第129話 試験当日
ついにやってきたリリの入学試験当日、私は手伝ってあげる事はできないけど、一緒についていった。その方がリリも安心するかなーって思ったんだけど、そもそも試験に対する緊張とか不安は感じていない様子だった。私、いらない子。
まぁアレクサンドル様が合格する試験だからリリは余裕だよね……。
学園は、狭い王都にバカみたいな広大な敷地を持っているんだって。
初めて来たけど、正門から入ってすぐに使い道も無さそうな庭園があった。全寮制で敷地内に寮があるから、この庭園もお客様や保護者に見せるだけって事だよね。
校舎は綺麗で、豪華な御屋敷の様な見た目をしている。学生の数自体は少ないのか、敷地に対して校舎は小さく見えるね。校舎以外にも男女別の寮があったり、他にも訓練場があったり、最早広すぎてよくわからない。ぶっちゃけ学園が広くても移動が大変なだけじゃないかな。移動教室とか駆け足必須じゃない?
入試は二日間行われるけど、貴族と平民で一日ずつに別れている。試験問題の流出を防ぐ為にも問題が別になってるんだってさ。それを聞いて私は不正を疑ったね。貴族に忖度してない? だってアレクサンドル様が受かるってやっぱなんか……ねえ?
事実がどうなのかわからないけど、表向きは安全上の都合で貴族と平民は別日、流出を防ぐ為に別の問題って事だ。それが全てです。長生きしたいのならそうなんだと納得するしかない。
リリは当然貴族の試験日に来ている。護衛や世話係のメイドさんなど付き添いの人達用の控え室が用意されていて、私といつものメイドさんはこっちに通された。
控え室には微妙に違うメイド服のメイドさん達が待機している。今まさに試験を頑張っているリリには悪いけど、私はめちゃくちゃ暇だ。流石は貴族のメイドさん、騒いだりはしゃいだりせず、大人しく座っているか小声で世間話をしているくらいだね。
リリの為に心の中で応援した所で特に何にもならないし、その代わりと言っては何だけどこの控え室でリリの為の行動を起こすことにしよう。私はそう思って、カバンから袋を取り出した。中にあるのは小分けにしたクッキー。こんな事もあろうかと準備していたおやつだね。
私はメイドさん達に「ウチの子が多分入学するんでよろしくお願いしますねー」ってクッキーを配り歩いた。ついでにティヴィルのスイーツショップと、孤児院のスイーツショップの宣伝もする抜かりない私を褒めてほしいね。
メイドさんは、クッキーを知っている人もいれば全く知らない人もいた。知っている人はまるで取り上げられたりしない様にその場で即座に食べ、知らない人は一枚食べて口元を両手で抑えて美味しいと零していた。お澄まし顔の可愛らしいメイドさんが垣間見せる素のリアクション、大変結構!
「どうぞ、スイーツショップとベルレアン辺境伯家をよろしくお願いしまーす!」
駅前のティッシュ配りみたいにそんな掛け声をしながらクッキーを配る。それなのに働き者の私を見て、いつものメイドさんも呆れ顔だったよ。解せぬ。
クッキーを配り歩いたことでメイドさん達に大人気になった私は、色んな事を教えてもらった。学園では例年、平民に対する当たりが強くて途中で辞めていってしまう子も多いそうだ。教師も家督の継げない貴族が多くて、止める所か加担する者もいる始末らしい。当然そんな事を良しとしない貴族もいるけど、裏でやられてしまえばどうしようもない。結局人の悪意に対して正義は無力なんだそうな。
私入学しなくて良かったよ……。暴れる自信あるね。私には特に関係ないし、入学する平民の人は頑張ってくださいねとしか言えない。
メイドさんハーレムを形成し、キャッキャ遊んでいたらあっという間に時間が過ぎて試験は終わったらしい。さり気なく私の隣に寄ってきてメイドさんハーレムを堪能していたいつものメイドさんと一緒にリリを迎えに行く。この人リリが一番大好物だけど、可愛い女の子なら割と何でもいけるっぽい。
試験会場の外で待っていると、リリが出てきた。
「リリー! お疲れ様ー! どうだった? ちゃんと出来た?」
「ええ、全く問題ありませんわ! 首席が取れるかどうかってところですわね。ノエルはちゃんといい子にしてましたの?」
いや、良い子て。前世合わせると考えたくない年齢だぞ私。
「お嬢様、ノエル様は他家のメイドを侍らせてましたよ」
この人私の恩恵に与って起きながら平気で私の事売るじゃん!
「はぁ……。ノエルは手が早すぎませんこと?」
「え、待って。リリの中で私ってそんな認識なの? 私、ウチのリリが入学するんでよろしくねって挨拶して回ったんだよ?」
「そ、そうですか。もう良いから帰りますわよ!」
少しプリプリしてるリリに手を引かれて馬車に戻った。試験の結果が出るまではまだ日数があるらしく、それまでは自信の無い人は不安な日々を送るんだってさ。
「じゃあリリは合格間違い無しだし、一緒に遊べる?」
「いえ……。試験後はお茶会に参加する事になりますわね」
リリの話によるとこの時期は、子供の入試や入学に合わせて多くの貴族が王都に集まるらしい。そして集まった貴族と繋がりを作るために、学園とは関係ない貴族も王都にやってくるから社交界が活気づく、言わば社交界シーズンってやつなんだってさ。ヘレナ様もフレデリック様もまだ王都に到着してないから、リリがベルレアン辺境伯家代表として参加しなきゃならないらしい。
「普段王都周辺のお茶会には参加していませんもの。これを機にベルレアン辺境伯家を売り込まないと、田舎貴族とバカにされてしまいますわ!」
「バカにされるのは嫌だけど田舎なのは事実だし、別に気にしないでいいと思うけどな。私的には王都よりティヴィルの方が好きだし」
馬車の窓から見える景色は少し窮屈だ。まるで全部繋がってるかのような建物がずっと続いてる。こんなにギチギチだから建て直しも難しいのかな。外なのに窮屈って嫌じゃない?
「ウフフ、ノエルはベルレアン辺境伯領が大好きですものね! 早速明日ヴォルテーヌ公爵家主催のお茶会があるからノエルもお願いしますね」
「いや私呼ばれてないし」
「ノエル宛にも招待状来ておりますわよ?」
何でだよ。誰だよ、ヴォルテーヌ公爵家。公爵家って王族を除けば一番上の貴族位じゃないの? 平民呼ばないでよ。
一応ティヴィルにいた頃も、定期的にお茶会には参加してた。基本的にベルレアン辺境伯家と仲のいい貴族家とのお茶会だったから、私の礼儀作法なんて皆気にしないで居てくれたから普通に楽しく参加してたよ。言ってみれば女子会みたいなもんだった。
中には嫌がらせなのか、私だけステージ上の一人席に通された事もあったけど「ここはちょっと……」と言えば直ぐに変えてくれたしね。
でも王都周辺の貴族となるとそうもいかないと思う。厄介なことにならなきゃいいけど……。
「大丈夫ですわよ。ヴォルテーヌ公爵夫人ならノエルに兎や角言う事もないでしょうし、わたくしと一緒の卓に着くと思いますわ。守ってあげますわよ」
「ありがとー! お礼にほっぺにチューした方がいい?」
「…………いりませんわよ!」
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