第143話 お泊まり会のトランプ ババ抜き編
イルドガルドさんと互いに牽制し合った後は握手を交わした。私は王女様に危害を加えないし、イルドガルドさんも私の大事なものには手を出さないと契約が成された。はずだ。
正直わからないけど、漫画とかだと握手しとけばそれっぽかったしね。カッコつけた。
「あ、そうだ。予め王女様とイルドガルドさんには紹介しておくね。シャルロットおいで」
背中に張り付いていたシャルロットは魔法をといて姿を現した。今のところシャルロットが隠れている時に見破れた人はほとんどいない。強い人は何となく魔力を感じたりできるみたいだけど、私の魔力を食べ続けているシャルロットはほとんど私と同質なんじゃないかな? くっ付いていたら見破れないと思う。
「この子はシャルロットで私の家族です。とっても良い子で頭も良いので仲良くして下さいね。シャルロット、ご挨拶」
ガチガチ
シャルロットのガチガチ挨拶を聞いて、イルドガルドさんが一瞬警戒したけど仕方ない。キラーハニービーのガチガチは威嚇って話だからね。シャルロットはもうなんて名前の魔物かわからないけど。
「それで、これだけの人数でお泊まり会って何をするんですの?」
「それについてはちゃーんと考えてるよ。じゃーん!」
私は持ってきた荷物の中からとあるオモチャを取り出した。世界に一つしかない特別なオモチャだ。
「トランプですわね。辺境伯領から持ってきてたんですのね」
リリは何回もやった事があるから知っているけど、エマちゃんも王女様も初見だから首を傾げている。
このトランプを作るのは正直結構苦労した。というのも、トランプに出来るようないい感じの固くて薄い紙が存在しなかったのだ。木の板では厚いし、薄くしてしまえば強度の問題がある。苦肉の策として使ったのが我らがアダマンタイト。
ゴレムスくん先生に多額のアダマンタイトを献上することで一枚一枚丁寧に作り上げたトランプは、直ぐに完成とはいかなかった。硬くて物凄く薄い金属なんて危なすぎるのだ。言ってみれば刃物みたいな物だからね。手に持ってゲームをする場合、ほっぺとかに渦巻きマークがついたスーツ姿の人形が三輪車に乗って開催するゲームみたいになってしまう。
そこで仕方なく、木枠をスマホケースみたいにしてトランプ一枚一枚を収めている。
つまりわりと分厚い。本末転倒の一品である。
皆をベッドに連れて行き、顔を寄せ合うように寝転がった。未だ何もわかっていない二人に説明しながら、ベッドに広げたトランプをジャラジャラかき混ぜる。
「これはトランプって言って、リリと遊びたくて開発した一点物です。色んな遊びができる万能カードなんだけど、先ずは入門編として分かりやすいババ抜きって遊びをするよ〜」
私はトランプを全て束ねてから、一枚一枚皆に配っていく。手札が分厚くなるから大変なんだよね……。
「皆に大体同じ数が渡ったと思うんだけど、とりあえず一枚手に取ってみて? そこに数字と絵が書いてあると思うの。例えば私のカードだと……これかな。5のカード。私の手元には5のカードはもう一枚あるので二枚だね。そしたらこれを捨てます」
実際に手本を見せながらエマちゃんと王女様に説明していく。
●
時間がかかったけど、一通り説明も終わってようやく準備が出来た。
「それじゃあ第一回ババ抜き大会始めるよー! イェーイ!!」
「きゃあああああ!」
「エマって子はなんで悲鳴あげたの? 平気?」
失礼な、平気だよ。それと悲鳴じゃなくて歓声ね?
