第131話 入学式
今日はリリの入学式だ。試験結果は当然合格だった。通知が家に届いた時はフレデリック様もヘレナ様もリリも喜ぶと思ったんだけど、届くまで結構時間が掛かるんですのねー、アレクの時も同じくらいだったぞーくらいなもので、私一人はしゃぐのも何かアホの子と思われそうだからグッと我慢した。
その代わり、夜寝る前はこれでもかってくらいリリの頭を撫で回して褒めた。「髪が乱れるから辞めてくださいまし!」ってマジトーンで怒られたのは何か解せぬ。
そんなこんなで馬車に乗って学園に向かっている。
「でも満点で合格したのに、代表挨拶がリリじゃないのは納得いかないなー」
「まだ言っておりますの? 今年は第三王女様が御入学されるので仕方ありませんわよ」
リリは試験に満点で合格したらしいけど、その第三王女様も満点だったらしい。当然っちゃ当然だけど、新入生代表の挨拶は王女様になったって訳だね。試験の結果が同じなら、身分の高い方ってのはわかるんだけど、お姉ちゃん的にはリリの晴れ姿が見たかった。
「リリがさ、壇上で氷をパリッと張った後にスーッて滑って現れれば絶対綺麗なのに」
「リリアーヌが綺麗なのは認めるが、式典だからね。そんな遊びはできないよ。……やらないよね?」
「ノエルじゃないんですからやりませんわよ!」
フレデリック様の不安気な問い掛けにリリは強く反発した。反抗期かな? ヘレナ様もクスクスと笑っていて仲がいい家族って感じで良いね。次期当主? 学園にいるからしょうがない。
「もうリリアーヌも入学だなんて、時が流れるのは早いわねぇ」
「そうだな。もう一人くらい子供がいてもいいか」
「まあフレッドったら! 子供の前で……」
いや、ホントだよ。私でさえ何か居た堪れない気持ちになったのに、実の娘がどんな気持ちになってる事か。
チラッとリリを見ると興味なさそうに自分の爪を見ていた。
入学式という事で、フレデリック様もヘレナ様も正装をしている。フレデリック様はスーツっぽい服になんかよくわからないバッジやら紐やらがやたらと付いている。ヘレナ様も豪華なドレス姿で、朝早くから準備も大変そうだった。生地がしっかりとしていて重そう。
「リリ、制服凄い似合ってるよ。可愛い。ホント可愛い」
「もう何度も聞きましたわよ」
学園制服は、私から見たらほとんどコスプレにしか見えない。真っ白な短い丈のワンピースで、袖や裾にはレースがあしらわれている。スカート部分もプリーツが沢山あってガーリーだ。その上に紺のベストの様な物を着ている。ベストは金色の糸で縁取られていて、所々にある刺繍がお洒落だよ。チョーカーに着いてる赤い宝石が学年を表してるそうだ。
そんな制服を着てる儚げな美少女は私の好みをモロに体現していて可愛くてしょうがない。
「……舞台に立つ姿見たかったなぁ。ねぇギュッてしていい?」
「シワになるからダメですわよ」
「むぅ……ケチ」
「うふふ、本当にノエルちゃんはその制服が気に入ったみたいね。来年入学したら着れるわよ?」
「ヘレナ様違うんですよ。制服はすっっっごく可愛いし、気に入ったのは事実ですけど、それを着たいかどうかはまた別です。私はこの制服を着たリリが欲しいんです。箱に入れて飾りたいです」
「……なんか今日のノエルはミレイユに似てますわね」
……うっそだろお前。私今日はもう喋らない。あの変態メイドさんと同列は嫌だ……。
和気あいあいとした雰囲気で話している間に学園へ到着したらしく、馬車が止まった。リリは新入生だからここで一旦お別れだ。
「じゃあリリ頑張ってね。保護者席で見てるからね」
「頑張るも何も座ってるだけですわよ?」
「じゃあ座ってる姿をジッと見てるね」
「恥ずかしからやめてくださいまし!」
リリはメイドさんを連れて校舎へ入っていった。私たちはこのまま式典用の会場に行くのかな?
