第127話 スイーツショップミズキ王都出張所
スイーツショップミズキ王都出張所の売り物はフルーツ飴のみだ。しかもフルーツはその日によって違う。
色んなフルーツを日替わりで作るって訳じゃなくて、手に入る物によるってだけだね。お店をやる上で子供達には簡単な計算だけ教えたけど、まだまだ不安は残る。その対策として何のフルーツを使っていても金額は一律で、お値段驚きの銀貨五枚。日本円にして一個五千円だ。丁度払うか、金貨で払うかの二択だろうから計算も簡単だ。
かなーりぼったくり価格ではあるものの、孤児院への援助という御題目を掲げているので構わないだろう。その辺も孤児院の状況を説明すれば納得してくれるよね。
ティヴィルであれば平民も背伸びしてたまにスイーツショップに足を運ぶけど、ここ王都ではまだ甘味は浸透していないと思う。来てくれるお客さんはお貴族様や裕福な家庭がメインになるかな。
そんな舌の肥えた人達相手に、屋台の定番はどの程度売れるのかは未知数だよ。そもそも売れなければやる意味もない訳で、試して利益があんま出ないようならさっさと畳んで別の策に移ればいいし、取り敢えずやってみようの精神だね。
アダマンタイト製の屋台を作って、そこにはデカデカと私のロゴを掲げている。敷地は一杯あるし、もし売れる様なら縁日みたいにしても面白いかもしれない。なんなら自分たちでやらなくても、場所を貸してお金を払って貰ってもいい。ショバ代って言うの? あれ。
さて、そんな事をつらつらと考えていても始まらない。未だに表情の硬い子供たちも始まってしまえばそれどころではなくなるでしょう!
私は孤児院の外へ出てからシャルロットに飛んでもらう。待っている人達の目が虹色の光を出しながら空を舞う私に集中した。
「皆さんお待たせしましたー! 本日はスイーツショップミズキ王都出張所にお越しいただき、誠にありがとうございまーす! 今回ここでスイーツショップを開く目的は二点! 王都ではスイーツショップを待ち望む人がいるのかという調査と、孤児院への援助が目的です。何故か国からの援助が止まってしまったらしく、今この孤児院は自分たちで稼がなければ到底生きていけない状態です」
私は開店待ちで並んでる人達の顔を見渡す。どの人も神妙な面持ちで私の話を聞いてくれている。
「子供とは無限の可能性です。この子達の中に、将来私の舌を唸らせる素敵なスイーツを作る子が出てくるかもしれません。手軽にスイーツが楽しめるようになる何かを作る子が出てくるかもしれません。ならば! スイーツを愛する者として、手を差し伸べてあげましょうよ。その先駆けとして、このスイーツショップミズキ王都出張所を開くことにしました。ここの売上の多くは孤児院の運営にあてられます。スイーツを愛する我等が同志たちよ! 今こそ立ち上がる時です! 無理は言いません。身を切れとも言いません。ただ少しでも私の考えに賛同してくれるのならば、どうか一つ買っていってください。私からの話は以上です! それではスイーツショップミズキ王都出張所、開店です!」
私の合図と同時に、周りの迷惑など考えず黄色い声援が上がる。ご近所さんは今頃戦々恐々としてるだろう。何故か朝早くから貴族が集まって、急に声を上げるのだ。戦争でも始まったかと思うよね。
孤児院の錆び付いた門を開けると、綺麗に並んでお客様たちが入ってきた。流石はお貴族様が指揮を執っていた選ばれしお客様たちだ。只者では無い。
私もお客様第一号の販売にはしっかり立ち会おうと、屋台の近くに降り立つ。
お客様第一号はどう見ても高位貴族の奥様。護衛を引っさげての来店だ。
「いらっしゃいませー」
「このフルーツ飴というのを全てくださる?」
一人目から買い占めが行われようとしている。開店前は皆で列を整理したり、協力してたのに、いざ開店したら買い占めというまさかの裏切りだ。これには子供達も困惑顔である。
「えっと……あの、他の人が買えなくなっちゃうから……」
売り子をしている子が怯えながらも緊急事態に対応している。目の前にいる騎士を連れたお貴族様に意見するなんて大したものだよ。
「あら、確かにそうですわね。ではここにいる騎士も含めた人数分でしたら平気かしら?」
「は、はい……ありがとうございます」
何とか無事に捌くことが出来そうでほっとしたよ。ここでお貴族様が強権振ってきたらどうしようかと思った。誰さんかわからないけど、このお貴族様にはお世話になってるしお詫びとお礼をしておこう。
「すみません。良かったらこれをどうぞ。お客様第一号と、列の整理なんかをして頂いた様なので」
私はアダマンタイトロングスプーンを差し出す。この人は一本持ってるからいらないかもしれないけど、予備にでもしてよ。何か人気あるんでしょ?
「い、良いんですか……? 二本目になりますけど……」
「ええ、構いませんよ。貴方に託します。よろしくお願いしますね」
何をよろしくお願いしてるのかはわからないけど、何かいい感じに頼むよ。
「ありがとうございます。私にお任せ下さい」
お貴族様は頭を深々と下げてから、ロングスプーンを受け取った。両手に一本ずつ持って、誇らしげに眼前に掲げる。それじゃ両目とも隠れてるから視力検査できないよ。やってる事まんま小学生じゃん。それやるのクラスの男子にいた気がするぞ。
そんなやり取りを見ていた他のお客様達も、この高位貴族の奥様を拍手で祝福している。奥様もロングスプーンを皆に見えるように優雅に振って応えていた。ほんっとお貴族様の文化は私には理解できない。
身分制度ってやっぱりそういうものだよね。平民には平民の暮らしやルールがあって、貴族には貴族の暮らしやルールがある。どちらが良いとか悪いって話じゃなくて、独自文化が形成されてるからやっぱり現地の人にしかわからない空気感みたいな物があるんだと思う。私は根っからの平民だね。ロングスプーンで誇らしげなのホント意味わかんないもん。あげた本人が言うことじゃないかもしれないけどさ……。
お貴族様はイチゴ飴を受け取ると屋台の前から離れた。それからはちょくちょくお貴族様が買い占めようとするくらいで、大きなトラブルはない。凄く順調だよ!
平民っぽい人はイチゴ飴を受け取ると嬉しそうに食べながら帰って行くんだけど、お貴族様っぽい人は育ちのせいか食べ歩かない。
受け取ると護衛を引っ提げて、空いている広いスペースに移動してから食べ始めるのだ。そこに別のお貴族様が合流して、どんどん規模が大きくなっていった。今ではもう立食形式のガーデンパーティーみたいになっている。
今回のガーデンパーティーの主役はお客様第一号の高位貴族の奥様だ。彼女の周りに皆が集まって、二本のロングスプーンを見てキャーキャー騒いでいる。持っている人は私も持っていますと言いたいのか、懐からロングスプーンを取り出して眼前に構え、それに対して他の人も眼前に構えて応える。そしてウフフと笑いあうのだ。そんな様子を、ロングスプーンを持っていない人は羨ましそうにしているのが目についた。いつか私もそのロングスプーンを頂けるように頑張りたいですと息巻いている人もいた。お貴族様の文化は理解できないけど、だからって否定する気にはなれない。集まったお貴族様達が皆揃って私にスプーンを掲げる。何が言いたいのか少しも理解してないけど、訳知り顔で力強く頷いておく。
こうして無事に開店したスイーツショップミズキ王都出張所の初日は過ぎていった。最早屋台じゃなくてライブクッキングみたいになっちゃってるけど、たくさん売れたし成功って事でいいよね……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます