る方向を調整する。タイミングが合わず、そのまま木に突っ込んでしまうこともあるけどそれも粉砕して終わりだよ。


「やっぱ森の中のシャルロットは速いねぇ。引き剥がされない様にするので精一杯だよ」


 シャルロットは小柄な体を活かして最小限の動きで木を避ける。なんでもありなら私ももっと速度をあげられるが、木のほとんどをぶち破りながら走ることになっちゃうからね。障害物競争で障害物すべて粉砕して走るのはさすがにナンセンスだよ。


 脳を強化してスローモーションにしなければ木を避けられない程スピードを出してるけど大して距離は詰められず、今回の勝負は勝てそうにない。シャルロットはいつの間にあんなに速くなったの?



 ●


 二十分程で森を抜けると、シャルロットがクルクル円を描くように飛びながら待っていた。


「お待たせ! シャルロット速くなったね! 今回はシャルロットの勝ちだよー」


 シャルロットは余っ程嬉しかったのか、オシリを鳴らしながら私の周りを飛び回っている。これがゴレムスくんなら煽ってんのかと思うけど、ウチのシャルロットはそんな子じゃない。

 

 興奮冷めやらぬシャルロットは私を抱えて山に向かって飛び始めた。自分が一番速いから自分に任せてくれって感じなのかな? 甘えるばかりのシャルロットがこんなにも立派になってお母さん感激だよ!


 森を抜けた先に広がっていたのは何もない荒野だった。たまに雑草のようなものが生えている事はあるけど、植物も生物もいるようには見えなかった。


 もしかしたら山にいるドラゴンがここら辺一帯を焼き払ったのかな? まぁアデライト嬢が言ってたのは言い伝えみたいなものだったし、本当にいるかはわからないけどね。


 

 シャルロットに高速で連れて行かれて、ある程度山が近くなっきた。山の山頂の方からは強い圧を感じるね。ドラゴンかどうかはハッキリしないけど、少なくとも強そうな何かがいるのはわかった。ドラゴンが魔力を垂れ流してるからこの辺は生物が居ないのかもしれない。


「シャルロット、山の頂上が見えるくらい高く飛んでくれる?」


 私の指示に従って高く飛び上がる。山の標高はそこまで高くないみたいだね。丁度雲と同じくらいの高さだ。


 山は全体的に荒れ果てていて、山頂は火口のように広く窪んでいる。視力を強化して見ると、そこには一匹のドラゴンが寝そべっていた。

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