第132話 トラブル発生?
会場の外へ出て、広い庭園の様な所に来た。新入生達は今日からもう入寮なので、御家族とはここでお別れするそうだ。
ただ、庭園には沢山の生徒とその家族でごった返しているからリリと合流するのは難しそうだね。
こういう時、未だにスマホがあればなぁなんて思ってしまう。事前に合流場所を決めておかないと、合流できるかはただの運になってしまうよね。
「ちょっと私リリ探してきますね」
「……探してみるってまさかッ!」
私はシャルロットにお願いして一気に十メートルくらい上空に飛んだ。ゴレムスくん抱っこしてきちゃったけど、下で待っててもらえば良かったかな?
リリの特徴的な水色の髪はスグに見つかった。結構遠くの方にいて、辺りをキョロキョロ見回している。リリも私達を探してるんだろう。
一旦フレデリック様に報告だ。ちゃんと報告するようにって全員に言われるからね。
「いよっと。フレデリック様、ヘレナ様。リリは結構遠くに居ましたよ」
「そうか……。まぁ騒ぎになる前に戻ってきてくれて助かったよ。案内――」
「じゃあリリ連れてきますね」
私は再度びゅんと空へと飛んでリリの所へ向かう。下では色んな人達が別れを惜しんでいる。少し大袈裟に泣いている父親と呆れ顔の女の子もいれば、どこか素っ気ない感じで向き合っている家族もいる。何故かこんな日にお説教をされて不貞腐れている子もいた。
まだ合流出来ていないのか学生達のかたまりもいる。
シャルロットに任せてリリの所へゆっくり飛んでいると、急に向かっている方向を変えてシャルロットが加速した。
「うわっと、急にどうしたのシャルロット。ゴレムスくん放り投げちゃうかと思ったよ」
一メートルサイズのアダマンタイトの塊を人混みに落とすとか大惨事になる所だったよ……。
シャルロットはガチガチっとアゴを鳴らして返事をするが、未だにシャルロット語は会得できていない。
――やめてください!
どこかから悲鳴にも近い女の子の声が聞こえた。これだけ人がいれば突発的な揉め事なんかも起こるだろう。
優しいシャルロットは困っていそうな女の子を助けに行きたいみたいだ。
進行方向に台風の目のように中心部が空洞になっている人集りがあった。周りの人達は野次馬よろしく囲んで見ているだけだ。スマホがあれば皆カメラを向けていたことだろう。
「シャルロット!」
太った男が女の子に向かって腕を振り上げたのを見てシャルロットに合図を出す。シャルロットは虹色の魔力を派手に出しながら人集りの中心へと一気に向かった。
なんとかギリギリ、女の子の顔を叩く前に腕を掴む事ができた。
「あっぶな。そういうのやめなよ」
横から腕を掴まれた男は驚いた顔でこちらを見た。
「な、なんだお前! 俺の邪魔をするなッ!」
「いや女の子の顔をちょ何!」
喋っている途中で横からタックルをされて驚いた。こういう場合、シャルロットが避けてくれるから攻撃を受けることはほとんどありえないから余計に驚く。
「ノエルちゃんノエルちゃんノエルちゃんノエルちゃん! うぅ……ノエルちゃん」
横から突っ込んできたのは男の仲間ではなく、被害者の女の子。綺麗な長い金髪を振り乱してしがみつきながら私の名前を連呼した。
「もしかしてエマちゃん……?」
私の問い掛けに、より一層強く抱きつくこの子はたぶんエマちゃんだ。会うのは数年ぶりだし、まだ顔が見れていないから確証は無い。
だけど私の名前を息が続く限り連呼して、顔をグリグリと擦り付ける姿は私の知る限りエマちゃんしかいない。
「エマちゃんだよね?」
私は男の手を離して胸に抱きつく推定エマちゃんの頭に触れ、そっと顔を持ち上げるように誘導する。
顔を上げた女の子は潤んだ瞳をパチパチとさせ、私を見上げた。
涙の浮かんだ瞳は光を反射させて宝石の様に輝いている。鼻筋は高く真っ直で大き過ぎず小さ過ぎず整っている。唇は上下共に薄めで知性を感じさせる大人の印象を与えていた。艶々の金色の髪は天使の輪っかを乗せたように光っている。
まるで神が作り賜うた最高傑作だ。エリーズさん超えた? これ超えてない?
