第145話 お泊まり会 スイーツで調教編
私がリリとエマちゃんを揉みくちゃにしてると、王女様は少し羨ましそうにこっちを見ていた。
その姿は迷子の子供が、親と手を繋いでいる他所の子供を見てしまったような、寂しさや不安がないまぜになったような瞳だった。
王女様とは言っても、まだまだ思春期まっさかりだ。思う事は色々あるんだろう。
私が王女様に襲い掛かるように揉みくちゃにしてしまえば、イルドガルドさんが暴れるかもしれない。そうなると面倒なので、発想の転換をする。
私はトランプを片付けてから、ベッドの中央で大の字になる。
「さあ、王女様! どこからでもかかって来なさい!」
私が襲うからイルドガルドさんは襲いかかってくるのだから、王女様が自らの意思で襲いかかってくればいい。
「リリアーヌ、ノエルは何をしているの?」
「……ノエルなりにベランジェール様の事を思ってこうしてるんだと思いますわ。できるのであれば、先程わたくし達がやっていた様にやってみてくださいまし」
リリは呆れたようにそう言うが、王女様が動くよりも先にエマちゃんが動いた。私のお腹の上に乗り、覆い被さるようにしてギュッとしがみついた。
「うわ、懐かしいね! 昔よく一緒に寝る時こうしてたよねぇ」
「フフッ、覚えてたんですね」
「覚えてるよ〜。ほら王女様も早く来なって。何グズグズしてんですか」
「いやノエル、ベランジェール様になんてことを……」
聞き分けの悪い子は多少厳しくいくんだよ!
「えっと……仕方ないわね。失礼するわ」
王女様はそう言って私に寄り添うようにくっついた。エマちゃんが揉みくちゃにしないでしがみついたから、王女様も添い寝みたいになっちゃったね。
私は王女様の頭の下に腕を入れてグッと抱き寄せる。少し体を固くしたけど、腕を撫でていると徐々に力を抜いていった。
「人って誰かと触れ合う事で安心したり、苛立ちがなくなったりするんだって。王女様は誰かと触れ合ってる?」
「しないわね。だってこれでも王女よ?」
「それがどうした! 私とエマちゃんは平民だよ。リリは貴族だよ。王女様は王女だよ。でも人と触れ合う事で安らぐのは人として持ち合わせてる機能なの。そこに身分は関係ない」
リリは王女様とは反対側から私に抱き着いた。
「……そうですわね。わたくしもノエルにくっ付いて寝ている時は凄く安心しますわ」
「…………自慢ですか?」
私の上に乗っかってるエマちゃんが顔だけ上げてリリに文句を言う。顔を上げた事で出来たスキマにシャルロットが入り込む事で遂に完成した!
左手側に王女様、右手側にリリ、そして体の上にエマちゃんとシャルロット。これは両手に花所の騒ぎではない!
いつものメイドさん、見ているか。私はハーレムを築いたぞ!
「……そうね。少なくともノエルにとっては王女という肩書きはあだ名の様な物らしい。さすがは妖精ね、人の決まり事には縛られないって事かしら」
「王女様が縛られすぎなんじゃない? 知らないですけど。さてと、あんま不敬を働いているとイルドガルドさんにお尻を叩かれちゃいそうだからそろそろ起きるよー」
私の合図でシャルロット以外が順番に離れていった。遊びが終われば腹ごなしだね! 念願のおやつタイムといきましょう!
私はベッドからおりてバスケットを持ってくる。
「イルドガルドさん、毒味が必要なら食べてよ。これから私は王女様にこのバスケットの中身をたらふく食べさせるつもりだよ。王族のおやつがどんなものか知らないけど、私が作るスイーツは救済であり、同時に毒だ。覚悟を持って食べなさい、イルドガルド」
私は話してる途中から魔力を練り、威厳を持ってイルドガルドさんにバスケットを向けた。
先ずはポテトチップスのバスケットをオープン!
