第116話 数年後! 王都へ!
「急に来てもらって悪いね」
フレデリック様が申し訳なさそうに眉を八の字にして謝る。今日は珍しく執務室に呼び出されたのだ。今の所怒られる様な雰囲気でもないし、何かやらかしたような記憶もない。
「いえ、それは構いませんけど何か任務ですか?」
「ああ、任務と言うよりはお願いかな? もうすぐリリアーヌが王都の学園へ通う事になるだろう? だから王都までの道中、騎士団と一緒に護衛をして欲しいんだ。勿論、強制ではないよ。あくまでもお願いだ」
貴族の子供達は十三歳になる年に王都の学園へ通うそうだ。
だけど貴族だからと言って誰でも通える訳では無い。ちゃんと試験を突破しないとダメなんだって。ただ、この国の教育システム的に試験を突破出来るだけの学力を身につけられるのが貴族や富裕層くらいなものだから、学園はそういう身分の人達が集まる社交場の様な役割も担ってるんだってさ。
そして早いものでリリは今年で十三歳になる。
「構いませんよ」
「おお! 引き受けてくれるか! アレクサンドルの時は断られたから今回もダメかと思ったよ」
二年前かな? 同じ様にアレクサンドル様が王都に向かう道中、護衛をしてくれないかーって頼まれたんだけど断ったんだよね。だってあの人護衛ほとんどいらないでしょ。
アレクサンドル様は私がテキトーに教えた松浦流抜刀術を会得しちゃったからね。魔法こそ使えないけどあの人はあの人でなんかデタラメだよ。
『松浦流抜刀術は二の太刀要らず、神速の一刀にて全てを両断せよ』、とかテキトーに言ってたまに遊んでたんだけど気が付いたら本当にそれっぽい事出来るようになってたから驚いた。
アンドレさんにはまだまだ敵わないけど、それでも若手騎士よりはずっと強くなってたよ。
最後見た時も『マチューラルー』だったけど。もうあの人がマチューラルーの開祖だ。
でも今回の護衛対象がリリなら私がキッチリ護衛するよ。リリだって弱いわけじゃないし、私と一緒に魔法で遊んだり訓練したからリリもリリで大概おかしな事にはなっちゃったけど、それでもか弱い女の子だからね。守ってあげましょう!
「ただ、普通に護衛するのも面白くないので内緒でお願いしますね」
「護衛してくれるなら構わないけど、ノエルちゃんは相変わらずだね」
フレデリック様は何処か疲れた様にため息をついた。
私はシャルロットを抱いて執務室を出た。こっそり護衛をするならその為の作戦会議をしなくては!
中庭にシャルロットと私とゴレムスくんで集まる。
「それじゃあリリにバレないように護衛しよう作戦だけど、何かいい案はある?」
以前より小さくなってしまったシャルロットは首を頻りに傾げている。特に良い案は浮かばないみたい。
シャルロットは私の魔力をこれでもかと食べ続け、少しずつ大きくなって、気が付いたら一メートルくらいにはなってた。もう私が抱っこするのはサイズ的にちょっと無理かなぁなんて思っていたら、ある朝突然三十センチくらいに縮んでた。病気か何かかと思って、冒険者ギルドのギルマスの部屋に突撃したら進化したんじゃないかーって話だった。なんでも、内包する魔力量が桁違いに増えてるから見た目が小さくても化け物みたいに強いはずよって言ってた。ウチのシャルロットちゃんはどんなに強くても危ない事させないけどね!
