第110話 アレクシアさんとの再会!
あれから少ししてお父さんが帰ってきた。お父さんはドレスで着飾った私を見て大興奮だった。やれお姫様が我が家にやってきただの、王子様に見付かったら婚約者にされてしまうだの大騒ぎ。もういい加減鬱陶しくなったから、お父様大好きですわってリリっぽく話して抱き着いたら鼻血出して眠ったよ。
何でお姫様と王子様が婚約するんだか。兄妹じゃん。まさか他国の王子様がやってくる設定なの? 即興劇やるならもう少し入りやすい設定にして欲しい。
そんなこんなで朝が来た。今日はせっかく村に来たんだからアレクシアさんにも会いたいし、エマちゃんとも会いたい。もちろんエマちゃんに時間があるならだけど……。忙しそうなら諦めるけどさ。
昨晩もそうだけど、朝食でもヘルシー野菜スープを飲んで泣きそうになった。辺境伯家で食べるご飯の方がずっと美味しいのに、コレなんだよなぁって気分にさせられる。
小さい頃から嫌という程食べて、本当に嫌になってお料理革命を起こすだなんて言ってたくせに、いざ久し振りに食べるとホッとしてしまうから不思議なものだよ。
ご飯を食べ終えたら早速準備して出発だ。今日も中々暑いから、髪をいつものリボンで縛る。服装は街で買った空色のワンピースだ。夏らしくて最近のお気に入りだよ。
お母さんの首元にジャンプしてしがみつき、行ってきますと挨拶をするとお母さんもぎゅっと返してくれた。昨日の夜は懇々とお説教されてしまったけど、甘えたら仕方のない子だと許してくれた。どうやら両親共に甘えるのは刺さるらしいけど、それも後数年だろう。今のうちに最大限利用しなくては!
外へ出ると、地面からの照り返しで視界が白くなるほど眩しく感じた。今日も夏真っ盛りだね。こんなにも暑いと早く歩く気にもなれず、ゴレムスくんの歩く速度に合わせてのっそのっそと歩く。
ジリジリと肌を焼くような日差しが、露出したうなじを焼いている。身体強化を強くしてUVカットだよ! 小麦色の肌も、濃いめの褐色肌も良いけど、私は美白で行きたい。
レオの歩くのと同じくらいの速度でアレクシアさんの家に向かって歩いていると、後ろからガラガラという馬車の音が聞こえてきた。振り返ると村に来る時に乗っていた馬車が近付いてきていた。その周りを数人の馬に乗った騎士が囲んでいて、なんとも仰々しいね。私の隣にゆっくりと止まると、いつものメイドさんにどうぞと促されたので乗り込む。
「もう! わたくしを置いて行かないでくださいまし!」
「おはようリリ。でも挨拶回りって感じだから退屈だよ?」
馬車の中はリリとアレクサンドル様とメイドさんがいた。二人とも野営をしていた割にはいつも通り身なりが整っている。お貴族様の矜恃なのかな?
「それでもノエルが一緒じゃないならわたくしがここに来た意味がないではありませんか!」
「あぁー、確かにそうかもしれない。ごめんね」
地元行くけど行く? って声掛けといて、ほったらかしたのと一緒か。結構酷いことしてるじゃん。……いや私誘ってはないか。
「そうだぞ、平民。昨晩はリリアーヌがずっとノエルはどうしてるかしらとか、もうご飯は食べたのかしらとか、まだ起きてるかしらとかずっと言っててうるさかったんだ。もう少し構ってやれ」
「そ、そんなには言ってないですわよ! お兄様は大袈裟です!」
リリは朝から元気いっぱいプリプリしてる。というか、馬車動かないね。……あ、私の指示待ちか。
「すみません、取り敢えずこの畑沿いに真っ直ぐ行って貰えますか?」
「あいよー」
馬車はガラガラと音を立てて進み始める。中も暑いけど、動かないでいい分凄く助かるよ。
リリはアレクシアさん家に着くまでの少しの間、野営がいかに大変かを皆に熱心に語っていたけど、ここにいる人は皆野営を経験してる。誰もその事実を指摘しないのは、優しさなのか不満を吐き出させておきたいのかはわからない。
「あら? もう着いてしまいましたの? 結構近いんですのね」
馬車が止まったので皆で降りる。なんのアポも無しに来てしまったけどいるかな?
コンコンと叩いてしばらく待つと扉が開いた。
「お? ノエルだ! 久し振りにノエルを見たぞ! 今までどこに居たんだ?」
出てきたのは、アレクシアさん譲りの真っ赤な髪をしたオルガちゃん。口ぶりから察するに、私が居ないことはわかっていても、どこに行ったのかは知らなかったみたい。私に興味無さすぎじゃない?