「気にしないでくださいまし。彼女達のお決まりなんです」
「とりあえず順番はテキトーでいっか。私が王女様から取るね」
序盤に駆け引きもなかろう。サクサクっと行くよー! パッと引いてもペアはできず、一枚手札が増えるだけだった。
「じゃあ次は王女様がリリから一枚取って」
王女様は初めてのババ抜きに真剣だ。まだ人数も手札も多い分、ババを引かなくても手札が減るとは限らないのにね。
悩んで悩んで、はよしろって言いそうになった頃、王女様は一枚のカードを引いた。
「やった! やったわ! 8のカードが揃った! これで私の勝ちが一歩近付いたわ!」
「おめでとうございます」
……ババ抜きの初手でこんなに嬉しそうな人初めて見たわ。ぶっちゃけカード少なくなるまでは作業みたいなもんなんだけどな。楽しんでるなら良いけど。
「それではわたくしがエマから引けばいいかしら? これよ。……残念」
「私はノエルちゃんから引けばいいんですよね? ん〜これです! やった!」
んふ、喜ぶエマちゃん可愛え。
そんな感じでゲームは進み、各々手札が少なくなってきた。今ババを持っているのは恐らくリリだ。王女様やエマちゃんであれば、初見のババ抜きでババを引けば反応してしまう。それが今までなかったのだから、スタート時からリリの手札にあるのだろう。
そろそろ終盤だから、私も本気をだそう。王女様からカードを引く前に、ジーッと王女様の瞳を見つめる。
「まさかッ! ベランジェール様! ノエルの目を見てはダメです!」
「え?」
「もう遅いッ!」
私は一枚のカードを引き、手札を捨てた。さすがはリリ、トランプにおいてこの世界二位の実戦経験を持つ女は一味違うね。私の策を早くも見破ったか。
「どういうこと? リリアーヌ、説明を」
「ノエルは相手の瞳を見ることで、手札を読む力があるんですの。わたくしはそれを魔眼と呼んでおります」
「そんなことが……? 勝ち目がないじゃない!」
「いえ、ノエルの瞳を見なければ良いのですわ。魔眼の対策はそれが一番です」
何度も私とトランプしてきて煮え湯を飲まされてきたからね、リリは対策もわかっている。魔眼だなんだとリリは言うけど、ただ身体強化で視力を上げて、相手の眼球に反射してる手札を覗き見てるだけだよ。単純なトリックだね。
しかし、この魔眼には代償がある。
私が王女様を見るとサッと目を逸らし、リリを見ても目を逸らされる。エマちゃんも恥ずかしそうに目を逸らす。
……嫌われたみたいで切ない、それが魔眼の代償。思春期には重すぎる代償だよ……。悲しさを紛らわすためにシャルロット撫でよ。
王女様もリリからカードを引いたが、残念ながらペアにはならなかったようだ。今度はリリがカードを引く番だ。
「ん〜どれにしましょう。少なくなってくると一手が重要ですから、悩みますわよね」
リリはそんな事を言いながら悩む素振りで上を見た。
「まさかッ! エマちゃん! 手札を置いて!」
「え?」
「遅いですわッ! これです!」
リリはカードを引いて手札を捨てた。クソッ、間に合わなかったか……。
「ノエルちゃん、今のはどういうこと?」
「エマちゃん、頭の上を見てご覧」
エマちゃんは私に言われた通り頭上を見上げた。
「氷……ですか?」
「そう、リリは水と氷を使ってうまく反射させて手札を覗き見るんだよ。私はそれを
「それは普通に反則では?」
王女様がボソリと言う。だがしかし、その考えは甘い。ババ抜きは前世から輸入した遊びだ、つまり魔法を禁ずる様なルールはないのだ……ッ!
「フフフッ、悔しければ魔法でもなんでも使ったらいいんですわよ。これは遊びであり、訓練でもあります。ノエル、そうですわよね?」
「え? あ、うん」
以前魔眼を使った時、卑怯だなんだ言われてそういったかも。魔法の精密な操作と応用力が求められる楽しく学べる凄い遊びみたいな? テキトーにそんなこと言った気がするよ。
「そうなんですね。じゃあ私も少し本気出します!」
エマちゃんがふんすと握りこぶしを作って宣言する。エマちゃんは魔法使えないし、どういう事なんだ?
私はエマちゃんの手札を読んで自分の手札と見比べる。ペアになるのは一枚かな?
エマちゃんはカードを一枚一枚丁寧に触りながら慎重に選んでいく。
「ノエルちゃん、ありがとう。これです」
そう言って引いたのは取られたくなかった一枚。エマちゃんは手札を捨てた。
「どういうこと? エマも魔法が使えるの? 使えないのは私だけ?」
「いえ、エマは魔法が使えないはずですわ」
「フフフッ。魔法は使えませんけどどれを引けば良いかはわかります。ノエルちゃんはその性格上無意識に引かれたくないカードを少しだけ強く握ってしまうんです。なので感触を確かめれば分かるんですよ」
馬鹿なッ! それじゃまんま下手くそな素人じゃん! だけどまだ勝負はこれからだよ!
私は嫌われてしまったから魔眼が使えず、リリもカードを伏せられて覗き見ができなくなった。そしてエマちゃんは……。
「フフッ、フフフ。ノエルちゃん、ありがとう。さっき私に力を入れ過ぎって言われたから今度は不自然に力を抜くと思いました。私はいつだってノエルちゃんの事を考えてるので、ノエルちゃんの考えていることはわかりますよ。これで私の勝ちです!」
勝利宣言とともに引いたカードでエマちゃんは一位で上がった。そして二位はタダの運だけで異能力バトルについてきた王女様、そして三位はリリ。リリも私の思考を誘導して勝ちを拾って行った。
この世界で一番トランプの実戦経験があるのに最下位とは解せぬ……。
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