一方ゴレムスくんは結構大っきくなっている。今では二メートルくらいあって、お家に入る事すら困難だ。山にアダマンタイト取りに行って、ご褒美にインゴットあげてたらこんなに大きくなってしまった。
まぁ結局の所、ゴレムスくんの本体はあくまでも核だからサイズ感はあんまり意味ない。大量のアダマンタイトを庭に脱ぎ捨てて、スモールサイズで屋敷の中歩いてる時あるからね。
ゴレムスくんは何か良い案が浮かんだようで、自分に任せろと胸の当たりをゴンッと叩いて見せた。ではお手並み拝見だと眺めていると、ゴレムスくんの体がグニグニと動いて私の体に絡みついた。
「えー、またこれー?」
私の体を包み込んだゴレムスくんのアダマンタイトは、魔法少女の変身シーンの様にドームの様になってから姿を変える。その結果、私はアダマンタイトのフルプレートメイルを纏っている。
「これかぁ……。ゴレムスくんとの合体技はカッコイイんだけどねぇ」
フルプレートメイルを着て、護衛の騎士達に紛れるって事なんだろう。面白味には欠けるけど確実ではあるよね。
このゴレムスくんとの合体技は色んな形態がある。今のように鎧になるパターンもあるし、その鎧のデザインだって様々だ。ちなみに私のお気に入りの形態は、両腕に馬鹿デカイアダマンタイト製のガントレットを装着する形態だ。馬鹿デカイ手を振り回す美少女とかマジでかっこいい。
カッコイイんだけど……ぶっちゃけクッソ弱いのだ。一般的には強い部類なんだと思うんだけど、物理攻撃である以上、全て私の下位互換になるんだよね。
私はアダマンタイトを壊さない様に手加減しなきゃならないし、アダマンタイトより私の方が硬いから防具にもならない。私の枷でしかないんだよ。だから合体技は弱体化である。
辺境伯家の騎士団装備も、私とゴレムスくんの協力の甲斐あってアダマンタイトで表面をコーティングしている。強度は劇的に増したそうで皆ブルーメタリックに光ってるから私がアダマンタイトの鎧で顔を隠していてもバレないって寸法だね。
特に他に案がある訳でもないし、それで行こう。それで王都に着いたら兜部分を外して、実は私でしたーって言いながらテッテレーをしよう。
●
王都へ向かう当日、私は完全に透明化してもらったシャルロットを背中に貼り付け、ゴレムスくんを纏った、フルプレートメイル状態で騎士団に混じってリリが来るのをお外で待っている。当たり前だけど、騎士団の皆には事前に言ってるよ。じゃないと何故か知らない護衛が増えてるホラーみたいになっちゃうからね。
メイドさん達が玄関のドアを開け放つと、屋敷の中から威風堂々とした立ち姿のリリが出てきた。
長い艶やかな青い髪をたなびかせて歩く姿は綺麗だ。まだ幼さは残るものの、大人と子供の境界線にいる様な曖昧さがかえって蠱惑的に見えた。
これから街の外へ向かうとは思えない様なドレス姿で、一歩一歩周りに気品を振り撒きながら歩くリリは私の事をチラリと見たが特に何かを言うことはなかった。
一応バレずに済んだみたい。第一関門突破だ!
リリが馬車に乗り込み、早速王都へ向けて出発だ!
王都までは片道約二十日間もかかる長い旅路だ。野宿をする事になる日もあるけど、基本的には街か村に泊まる予定らしい。
ティヴィルの街を出て数時間、休憩になった。騎士の人達は馬車をひく馬や自分の乗っている馬の世話をせっせとこなしている。最早馬とリリの為の休憩だ。我ら騎士達はヒエラルキーの最下層に位置するのだ。
私は馬に乗っていないので特にやることがない。馬に乗れないことはないんだけど、如何せんフルプレートメイルが重すぎるから馬には乗れないんだよね。だから私だけドッシンドッシン走ってきたよ!
する事もなくてボーッと突っ立ってると、いつものメイドさん事ミレイユさんがやってきた。
「お嬢様がお呼びです」
それだけいって去っていくミレイユさんは、結婚適齢期をとっくに迎えているが未だに独り身でリリにベッタリだよ。
私はのっそのっそと歩いて、馬車に近付き、少し屈んで覗き込む。
喋るとバレるから何も言えない。待ち一辺倒だよ。
「ノエルはいつまでその鎧着てますの? 早く馬車に乗ってくださいまし! 一人では退屈ですわ」
リリはそんな風にカマを掛けてきたが、それに引っかかるほど阿呆ではない。私は手をわちゃわちゃ振って違いますと否定する。
「どうしたんですの? 踊ってないで早くしないと出発の時間になりますわよ?」
「お嬢様、ノエルさんはまだ誤魔化せると思っているのでは?」
「……そんな訳ないですわよね?」
二人の呆れを含んだ目線には耐えられず、仕方なく鎧をコンコンと叩いてゴレムスくんに開けてもらい、ピョンと鎧から飛び降りる。
「なんで分かったか聞いてもいい?」
「分からない方がおかしいわよ。そんな他の騎士の二倍くらい身長があるフルプレートメイルの騎士なんて我が家にはおりません!」
「ほらぁー! ゴレムスくんのせいでバレちゃったじゃん!」
予行練習ではフルプレートメイル姿でいけばバレないと思ったけど、いざ当日の今日、合体だよ! って合図を出したら胸を叩いてグニグニ変形して三メートルくらいのフルプレートメイルになったんだよ。
ゴレムスくんは約二メートルの巨体だからね、その豊満なボディを余すこと無く使うとどう足掻いても大男にしかなれない。
だから私はアダマンタイトそんな要らないから置いてけって言ったのに嫌がるんだもん。
仕方なく馬車に乗り込み、リリの横に座る。
「全く。見送りに来てくれないからこんな事だろうとは思っていましたけど、王都までわたくしを護ってくださいましね」
「あいあい。何があっても護ってあげるよ」
リリは私の手を握って指を絡める。結局何年経っても甘えん坊は直らなかったね。
メイドさんは私に甘えるリリの様子を見て天井を向くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます