第112話 女の子三人
一番の親友は自分だと譲らないリリと、私は妻だから親友とか関係ないのでと素っ気ないエマちゃん。そんな二人のチグハグなやり取りをゼロ距離で見ていると、強化された私の足をコンキンカンと叩いて鳴らしてくる存在がいた。
我らが謎の存在、ゴレムスくんだ。自分の事を忘れるんじゃないとでも言いたいのか、必死にアピールしている。
この子を紹介する時はいつも少し困る。アダマンタイトを持ち帰るのに便利だから勝手に連れてきちゃったけど、この子の立ち位置はどこなんだろうか。
エマちゃんは小さい頃から仲良しの幼なじみ、リリはお世話になっている家のお子さんで私の友達、シャルロットは私の子供みたいな家族だ。じゃあゴレムスくんは一体なんなのだろう。
私は言い合いになってない言い合いをしてる二人を離してからしゃがむ。
「ねぇゴレムスくん。ゴレムスくんはどうしたい? 山に帰りたい? それともウチの子になる?」
ゴレムスくんはウチの子になるかと聞いた時にヘッドバンギングをした。今更になってゴレムスくんの意志を確認したけど、ウチの子になるってさ。
「じゃあよろしくね、ゴレムスくん」
私は固くてヒンヤリしたゴレムスくんの飾り頭を撫でると、ゴレムスくんはシャルロットと一緒に万歳してはしゃいでいる。
私は見た目より遥かに重いゴレムスくんを抱き上げて、エマちゃんに紹介する事にした。
「二人とも話し合いは終わった? エマちゃんにこの子も紹介するね、ゴレムスくん。丁度今ウチの子になったよ」
「よろしくお願いしますね、ゴレムスくん」
エマちゃんは優しくゴレムスくんの頭を撫でた。さすがはエマちゃん、シャルロットもスグに受け入れたしゴレムスくんも一瞬で受け入れた。最早聖女なのでは?
「それ今なんですの? 逆に今まではなんだったんですの?」
「私にもわからないね」
突然やってきてしまった私たちを、エリーズさんは大したもてなしはできないと言いながら紅茶を出して、奥の部屋に引っ込んでいった。
いつも飲んでる高級茶葉の紅茶とは感じ方が違うのか、リリは首を傾げていたが特に何かを言うでもなく飲んでいた。
「ノエルちゃんはどれくらい村にいる予定なんですか?」
「明日の朝にはティヴィルに戻る予定だよ。なんだか慌ただしくてごめんね」
「むぅ。思ってたより短いです」
私一人であれば一週間くらい居ても良いかもしれないけど、リリとアレクサンドル様はスケジュールあけて来てるからね。長ければ長い程、帰ってからが大変になってしまう。
エマちゃんはお膝にのせたシャルロットを撫でながら眉尻を下げた。シャルロットも食べ物を分けてくれたり、遊んでくれた事をしっかり覚えている様でエマちゃんには良く懐いてる気がする。
「そうだ、これお土産ね。使い道があるかはよくわからないけど結構貴重な物らしいからあげるよ。さっきもアレクシアさんにあげてきたの」
私は手荷物の中から悲運のインゴットを取り出してテーブルの上に置いた。まだまだたくさんあるけど、家族になったゴレムスくんの為にも時間があったら山に行って新しく強奪してこようかな。やってる事は完全に山賊だけど採掘みたいなものだし、基本みんな取らないみたいだし独占してもいいよね。
エマちゃんはインゴットを爪でカツカツ叩いている。凄く硬いけど触ったってわかんないよね。
「ノエルはよくそのインゴット配り歩いてますけど、それ加工できる人居ないらしいですわよ?」
「そうなの? じゃあめっちゃ重い邪魔な物押し付けてる感じ?」
「ノエルちゃん、ゴレムスくん落ち込んで腕取れちゃいましたけど……」
足元に立っていたゴレムスくんは項垂れた様子で両腕がゴトッと取れていた。ご、ごめん。言葉がキツかったね。
「で、でも安心です! なんとウチには頼れる家族であるゴレムスくんがいます! ゴレムスくん先生! お願いします!」
私の呼び掛けに応じてゴレムスくんは両腕をジャキンとくっつけた後、両手を上げた。あ、私が持ち上げなきゃ上がれないね。
テーブルの上にゴレムスくんを置くと、ゴレムスくんは胸からコアを露出させた。
「エマちゃん、わおんって言って貰える?」
「わおん?」
「いつもやるそれはなんなんですの?」