「じゃあ我々も行こうか。ノエルちゃんはくれぐれも目立つ行動はしない……ようにして欲しかったけどもう手遅れか……。そうだよなあ」
フレデリック様はシャルロットを片手で抱いて、もう片方の手で一メートルサイズのゴレムスくんとお手手を繋いでいる私を見てそう言った。
「うふふ、シャルロットちゃんもゴレムスくんちゃんも一緒にリリの事応援しましょうね〜」
シャルロットはガチガチとアゴを鳴らし、ゴレムスくんはヘッドバンギングをした。ゴレムスくんは『ゴレムスくん』って名前だから、ちゃん付けするヘレナ様はゴレムスくんちゃんと呼ぶ。なんか変だけど仕方がない。私もゴレムスくん先生って呼ぶ時あるしね。
会場までは歩いて行くらしく、数人の護衛を連れてテクテクと移動する。
私は入学式って聞いて、体育館を想像してたけど、やってきたのはどう見てもオペラハウスだった。何フロアもある吹き抜けの様な構造で、赤い座席がズラリと並んでいる。
天井にはよくわからない宗教画の様な物が描かれている。学園敷地内にこんな会場いるのかね? まぁいるから作ったんだろうけど。私たちはステージの殆ど正面に位置する二階の席に通された。この場所はステージがよく見えるね。
「フレデリック様、ここは舞台がよく見えるいい席だと思うんですけど問題があります。私が見たいのは舞台ではなくリリです。リリはよく見えないんですよ」
「……勝手にどこかへいかないでね?」
「……つまり許可を取れば良いと……?」
「許可は出さないよ」
ふむぅ。何故か私を挟む様にフレデリック様とヘレナ様が座った。これじゃゴレムスくんお膝に乗せるしかないじゃん。右膝にゴレムスくんを乗せて右手で抑え、左手でシャルロットを撫でる。
……あれ? なんか私裏ボスっぽくない? 両サイドに貴族侍らせて膝にペット乗せてるとかちょっとカッコイイ気がする。
私たちの周りにも続々と保護者が集まりだした。品の良さそうな人達だから貴族なんだろうね。ヘレナ様もフレデリック様も挨拶で忙しそうになってしまった。
私は会場入りを始めた新入生達を眺めている。やはり貴族が多いらしく、男女共に容姿が整ってる人が多い。
この綺麗なお貴族様達が政略結婚をして子供を産む事でどんどん洗練された子供が産まれて……って何世代も繰り返されたんだろう。その結果容姿の整った貴族が多いと。
まあ中にはちょっとアレな雰囲気な人もいるけど、本人にどうこうできる話じゃないしね。強く生きてほしい。
貴族の中にもやっぱリリほど制服の似合っている子はいない。多分貴族が舞台の前で、平民の子は後ろの方なんだと思うけど、座席に座っていると角度的に見えないからわからない。
「ヘレナ様、リリが先頭の方に座ってますよ。綺麗な水色の髪が目立ってますね」
「そうねえ。昔はあまり好きじゃなさそうでしたけど、今は髪のお手入れもしっかりしているし、ノエルちゃんのおかげね」
「私は何もしてませんよ? お手入れはメイドさんです」
「ふふふっ、そうね。あら始まるみたいよ」
入学式自体は前世とそこまで差がなかった。先生か校長か、はたまたお偉いさんか分からないけど、代わる代わる壇上に立って似たようなおめでとうとか頑張れみたいな話を繰り返すだけ。遠くにいる私が辟易としてるのだから、もっと近くで聞いてる新入生達はうんざりしてることだろう。だけどさすがは貴族、そういう様子は見せていない。
在校生の代表としてこの国の王子様が壇上に上がった。遠くから見てもはっきりわかるほどイケメンだ。シルバーブロンドの長髪を後ろで一つにまとめている。男性で肩より長い髪は初めてみるね。銀の貴公子とか呼ばれてそう。
女生徒が色めきだって王子様の話を聞いてる。でも私はナヨナヨしててあんま好みじゃないな。言い方は悪いけど、中途半端なんだよね。どう考えたって女の子のエマちゃんとかリリの方が可愛いじゃん? じゃあ男らしいかって言えばムキムキじゃないからそうとも言い難い。だからどっちつかずで中途半端、それが私の王子様に対する評価だ。
在校生代表の挨拶の後は新入生代表の挨拶だ。第何王女か忘れちゃったけど、ベランジェール・ヨランド・モンテルジナ様というらしい。長いね。何が何だかわからん。どれが名前だよ。
ウエーブのかかったシルバーブロンドの凄い美人さんだ。少しキリッとした目付きだから仲間意識が芽生えるね。リリの制服姿はガーリーで可愛かったけど、ベランジェール様はキリッとした雰囲気の効果か、少しカッコよく見える不思議。
「ん〜、でもリリの方が似合ってるよね」
ガチガチ
だよね。私の制服リリは最強だ!
挨拶はこれまたテンプレみたいな内容だ。まだ何の関わりもないくせに暖かく迎えてくれただのと言ってる。嘘つけ、今日きたばっかじゃん。カンペ見てるし、学園来る前にそれ用意してきちゃったじゃん!
なんて思ってしまうけど、式典だからね。毎年決まってる台本みたいな物なんだろう。
一通り終わったらしく、後ろの方から新入生達が退場していく。特に面白い催し物もなくて、前世と大きな違いもないから退屈だったね。もっと魔法使ってあっと驚かせたりするかと思ったんだけどなぁ。
「これで入学式は終わりみたいですけど、私達はどうするんですか? もう帰宅ですか?」
「そうだね。後はリリアーヌに挨拶して終わりかな」
保護者説明会みたいのはないんだ。今日からもう入寮みたいだし、私もこれで王都からはお別れかな?
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