第136話 事件のあらまし
陛下からお小遣い(現物)を貰ったが、まだ謁見は終わりではないみたい。じゃあおつかれっしたーって帰りたかったけど、フレデリック様も陛下も動かないからしょうがないね。
「時に辺境伯領の妖精よ。そなたは魔法が堪能だと聞いたがどのような魔法だ?」
この質問はくるだろうと思ってたけど、相変わらず見せるのが難しいんだよなぁ。あ、良いこと考えた!
「お見せした方が早いでしょう。ではよく見ていてください。このほうけ――」
「陛下、ノエルは身体強化の魔法が使えます。ですので見せるとなっても中々難しいかと」
私が早速宝剣をバリムシャってしようと思ったけど、フレデリック様が割って入った。焦った感じだったし、宝剣食べるのはダメだったみたい。
「ふむ。身体強化か。マルスタンは知っているか?」
「勿論です陛下。王宮でも少数ですが使い手が働いております。人より幾分力が強いのが特徴ですな。身体強化の魔法自体は魔法の中では珍しくない種類かと」
あのおじいちゃんはマルスタンって言うらしい。魔法に関する質問をおじいちゃんにするって事は、魔法魔術学校の校長先生に似てるだけあって魔法関連の有識者なんだろうね。
「そうか……」
陛下は何かを考え込む様に黙り込んだ。じっくりと考えた方がいいと思うけど、先ずはお客さん帰そうよ。呼んどいていつまでも床に跪かせて放置とか人としてどうかと思うな。
そんな事をフレデリック様にテレパシーで送ろうとしていると、陛下が顔をあげた。
「最後に妖精よ、そなたはどこを目指している」
ここだよ、ここ。お前が呼んだんだろ! 何人を迷子みたいに言うんだよ。さっさと帰りたい。
「強いて言うなら……家、ですかね」
「ほう……。そうか」
陛下はまた眉間に皺を寄せて黙り込んでしまった。さすがにマズいと思ったのか、今まで一度も喋らなかった宰相っぽいオジサンが話し始めた。
「ではこれにて謁見を終了します」
「はっ!」
「……はっ!」
よくわからないけどこれで終わりらしい。すっかり気が抜けた私は、フレデリック様の後に続いて宝剣なんちゃらを杖代わりにつきながら謁見の間を後にした。なんか結局意味はわからなかったし、在庫整理に付き合わされた感が否めない。とりあえずシャルロットとゴレムスくんを迎えに行こう。
●
帰りの馬車の中でフレデリック様もまた眉間に皺を寄せていた。前世も含めれば私もいい歳だけど、皆みたいに思い悩むことはない。迷った時こそシンプルに。例えば道に迷っても、私は取り敢えず歩く。地球は丸いからいつかまた同じ所へぐるっと戻ってこれるからね。動かなきゃ目的地にはたどり着けないし、最悪元の場所に戻ってこれるんだから考えるより先に動く方がいい。
でもフレデリック様も陛下も、たくさんの人の命を背負ってるからそうもいかないんだろう。私だって団体行動なら勝手に動いたりはしない。
「フレデリック様、コレいります? 良かったらあげるんで元気だしてください」
私はフレデリック様に宝剣ナントカをプレゼントする。私はいらないけど、気分転換に雲でも割って遊んだらいいよ。
「……いや、結構」
宝剣人気無さすぎでしょ。要らないから陛下は褒美として使って、貰った私も要らないからプレゼントしようとしたのに、フレデリック様も要らないときた。ティヴィルに持って帰るのも邪魔だし、孤児院にでも置いとこうかな。
●
夜、フレデリック様に呼び出されて執務室にやってきた。
「失礼します。こんな時間までお仕事大変ですね」
「ああ。ノエルちゃんに言われると複雑だけどね。それで今日の陛下との謁見の内容、覚えてるかい?」
「覚えてますよ。陛下からゴミを押し付けられましたね」
「それ不敬罪適用出来ると思うから外では言わないように」
なにそれ、完全に罠じゃん。陛下がレンチンするのに使ったクシャクシャのラップ渡してきて、「何これゴミ?」って言ったら不敬罪とか身分制度えげつないね。
「どうやら孤児院の件だったようだよ。これならわかるよね?」
「私が援助してる孤児院ですか? リリに調べて貰って、フレデリック様に手紙出したので指示待ちでしたけど」
「ふむ。手紙は行き違いになってるようだから仕方がないな。それじゃあリリに聞いてるだろうから説明はざっくりにするよ」
フレデリック様の話はこうだった。
ティボデ男爵って人の部下が孤児院の運営資金を着服してた。そして証拠はないけど、マルリアーヴ侯爵って貴族派の人が力を貸してやらせてたらしい。ここまではリリにも聞いてるね。
そして私が孤児院でスイーツショップをオープンして窮状を訴えたところ、ヴォルテーヌ公爵夫人が事件解決に向けて動き出したらしい。あの史上初、アダマンタイト製ロングスプーン二刀流の人だね。
その結果実行犯は投獄。実行犯は自分が勝手にやったと主張しているらしい。そしてティボデ男爵は部下の責任を取る形で着服したお金の返還と賠償金の支払いが命じられた。それとティボデ男爵の寄親として監督責任がある、とかなり強引にマルリアーヴ侯爵にも罰金を課したそうだ。
そのきっかけとなったのが私のスイーツショップだったから、陛下は褒美をとらせたらしい。
「そうですか……。私あんまり関係ないですよね? これ」
「それがそうでもない。ヴォルテーヌ公爵夫人に褒美をとらせようとしたら夫人は拒否したそうだ。自分は妖精のお願いに答えただけだから、と」
「それ私じゃないですからね? 私そんなのお願いしてませんから」
冤罪だぞ! 孤児院こうなってますー、だから買ってね! とは言ったけど何としても犯人捕まえろみたいな事は言ってない。
「はぁ……。まぁそう言うとは思ってたよ。ノエルちゃんはあくまでもスイーツショップをオープンして、孤児院の窮状を訴えて、ヴォルテーヌ公爵夫人にロングスプーンを渡しただけ、そう言うんだろう?」
言うも何もそのまんまだよ。私は頷く。
「それが例え、スイーツショップで多くの注目を集めて、隠蔽できない状況下で孤児院の運営資金が着服されているのを広め、多くの貴族が見守る中ロングスプーンを授けたとしても、ノエルちゃんは事件に関しては何もしていない。ヴォルテーヌ公爵夫人が勝手にやった。そういう事だろう?」
わかってるじゃないですか。私はなーんにもしてません! リリに怒られたくないからね。
フレデリック様は頭を押さえて話を続けた。
「商業ギルドのギルマスも処罰されて、商業ギルドも混乱してるからしばらくは大人しくしててね?」
「じゃあ宝剣なんちゃらをギルドに売るのはやめた方がいいですか?」
「陛下に下賜された物を売るんじゃないよ全く……」
好きにしろ(使えないけど売るのも禁止)とはこれ如何に。マジで呪いのアイテムじゃん。
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