イルドガルドさんはしげしげと観察したあと、一枚手に取って小さくひと口食べた。この人マジで毒だと思ってるのかひと口が小さすぎるわ。
だけどイルドガルドさんは小さくパリパリと食べ進め、二枚三枚と手を伸ばしたところで私はパタッとバスケットのフタを閉じる。
「中毒症状が出たね。まさかイルドガルドさんが王女様にも召し上がって頂くおやつを我が物顔で食べ進めるとは……。まぁいいでしょう」
私に言われて、イルドガルドさんは意識を取り戻した。次にナンチャッテタルトのバスケットをあける。
これまたイルドガルドさんはしげしげと観察したあと、ゴクリと喉を鳴らしてひと口で食べた。しょっぱいもの食べた後にクッキーと生クリームとフルーツの甘さがひとつになったこのナンチャッテタルトはさぞかし効くだろう。
私がポテチのバスケットを開けばそれを食べ、ナンチャッテタルトのバスケットを開ければそれを食べる。イルドガルドさんは甘い物としょっぱい物の無限ループに入った。
「イルドガルドよ、お前の毒味とは王女様の分まで食べる事を言うのかな? 違うだろう? だが体は正直だ。意志とは無関係に手が動いているぞ?」
「くっ……。ベランジェール様、申し訳ありません。私はこの悪魔に魂を売り渡してしまいそうです……」
「売り渡してしまいそう? 違う違う、もう手遅れなんだよ。イルドガルド。君の魂はもう私の物だ。その証拠を見せよう」
私はプチシュークリームを取り出し、イルドガルドさんの口に近付ける。
「正直に言え、イルドガルド。これは毒味か? 王女様の為か? 違うだろう。君が、ただ、食べたいのだ」
苦悶の表情を浮かべるイルドガルドさんの唇にシュークリームをソフトタッチする。抵抗したところで無意味だ。何故ならイルドガルドさんはどちらにしろ毒味をしなければならないんだからね。
「フフッ。どうだ? 今君は口を開けようとしているね? 本当はただ食べたいだけなんだ。でも私は優しいからね、認めたくないイルドガルドに言い訳を用意してあげよう。これは毒味だ、王女様の為だ、そうだろう?」
「そう……です……」
「そうだ、なら遠慮せず口を開きなさい。だってこれは毒味なんだからね、君の仕事だよイルドガルド。……大丈夫さ、誰にも君の本心はわからない」
イルドガルドさんは毒味、仕事、王女様の為と自分に言い聞かせる様に呟いている。
「そうだよ、イルドガルド。でも私と君の間だけで伝わる暗号を用意しよう。私にも忠誠を誓うならシュークリームを二つ食べなさい。それが出来ないなら毒味の為にひとつだけ食べなさい。さぁ君の本当の心を見せてくれ、イルドガルド」
私は両手にシュークリームを持ち、先ずはひとつをイルドガルドさんの口に放り込んだ。時間がたってサクサクではなくなってしまったけど、それでもシットリして美味しい一口サイズのシュークリームだ。イルドガルドさんは目を輝かせて食べている。
問題はもうひとつ残ったシュークリーム。これを食べるかどうか。
私はイルドガルドさんのアゴをクイッと持ち上げてから唇を親指で軽く撫でる。
「さぁ。イルドガルド、もうひとつお食べ。あーん……」
イルドガルドさんは唇を噛み締めて、目を逸らした。中々強情らしい。だがここまで来たら食べさせたい。その方がきっと面白い!
「おや? いらないのかい? ならそこで指を咥えて見ているがいいさ。私たちがスイーツを食べる姿を、自分が一つしか食べれなかったスイーツをパクパクと気軽に食べる姿を……。時間と共に薄れていく味を必死に繋ぎ止めながら見ているといい。ねぇ、イルドガルド。さっき食べたシュークリームはどんな味だった? どんな甘さだった? 香りは? 食感は? まだハッキリと思い出せるかな?」
イルドガルドさんは泣きそうな顔になっている。意識しなければ何も思わなかっただろうが、正確に思い出せるかと聞かれれば、その輪郭が
「大丈夫だよ、イルドガルド。私たちだけの暗号だ。ただ二つ食べるだけ、それだけなんだ。ほら、あーん……」
ブツブツと呟いたイルドガルドさんは体から力が抜けて遂にその口を開いた。
「あ、あーん」
その口にプチシュークリームを入れて食べさせて上げる。
「美味しい? イルドガルド」
「はい……ノエル様」
イルドガルドさんはとろんとした目で私を見つめながらそう言った。
堕ちた……ッ!! イルドガルドは堕ちたぞぉ!
「あの二人はコソコソと何をしてるの?」
「恐らくノエルの悪癖が出ているのかと。調教ですわね」
「私も食べさせて欲しいです」
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