第135話 陛下との謁見
今私は馬車で王城に向かっている。昨日の今日で早速謁見だとは思ってなかった。招待状あったらそんなフリーパスみたいにサラッと会いに行けるとは思ってなかったよ。
「いいね? 何度も言うけど、基本的には私の真似をすること」
「はい。それと陛下に何か言われたら、はは! ありがたき幸せ! ですよね?」
「そうだね。あとコチラから話し掛けたりもしちゃダメだよ。それから――」
こんな感じで朝からずっと同じ話を繰り返している。色々作法はあるみたいだけど、細かい事までは気にしない方らしい。だから最低限それっぽく振る舞えていれば一応大丈夫なんだってさ。
それで男女で作法は変わってくるから今日も私は男装だ。
「あと、シャルロットくんもゴレムスくんも王城の中には入れないからね?」
「はい……」
私はシャルロットをギュッと抱いて、ゴレムスくんを足で挟む。魔物だから王城内に連れてくのはダメなんだってさ。だから馬車と一緒に預けるらしい。
「シャルロット、私がいない間に酷いことしようとする人がいたら反撃するんだよ? ゴレムスくんもシャルロットの事守ってあげてね? それとゴレムスくんはいざとなったらアダマンタイトは捨てて核だけでも逃げるんだよ?」
シャルロットはガチガチとアゴを鳴らして、ゴレムスくんもヘドバンしている。いのちだいじに、だ。ゴレムスくんなんて極論核さえ無事ならアダマンタイトはいくらでも換えが効くからね。
「できれば反撃して欲しくはないが……完全に安全とも言い切れないからなぁ……」
「何かあったら直ぐに私を呼んでね? シャルロットを襲うような悪い奴はあの時のドラゴンみたいに歯をへし折ってあげる」
「……置いてくるべきだったかなぁ」
シャルロットは私の胸に顔を擦り付けて甘えている。ほとんど一緒にいるから離れる時はいつも寂しそうにするんだよね。一方ゴレムスくんはマイペースだよ。
そんなこんなで馬車は止まった。馬車から降りて、馬や従魔を管理する人にシャルロット達を預ける。その際に何かあったらどうなるかわかりますよねって魔力マシマシで圧をかけておいた。顔を青くして頷いていたし、まるで貴賓のように丁寧にシャルロット達を迎えてたから大丈夫でしょう。
王城内は綺麗なメイドさんに案内してもらっている。広い廊下に、所々ある絵画やツボ、それと中に入ってる人がいるのかわからない甲冑なんかもある。
キョロキョロしながら歩く私を、フレデリック様は仕切りに見ていた。さすがに勝手にどっか行ったりしないし、触ったりしないから大丈夫だよ。
「フレデリック様、そんなに心配なら手でも繋ぎますか?」
「……いや、いい。簡単に振り払えるんだから意味ないでしょ」
「そこは信頼してるからって言って欲しかったですね」
「フフフッ、仲がよろしいんですね」
「そうですね。フレデリック様はいつも、何かあったら直ぐに言うんだよと気遣ってくれます。お優しい方ですよ」
笑ったメイドさんにフレデリック様の営業をしたけど、当の本人は何とも言えない顔をしていた。
歩く事数分、三メートルくらいはありそうな大きな扉の前に着いた。
「いいね、基本的には私のマネをして、返事はありがたき幸せ。もし返答に困るような事を言われたら、余計な事は言わずに黙っていること。そしたら私が答えるから。いいね?」
「わかってますって……」
信用がないのか、それともそれだけ陛下との謁見は神経質になる事なのかわからないけど、さすがにしつこい。一周回ってフリかと思っちゃうよ。
このまま直ぐに入るのかと思ったら扉の前でしばらく待つみたい。誰かが謁見中なのか、はたまた準備中なのかわからないけどテンポ悪いね。予約したのに待たされる美容院みたいな気分だ。
さらに待つこと数分。扉が空いて、中から豪奢な服を着た魔法魔術学校の校長先生みたいなおじいちゃんが出てきた。この人が陛下? それとも謁見してた人?
「フレデリック殿、お待たせして申し訳ないね。そちらが?」
「ええ。ノエルです」
「うえっと……ノエルです」
「ふむ………………。可愛い娘じゃな」
おじいちゃんは私をしげしげと観察しているようで、微妙に私を見ていないような変な感じで観察してた。そして結局誰なの?