さぁ支払いは完了だ! ゴレムスくんはインゴットに触れると、インゴットがウネウネと動き出して、彫刻が完成した。
「これ初代ベルレアン辺境伯、ディムロス様がキラーハニービーの巣に飲み込まれた奴だね。ゴレムスくんいつも眺めてるもんなぁ」
「よく出来てますわね。庭で見るのと瓜二つですわ」
「えっと……いらない、かな。ゴレムスくんごめんなさい」
元ネタ知らないエマちゃんからしたら、ただの哀れな被害者にしか見えないし、元ネタ知っててもいらないよね。
ゴレムスくんがせっかく作ったけど不評だ。たぶんゴレムスくん的にはお気に入りの彫刻なんだろうけど、ウケが悪いね。
「そうです! ゴレムスくん、それで私とノエルちゃんお揃いの腕輪とか作れませんか? 本当は指輪がいいんですけど、成長したら付けられなくなっちゃうし、それはその時に取っておきたいので……」
エマちゃんは良い案が浮かんだと、両手を胸の前でぱちんと叩いた。指輪が欲しかったらしいけど、未来の旦那さんと結婚する時の為に取っておくなんて乙女チックで可愛らしいね! アレクサンドル様、貴様ではないぞ。貴様では貴族のゴタゴタからエマちゃんを守れない。
ゴレムスくんはあいわかったと言わんばかりに胸をカンと叩いてから、ディムロス様の像をぐにゃぐにゃに溶かしていった。完全にアイルビーバックな雰囲気のディムロス様の彫刻から一度インゴットに戻し、そこから二つの腕輪を作った。
女の子がするのに可愛らしく見える細めのブルーメタリックのブレスレットは、表面に何かの花がぐるりと彫られている。内側に名前でもあるかと思ったけど、ゴレムスくんは文字知らないからそういうのはないみたい。というか花の柄を掘るとか頼んでないのに芸が細かいよ。
「凄く可愛いです! 何のお花でしょうか」
「見せてくださいまし。これは……レーラレンシの花ですわね。我が家の庭園に咲いていますわよ。確か花言葉は『気品』『清らかな心』『輝かんばかりの美しさ』あたりだった気がしますわ」
「おぉ! リリは賢いね」
リリはこれくらい常識ですなんて言いながら小鼻をヒクつかせていた。それにしても、庭園で見てたから彫ってくれたみたいだけどまるでゴレムスくんがエマちゃんを口説いてるみたいだよ。
でもよく見ると私に渡したものとエマちゃんに渡したものだと微妙に彫ってある花が違う気がする。
「これ、私のは別の花みたいなんだけどリリはわかる?」
「えっと……これはボウレイニケだったと思いますわ。標高の高い所に咲く花で、確か花言葉は『純粋な暴力』『不滅』『支配者』だった気がしますわね」
私はじーっとゴレムスくんを見る。花言葉なんて所詮は人が勝手に付けたものだから、ゴーレムのゴレムスくんが知っている訳がないのだ。標高の高い所に咲くって言ってたから、元の住処近辺で見たことがあったのだろう。……そうだよね?
ゴレムスくんのリアクションが無い事から白と判断した。デザインは可愛いしまぁいいでしょう!
私は左手首、エマちゃんは右手首に付けてお手手を繋ぐ。ブルーメタリックの細いブレスレットがキラリと光って凄く綺麗だ。アダマンタイト製だから壊れる事も傷付くこともほとんどないって所が凄くいいね!
エマちゃんもニッコニコだ。ゴレムスくん、よくやったぞ!
「ゴレムスくん、わたくしの言いたい事わかりますわよね? ……では家に帰ったらお父様にお願いしてインゴットを支払いますわ、それでどうでしょう」
ゴレムスくんは中々縦に首を振らず、リリが助けてくださいましと泣きそうな顔で言っていた。エマちゃんがため息を吐いて作ってあげてと一言告げるとゴレムスくんはヘドバンしてブレスレットを作った。
何故、エマちゃんの言うことは聞いて、リリの言うことは聞かないのか。そして何故、私の場合は対価を払えば聞くのかわからない。
ゴレムスくんの中では最上位にエマちゃん、次点で私、そして最下層にリリなんだろう。
リリもお揃いのブレスレットを着けて嬉しそうに笑っているし、エマちゃんが助け舟を出してくれたことで噛み付く事もなくなった。まぁ仲良くなれたならよかったかな?
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