第157話 解決策
王妃様のとんでも発言を誰が止めるのか見守っていると、ベランジェール様が声を上げた。
「お母様、王妃が厨房に立つなど以ての外です。諦めてください。それに妖精のスイーツの作り方を簡単に教えられる訳がないでしょう?」
それについては正直どうでもいいっちゃどうでもいいけど、魔法袋は渡さないのにレシピは寄越せだと面白くないのも事実だよね。
リリの手が少し湿っぽくなってるから、ベルレアン辺境伯家的にもちょっと良くないっぽい。それなら尚更教えられないね。
娘に止められる形となった王妃様は、頬を膨らませて席に座った。
「勢いで押し切れるかなって思ったのに、ベランジェールがそちら側につくのは私も予想外ね」
「だって私は皆と遊べばまた食べられるもの。開店準備中のスイーツショップに皆で行ってもいいですし」
ベランジェール様は少し愉悦を含んだ笑みを浮かべながら紅茶を飲んでいる。やっぱり少し仲が微妙なのかな……?
リリはベルレアン辺境伯家への影響が出そうなので緊張の面持ちでことの成り行きを見守っているが、それ以外の人はそこまで興味が無さそう。エマちゃんは政争とはあまり関係ないから良いとして、アデライト嬢はそれでいいのか。
「私も一旦諦めます。ノエルちゃん。いえ、辺境の妖精さん。魔法袋が欲しいならまた功績を挙げてください。私としては噂のスイーツが食べられるのなら渡しても良いのですが、それでは周りが納得しないでしょう。皆が納得できるだけの功績を挙げた時、また会いましょうね。それではごきげんよう」
王妃様は変なテンションをやめて普通に喋ると、そのままメイドを連れて庭園を去っていった。
「ねぇリリ、やっぱあれだね」
「言わないでくださいまし。わたくしも誤って同意しちゃいそうですわ」
それはもう実質同意しちゃってるのでは?
初めてあった王妃様はだいぶ癖の強い人だったね。変なキャラを演じつつ、当たり前に王族としての顔も持ち合わせていた。この国の女性のトップに君臨しているのだから、普通って事は無いだろうと思ってたけどそれにしてもだったわ。
「休憩したはずなのになんだか疲れたわね」
ベランジェール様がそう言うと、リリは頷いた。エマちゃんとアデライト嬢は無関心って感じだったね。
魔法袋を貰うための条件が、褒美を貰えるほどの功績を挙げること。
そう言われても難しいよね。私は自らの意思で功績を挙げたことはない。孤児院の件だって、何でかわからないまま褒美を貰っただけだ。
もっと具体的にこれやってくれたら褒美あげますよって話があれば良かったんだけどな。
「ねぇねぇ。功績って具体的に何だと思う?」
私の質問に、ベランジェール様が顎に指をあてて答えた。
「そうね……。国の抱える問題の解決や、未だかつて誰もなし得なかった事をなす、って感じかしら」
国の抱える問題は、簡単に解決できないから抱えてるんだろう。そうなると現実的なのは人類初の何かをやる方かな? 普通の人が出来ないような事ってなると、王様へイタズラとかが頭をよぎるわ。
「一つ言っておきますけど、国の為になるって前提があるのを忘れないで下さいましね」
「あそうか」
あくまでも褒美を貰う為の功績であって、前人未到であれば何でも良いってわけじゃないか。
「エマちゃんが王様だったらどんな事でご褒美くれる?」
「そうですね……。王都が名前負けしている点を改善できたらご褒美をあげるかもしれません」
「王都は私がいるんだから一番よ? 名前負けなんて失礼ね」
アデライト嬢がエマちゃんに噛み付く。でもそれはそれで問題じゃない?
「それじゃアデライト嬢がベルレアン辺境伯領に引っ越したらベルレアン辺境伯領が一番になるじゃん」
「そうですよ?」
「そうなんだ……。知らなかったわ」
何を当たり前なみたいな顔で言われちゃったよ。でも私は王都についてあまり詳しくないしな。何か簡単に解決できる問題はあるのかな?
「ベランジェール様、王都の問題点って何かありますか?」
「そうね……。王都は全体的に老朽化が進んでいる事や、土地が狭いことが問題ね。それとスラム街付近の治安の悪さも問題視されてるわ。一部貴族は浄化しろと声高に叫んでいるけど、スラムの民も国民よ。そんな事はできるわけも無いし、根本的な問題を解決しない限り別の所にスラム街が形成されるだけね」
私にどうこうできる話じゃなくね? 段々面倒くさくなってきたわ。もう魔法袋はいつか貰えたら貰う程度でいいや。
「無理無理。魔法袋は貰えなくてもいいや。それならドラゴンでも捕まえて空輸できる様にする方が簡単だよ。この辺ってドラゴンいないの?」
「ベランジェール様、教えてはダメですよ。ノエルなら本当にやりかねないです。以前ドラゴンの牙をお土産と言って持ち帰った過去があります」
リリが慌てて首を振って止める。そんな風に言われると余計気になるじゃん!
「エマちゃんは知ってる?」
「ごめんなさい。魔物の生息域については詳しくなくて……」
エマちゃんが眉尻を下げて申し訳なさそうに言う。気にしなくていいんだよと、頭を寄せて肩にグリグリしておく。
「ノエル様、古くから王都南西の山にはブラックドラゴンが住んでいると言われてますよ」
「アデライト! ノエルに余計な事を教えないで下さいまし!」
「余計な事って何? 私はノエル様の疑問に答えただけじゃない。ノエル様が求めるなら私は何でもあげるわよ?」
南西の山がどこかはよくわからないけど、見た事ないし近くではないんだろうな。明日は久し振りにシャルロットと競争しながら向かおうかな!
「シャルロット、明日は久し振りに競争してその山に行こうか! ゴレムスくんも一緒に行こうよ。ドラゴン見つけたら首輪付けないといけないしさ」
シャルロットは嬉しそうに私の胸に顔をこすり付け、ゴレムスくんもヘドバンしてくれた。久し振りに皆でお外にお出かけだ!
「あぁほらノエルがやる気になってしまいましたわ……」
「アデライト嬢はドラゴン捕まえたら乗せてあげるね」
「ええ! どこへでも私を連れ出して下さいね!」
ドラゴンの主食は魔力かな? 魔力なら良いけどお肉とか食べますってなったらエサ困るね。キラーハニービー達は私が魔力を込めた魔導石という魔道具を使う為の電池みたいな物をあげたからエサやりというか支払いは定期的な魔力の補充で済んでるけど、ドラゴンはどうなんだろうね。それで済んだとしても尋常じゃない量の魔力が必要そうだ。
「ベランジェール様、もうノエルは止まりませんわよ?」
「そうみたいね。お母様の不用意な発言でこうなってしまったんですから私のせいじゃないわ」
ドラゴンを捕まえたらちゃんと躾をしないといけない。以前辺境伯領近辺で見つけたレッドドラゴンはシャルロットの事食べようとしたからね。
「先ずは上下関係をしっかりと教え込まないと。いい? シャルロット、ゴレムスくん。ドラゴンが生意気言ったら一発ぶん殴って牙へし折るんだよ? そうしたら泣き出すから、その時にお説教だよ。一発カマしてへこんでる所にお説教が一番五臓六腑に染み渡るからね」
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