「おっと、こんな所にいてもしょうがないの。中で陛下がお待ちじゃ。準備はいいかの?」
フレデリック様がこっちを見たので頷いて答える。私はいつでも完璧だよ。むしろ待たせたのは陛下だよ。
「では行くとするかの」
おじいちゃんが大きくて立派な扉を少しだけ開けて中に入っていくので、私達もそれに続いて中へと入った。
真っ赤な絨毯の敷かれた謁見の間にはほとんど人がいなかった。イメージではひな壇芸人みたいに貴族がたくさん並んでると思ったんだけど、いたのは騎士数名と陛下っぽい人、それと宰相っぽいおじさん。あまりジロジロ見ては失礼だろうから、うつむき加減でフレデリック様を視界に入れながら一歩後ろくらいを歩く。
フレデリック様が止まるのに合わせて私も止まり、片膝をついて頭を下げる。
「おもてをあげよ」
フレデリック様が顔を上げたから私もあげる。私の意識は全てフレデリック様に注がれているよ。陛下に謁見するフレデリック様に謁見している気分だ。
使いにくそうな背もたれの長ーい椅子に座ってるオジサンが陛下なんだろう。四十代くらいのシルバーブロンドの眼光が鋭いイケオジだね。その近くに立っているのがさっきのおじいちゃんと、陛下と同年代くらいのオジサン。この謁見の間、オジサン率高めだ。
「余がアルテュール・フローラン・モンテルジナだ。そなたが噂のベルレアン辺境伯領の妖精だな?」
「左様でございます」
返事していいのか悩んでたらフレデリック様が答えてくれた。どうやら私は国王陛下お墨付きでベルレアン辺境伯領の妖精になったみたい! いつか年取ったら返上しよう。妖精(老婆)はしんどいものがあるからね。
「フレデリック、今回は非公式の場だ。そう硬くならんでいい。さて、辺境伯領の妖精よ」
何だろうか。そもそも何で呼び出されたかもわからないからね。
「此度の働き、誠に大義だった。あのままであれば子供を蔑ろにした愚王の
……何の話? 前世のお婆ちゃんが、相手が理解できる言葉で喋らないのはバカのする事だって言ってたぞ! そんなのは独り言と一緒だって。
フレデリック様もジトっとした目で私を見てる。目が如実に語ってるよ。なんの報告も受けてないぞって。安心して、私も知らないから仲間だよ!
「王室をバカにしているマルリアーヴを一泡吹かせてやる口実ができたのが何よりだな。して、褒美をとらせたいの――」
「はっ! ありがたき幸せ!!」
ここだと思って食い気味に言っちゃった。卑しん坊だと思われたかな? なんのこっちゃわからないけど、ご褒美貰えるなら貰っておきたい。魔法ぶっくろ! 魔法ぶっくろ!
「褒美は何がよいか」
「でし――」
「陛下の御心のままに!!」
フレデリック様が割って入るようにそう言った。なに、宮廷作法みたいなのでご褒美何がいいか聞かれたらそうやって答えないといけないの? リクエスト出来ないとかご褒美ガチャじゃん。
それならウルレアの魔法袋出て欲しい! ワンチャン! ワンチャン!
「ふむ。ではこれをやろう。宝剣ファルゼスだ。雲を割ったと言われる王国に伝わる宝だ」
うっわいらな。ゴミじゃん。レアリティSRくらいじゃない? 運営だけが当たりだと言い張るタイプのやつだ。
フカフカな専用の台みたいなのに乗せられた煌びやかな剣を、おじいちゃんが持ってきた。最初から用意してあるとかマジでおねだり禁止だったみたい。
私はおじいちゃんから両手で有り難い雰囲気を出しながら受け取る。
「アリガタキシアワセー」
なんだよ宝剣ファルゼスってカッコイイ名前しておきながら雲を割るとか、ただの宴会芸じゃん。私人生二回目だけど雲割りたかった事一度もないもん。ただの一発芸だ。しかも二回目は一切ウケないタイプのやつ。
武器としてもどうせアダマンタイト棍棒より柔らかいだろうし……。テンションガタ落ちである。
「今日からその宝剣ファルゼスはそなたの物だ。好きにするが良い」
じゃあ売ろうかな。
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