第114話 帰り道
翌朝、日が昇って直ぐに村をたった。今は村からティヴィルへと帰る馬車の中にいる。
「昨晩は楽しかったですわね! 平民のパーティーは初めて参加しましたけど、あんなにも皆で一緒になって盛り上がるなんて、貴族のパーティーでは考えられませんわ!」
帰りの馬車の中でリリは興奮気味にまくし立てた。
エマちゃんが眠ってしまった事で女子会がお開きとなり、私はお家に戻って、リリ達は野営地に戻って行った。
次の日は早朝からティヴィルの街へ帰るから、皆早めに休もうという事になったのだ。
夕飯時にお家でヘルシー野菜スープを飲んで、後はもう寝るだけという時間になってから突然来客があった。
やってきたのはいつも何かと飲み会をやろうと誘ってきていたおじさん、ザールさん御一行だった。
何でも、せっかく村に帰ってきたのに挨拶も無しに帰るなんて冷てーじゃねーかって事でお酒持ち寄って襲撃を企てたみたい。我が家におじさん七、八人で押しかけられても困るから仕方なく皆で中央広場に集まったんだよね。
当然そこではリリ達と騎士団も野営をしてる訳で、ザールさん達は最初はおっかなびっくりしてた。
だけど酒が入れば、さながら地球育ちのサ〇ヤ人の様に気が大きくなるもんだから、途中からは新人騎士も混じえてのどんちゃん騒ぎだったよ。
新人騎士が混ざれたのはベテラン騎士達が代わりに警護するから現地の人と接してこいって送り出してくれたからで、頑張ったご褒美って感じだったのかな?
当然村の広場に集まって宴会が始まれば、他の祭り好きや酒好きまでが騒がしい声に釣られて集まってきて、気が付けば大宴会だった。
そうは言っても村に皆で飲んで歌える程の酒がある訳もなく、そうなったら争奪戦だ。酒の席での勝負となればいつものエリーズさんの命令ゲーム。
初めは慣れっこのおじさん村人と、不慣れな騎士達では勝負にならなかったけど、流石は騎士だ。お開きになる頃にはエリーズさんの命令を忠実に守る騎士へと変貌していたよ。本職はやっぱり違うね。
途中からはリリもアレクサンドル様も参戦して、たまにこっそり皆で接待しつつ大盛り上がりだった。二人とも、あんな大人数で上下もなくバカみたいに騒ぐ経験なんてなかったんだろう。はじめは戸惑いの表情を浮かべていたが、終わるころには年相応の可愛らしい顔で笑っていたよ。きっといい経験になっただろうね。
今回私の元気な姿と、お世話になっているお貴族様と仲良くやっている様子を見せた事で両親も含めて村の皆はかなり安心できたんじゃないかな?
それにこの僅か数日間で領地を治めるベルレアン辺境伯家への心象も大きく変わったと思う。一緒に騒いだおじさん達なんてお嬢だの坊ちゃんだの気安く話しかけてたしね。
リリは帰りの馬車の中で、昨晩の宴会の様子を一生懸命語っている。私も一緒にいたというのに、その私に語るのもおかしな話だけど、冷めやらぬ興奮を誰かに伝えたいんだろう。結局この場にいるのはほとんど宴会参加者だけだからね。誰に話した所で一緒だ。
今回は村での養蜂計画は進めていない。その理由としては、キラーハニービー達にあげるご飯や報酬の問題が解決出来ていないからだ。
私が毎日餌やりに走ってくる事も考えたけど、何かの事情で出来ない日があったら破綻してしまう。
まぁ元々野生で生きていた子達なんだから、ほっといても十分生活はできるんだろうけど、それだと蜂蜜を分けてもらう大義名分がないからね。やはり報酬は必要だろう。
今はもう夏ということもあって、お土産だってほとんど砂糖とか塩とかの悪くなりにくい物だけで、乳製品なんかは持ってこれなかった。街に戻ったら冷蔵箱とかどこに売ってて誰がどうやって作ってるのか調べよう。村の各家庭に設置できるようになれば、皆の暮らしも豊かになるしお土産の幅だって広がる。
水やお湯を出す道具もどういう原理で動いているのか知らないけど、まさかここにきて電気使っています、なんて事はないと思う。そうなればきっと動力源は魔力の類だと思う。村での養蜂計画を始める為の鍵はそこにあるんじゃないかって思うんだよね。だから街へ戻ったら暇を見てその辺りの調査をしよう。シャルロットとゴレムスくんに協力してもらえればキラーハニービー達の報酬として使えるかわかるでしょう!
まだまだやりたい事がいっぱいで、いくつ体があっても足りないね。
突然始まった家族と離れて過ごす、ティヴィルの街での生活は、はじめに想像していたよりもずっと楽しいものだった。それは街にいる沢山の知り合い達のおかげでもあると思う。当然お世話になっているベルレアン辺境伯家の人たちの存在もとても大きい。
中でも一番大きいのはこの、はしゃぎ疲れて私の肩に寄りかかって眠ってしまったリリだ。最初は少し面倒そうな子、だなんて思ってしまったけど、蓋を開けてみれば何事も一生懸命で不器用で、寂しがり屋な普通の子だった。
お茶会で傷ついてしまった心はまだ元通りとはいかないかも知れないけど、それでももう人と接することを恐れたりはしないだろう。近いうちにきっと、人を少し見下した様な態度も取らなくなって沢山の友達に囲まれ、昨日の様に無邪気に笑えると思う。少なくともそうなってほしいなと私は思っている。
そんな妹の様に感じていたリリがそばに居たから、甘えたい欲求の様なものをあまり感じないでいられたんだろう。それが私の寂しさを忘れさせて、しっかりしなきゃって気持ちにさせていた。
シャルロットにとってのゴレムスくんに近いのかな。私にとってはこの子ももう家族の様なものだね。
もう何年かすれば、リリは王都の学校へ行く事になる。そうなれば今ほど一緒に過ごす事はないと思う。
平民の私には私の、貴族のリリにはリリの生活が始まる。いずれ何処かで交わることもあるかもしれないけど、その交わりは道端ですれ違う程度のものだ。今は距離が近過ぎて忘れがちだけど、身分ってそういうものだしね。
残りの数年間で学校でもうまくやっていける様に強い子にできたらいいなと思う。優しくて繊細な子だからね。私のズボラでテキトーな部分を少しだけ分けてあげるよ。
涎を垂らし始めたリリの頭を少し浮かせて、肩にハンカチを挟む。暑さからか少し寝苦しそうに眉を顰めるリリの頭をそっと撫でると、リリの表情が幾分和らいだ。
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