「オルガちゃん久し振り。アレクシアさんいるかな?」
「かーちゃんか? いるぞ、かーーちゃーーん! ノエルとすごい感じの人来たぞー」
オルガちゃんは大声でアレクシアさんを呼びながらドタバタと家の中に入っていった。呼びに行くなら大声を出す必要はなかったと思うけど、そのあたりがオルガちゃんらしくて笑ってしまった。
「な、なんか個性的な方でしたわね」
「うむ、平民とはああいう感じなのか」
「いや……どうだろうね。でもまぁいい子だよ。なんか失礼だったとしたら私がちゃんと注意するから言ってくれると助かるよ」
私が連れてきた二人のせいでオルガちゃんが罰せられたら後味が悪い所の騒ぎじゃない。穏便に済ませてくれ。
「ノエルのお友達なのでしょう? 気にしませんわよ」
「そうだな、平民にそこまで期待していない」
「二人が優しくて助かるよ」
私の言葉で二人が思いっきり照れている。リリは撫で回したくなるほど愛らしいが、アレクサンドル様は気位が高そうに振舞ってるから照れてもなんかキモい。口をモニョモニョ動かしててキモい。素の状態なら可愛かったかもしれないね。
「久し振りじゃないかノエル。頻繁に帰ってくるなんて言っておきながら帰ってこないと思ったらそんな綺麗なお嬢様みたいになっちゃって……おっと」
玄関から出てきたアレクシアさんに飛び付いた。私にとっては友達で、姉で、もう一人の母親みたいなアレクシアさんだ。再会の喜びも三倍だよ。
「お、すごい感じの人ってのはリリアーヌ様とアレクサンドル様でしたか。すみませんね、ウチのバカ娘がバカで」
「お久しぶりですわね、アレクシアさん。先程の子がアレクシアさんのお子さんでしたのね」
「おぉ、ここは平民の家だったのか」
この村には平民しかいないよ。全部平民の家だし全員平民だ。もう誰が誰だかわからんぞ。
「ウチも! ウチもかあちゃんに抱き着くぞ!」
「二人とも離れろ、暑いだろーが」
もう少しくっついていたかったけどしかたがない。
「改めてアレクシアさん久し振りだね! 突然だけどお土産にこれあげるよ!」
私はバッグから悲運のインゴットを取り出して渡す。アレクシアさんは口をあんぐりと開けて固まったあと、苦笑いして私の頭を撫でた。
「これ一つで街でも相変わらずやらかしてんだなってわかったよ。ありがとな。足元のそのちっさいゴーレムの身体の一部って訳か」
「そうだよ! ゴレムスくん。ほらゴレムスくんご挨拶」
ゴレムスくんはのっそりと手を挙げた。
「……お前も大変だな。ゴレムスくん」
アレクシアさんは手に持ったアダマンタイトインゴットとゴレムスくんを交互に見た後で、哀愁漂う顔でゴレムスくんに呟いた。ゴレムスくんはお得意のヘッドバンギングで返事をしている。今の言葉に頷くとはどういう意味かな?
アレクシアさんは外じゃ暑いだろうと皆を家に通してくれた。見慣れない平民の家の中をお貴族様兄妹はああでもないこうでもない言いながら勝手に見て回っている。普通に考えれば滅茶苦茶失礼だけど、相手はお貴族様だからアレクシアさんも苦笑いに留めた。
意外、と言っては失礼だけど裏表のない真っ直ぐ素直なオルガちゃんは二人に結構気に入られた様で、三人で楽しそうに喋っていた。だけど素直すぎる故か、言わんでいいお家の恥ずかしい事までベラベラと喋っているみたいで、アレクシアさんが青筋を浮かべていた。隠してる壁の穴まで紹介する必要はないよね。後で苦労するだろうけど、ドンマイだよオルガちゃん。
シャルロットはアレクシアさんにかまって欲しくて頭をこすり付け、私も久し振りのアレクシアさんに街での暮らしや、果てなき風の人達と行ったゴーレムの核集めの話を面白おかしく話した。アレクシアさんはアイツらの困惑した顔が目に浮かぶとお腹を抱えて笑っていた。
この後はエマちゃんにも会いに行きたいから、もっと沢山お話したい事はあったけど切り上げることにしてアレクシアさん家をでる。
「今度はもっと早く帰ってこいよ?」
「あ、あははー。前向きに善処するよ!」
「これ以上引き止めてるとエマに怒られちまうからな、じゃあな」
「リリアーヌもアレクもノエルもまたなー!」
オルガちゃんの凄い気さくな別れの言葉を聞いたアレクシアさんは、慌ててオルガちゃんを家に放り投げてから頭を下げた。私も謝る。
「ご、ごめんね?」
「フフフッ、構いませんわよ。何だか動物みたいで可愛らしい方ではありませんか」
「そうだな。あんなに気安く接してくれるやつは中々いないぞ」
二人の言葉を聞いて私とアレクシアさんはホッとした。きっとこれから沢山のお説教が待ってるだろうけど、オルガちゃんが生き残れる様、私は安全な所から祈ってるよ。
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