「エマちゃんだよね!? エマちゃん美人になり過ぎだよー!」
私はゴレムスくんをドシンと置いてからエマちゃんをぎゅうぎゅうに抱き締める。エマちゃんも改めてしっかり私に抱き着いてキャーキャー喜びの声を上げている。身長は私の方が十センチくらい高いかな?
「てかエマちゃん制服着てない? 何で? まだ入学できる年齢じゃなくない? てかてか制服姿よく見せてよ! うひゃあああー」
私はエマちゃんをガっと引き剥がしてから観察する。エマちゃんの清純な感じが白のレースと相まって、触れてはいけないほど神聖なものに見える。これ聖遺物か何かかな? 神の愛した人形かな? 首元の黒いチョーカーもエマちゃんの白くて細い首を強調しているようだ。
「ノエルちゃん、そんなに見られると恥ずかしいです……」
「恥じらうエマちゃんもきゃわいい! ねぇねぇ持って帰ってもいい? お部屋に飾りたい!」
「えっと……大切にしてくれますか……?」
「もっちろん! 大切にするよー! 毎日一緒にご飯を食べて、一緒にお風呂にも入って、一緒に寝よう! それからそれから――」
「おい! 貴様らいい加減にしろ!」
顔を真っ赤にさせて恥じらうエマちゃんを眺めながら今後のスケジュールを決めていると、後ろからうるさい声が聞こえて現実に引き戻された。
振り返るとさっきのボリューミーな男が怒りの形相を浮かべながらこちらを睨みつけていた。
「えっと何? というか誰? エマちゃん知り合い?」
「知りません。急に訳分からない事言ってきて腕を掴まれたんです」
エマちゃんは首を横に振ってから私の後ろに隠れた。大方村の男の子と同じだ。神が自らの手で作り上げた特注品のエマちゃんに懸想したんだろう。
「俺を知らんのか? これだから平民は……。俺は栄えあるティボデ男爵家の次期当主、ギヨーム様だ」
「知ってる?」
「いえ」
ギヨームと名乗った学生はでっぷりとしたお腹を揺らして偉そうにふんぞり返った。私は貴族家に詳しくないから知らないが、野次馬の人達は知っていたようで、名乗った事で周りが騒がしくなった。
「というかエマちゃんはケガしてない? どこも痛くない?」
私はエマちゃんの手や肩、顔なんかをペタペタと触る。触ったところで怪我の有無などわからないが触っとく。ありがたやありがたや。
エマちゃんはくすぐったそうに少し首を縮めて笑っている。微笑むエマちゃんは絵画だね。タイトルは春の訪れだ。花が咲き乱れるエフェクトが脳内に見えたよ。
「ほらエマちゃん。シャルロットね、なんかちっさくなっちゃったの。可愛いでしょ?」
「ホントですね。病気とかではないんですよね?」
「うん。進化したんだってさ。ねーシャルロットー?」
ガチガチ
「うふふ、病気じゃないなら良かったです。久しぶりですね、シャルロットちゃん」
シャルロットはエマちゃんの肩に掴まってほっぺたに顔をスリスリした。「くすぐったいよー」と言いながら片目を閉じたエマちゃんは絵画だね。タイトルは誰もが望む永遠だ。この一瞬を永遠にとどめておきたい。
「貴様ら俺を無視するな!」
「……というかお前、エマちゃん叩こうとした……? 違うよね? まさかそんな事しないよね?」
「ふん、俺が妾にしてやろうと言っているのに断るとは世の道理が何一つわかっていない。だから躾てやろうと思っただけだ。これだから平民は……」
「……は?」
「ノ、ノエルちゃん落ち着いて?」
私の中の魔力が暴れだした。身体中から虹色の光が溢れだしている。
「ノエルちゃん、少し冷静になって――」
「妾だァ? エマちゃんは私のだろうがァ!」
「ノエルちゃん! やっちゃってください! キャー!」
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