第134話 ちょっぴりお別れ
モーセの海割りみたいな道を抜けた先にはフレデリック様達が待っていた。娘とのしばしのお別れだと言うのに、何故だか額に青筋を浮かべている。
「リリアーヌ。これはどういう事かな?」
「お父様、わたくしが聞きたいくらいですわ。来たらもうこんな事になっておりましたもの」
フレデリック様とリリが私を見る。説明しろって事ね。
「えっとですね。リリを迎えに行く途中、幼なじみのエマちゃんがオスに襲われていたんです! なので助けました! そしたらこうなりました!」
「説明が雑ですわね……」
フレデリック様とリリが今度はエマちゃんを見る。ヘレナ様はずーっとエマちゃんを見てる。流石はヘレナ様、エマちゃんの可愛さを網膜に焼き付けようとするとはお目が高いね。
「辺境伯様、奥様、お初にお目にかかります。セラジール商会会長ジェルマンの曾孫、エマと申します」
エマちゃんが膝上スカートの端を摘んでちょんとカーテシーをする。うん、きゃわいい。
「ああ、話は聞いているよ。君があのエマか」
ヘレナ様は頭を下げたままのエマちゃんに近づいてからギュッと抱きしめた。
「私はヘレナよ。アレクの言う通り綺麗な子ねえ。ウチの子になる?」
「えっと……」
突然の申し出にエマちゃんは困り眉だね。私はヘレナ様とは反対側からエマちゃんに抱きついた。
「ダメダメ! ダメですよ! エマちゃんは私のですからね! リリに氷漬けにしてもらって永遠の中で私と共に過ごすんですから」
「……ふむ、人類の為には悪くないかもしれないな」
そうでしょう! 制服姿のエマちゃんは人類を狂わせてしまう魔性の魅力を秘めてるからね。私が一人でしっかりと管理するよ。いや、リリも纏めて管理しよう!
「りょ、猟奇的ですわ……。エマも嫌なら嫌って言うんですのよ?」
「できれば優しくしてくださいね……?」
エマちゃんは私の顔を見ないで、少し頬を赤らめながらはにかんだ。
なんだろう……。今のエマちゃんを見てると私の中の野生が目覚めそうになる!
「事情はわかった。いや、正直わからない。襲われていた少女を助けたからといってこんなことにはならないが……それはもういい、諦めよう」
フレデリック様は疲れた様にため息をついた。領地から王都までの移動は長旅だからね。一日二日程度では体力も回復しないよね。
「それよりも、リリアーヌおいで」
フレデリック様が両手を広げるとリリがそっと抱きついた。リリがフレデリック様に甘える姿ってあまり見た事がないかも。
「勉強を頑張りなさい。でも無理はするんじゃないよ? リリアーヌは頑張りすぎるきらいがあるからね。お父様はそれが心配だ」
「大丈夫ですわよ。ここ何年かで十分鍛えられましたわ。お父様こそ御無理はなさらないで下さいましね。学園にいる間はわたくしが止めることはできませんので」
「……今からでも入学やめない?」
「ウフフ、もうお父様ったら!」
「いや冗談では……」
こういうのを見ると、私も家族に会いたくなっちゃうな。寂しさを紛らわせる様にエマちゃんとシャルロットをギュッと抱きしめる。エマちゃん柔らかいね。
「うにゅ」
「エマちゃんエリーズさんとはお別れしたの?」
「はい、もうしましたよ。平民は会場を出るのも早かったので、すぐに合流できました」
ヘレナ様もエマちゃんから手を離してリリを抱きしめた。
「リリアーヌ。体には気を付けてね。それと困った事があったら私達でもノエルちゃんでもいいから、直ぐに頼るのよ? 私はリリアーヌが無事なら周りにどんな被害がでようとも構いません。あなたの身を最優先にしてね」
「はい、お母様。その時はやり過ぎないように止めようと思いますけど、どうにもならないと思ったらいっその事加担しますわ」
さすがは武門のベルレアン辺境伯家だ。周りに大きな被害をもたらす程強力な武器か何かがあるみたい。私がティヴィルにいる時は、魔物がほとんど大人しかったけど例年はそれなりの襲撃があったらしいし、そういう時に使ってたのかな?
フレデリック様が思い出した様に声を出した。
「ああそうだ、リリアーヌの希望通りノエルちゃんのメイド登録は済ませておいたが……本当に大丈夫か?」
「わたくしも少し早まったかもしれないと思っておりましてよ」
「なになに? なんの話?」
「ノエルも学園に出入り出来るように、わたくしのメイドとして学園に申請して頂きましたの。毎日でなくて構いませんが、ちゃんと会いに来て下さいましね?」
貴族は世話係として何人か連れて行くのが当たり前らしい。そうしないと制服すら一人じゃまともに着られない人も多いんだろう。そういう文化だから仕方ないんだけど、私の感覚としてはママにお着替えして貰う三歳児って感じがして嫌だな……。
まぁそんな訳で、学校に申請したメイドは許可証があれば出入りが自由に出来るそうだ。買い出しとかを頼んだりもするのかな?
「メイドの仕事をしろって訳じゃありませんのよ? そうしないと学園に立ち入るのに手続きが
そう言ったリリの表情はどこか寂しげだ。辺境伯家に住むようになってから今日までずっと一緒に寝てたからね。急に一人の寮生活になるのは寂しいんだろう。
「リリもおいで」
「もう、仕方ありませんわね」
私はリリとエマちゃん両方をまとめてギュッと抱き締める。私の意識がはっきりと目覚めた五歳から今日まで、私は二人のどちらかとずっと一緒だったからね。私も寂しいよ。
直ぐに会いに行くという私に、リリは本当かと仕切りに聞いてきたし、エマちゃんは本当に持ち帰らなくていいんですかと制服姿を見せつけながら何度も聞いてきた。
それに対して私は呪縛を引きちぎるように力強く、キッパリと「う……うん……」と答えた。
私の鋼の意思は簡単に折れたりしないのだ。折れない為にも柔軟性は抜群だけどね! ぐにゃんぐにゃんだ!
●
学園でリリとエマちゃんと別れた後は王都邸に戻ってきた。フレデリック様からお話があるそうだ。そんなわけで、帰ってきた足でそのまま執務室へ向かった。
「悪いね。いつも突然で」
「いえ、お気になさらず」
急にごめんね、なんて皆よく言うけど急じゃない事ってほとんど存在しない気がするよ。ちょっといい? なんて話しかけても、うわーっ急に話しかけないでよなんて言われることあるしね。これから話しかけますよって書面で出せばいいの?
「それで話なんだけどね、ノエルちゃん何かやらかした? 陛下から招待状が来てるよ」
「陛下って国王陛下ですか? 会ったこともないのにやらかしてなんていませんよ?」
「……まぁ以前から陛下には一度連れて来いって言われてたからね。王都にいるって話を聞いて顔合わせをしたいのかもしれない」
フレデリック様は難しい顔をしてそんな事を言う。
国王陛下が私に会いたいってどういう事だろう? フレデリック様が何か報告してるのかな?
そういえば魔法袋が欲しかったんだよね。村の設備が整ってきて食料の保存とか暮らしも良くなったからすっかり忘れてたよ。これを機に知り合いになって魔法袋貰えないかな? 使う機会は多くないかもしれないけど、持ってれば絶対便利じゃん!
「何か準備する事はありますか?」
「こっちで用意するよ。ノエルちゃんはヘレナから謁見の作法についてある程度教えてもらうといい」
「わかりました」
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