第103話 スイーツ開発部
リリがささやかな仕返しを心に決めた事で、お茶会を開くことになった。その為、ベルレアン辺境伯家一同が一丸となってお茶会開催へ向けて忙しくなった。当然私も忙しい毎日だ。
ヘレナ様やフレデリック様は招待客の選定をしたり、私とリリは厨房でスイーツ開発をしたり、アレクサンドル様は……一体何してるの? それでいいのか、次期当主。
メイドさんや執事さんもあっちこっちへ小走りで移動している様子をよく見るし、庭師のおじいちゃんもキラーハニービー達と話し合って庭を手入れしている。ゴレムスくんも庭の日当たりが良い場所で座ってる事が多いし、キラーハニービー達も庭師のおじいちゃんを手伝ってる事がある。庭師のおじいちゃんモンスター爺さん説、あると思います!
お茶会一つ開くのに、こんなに御屋敷全体が慌ただしくなるなんて驚きだよ。いわゆるパーティーみたいなの開いたら一体何人の命が過労で失われるのか……。
私達は今日もスイーツ会議をしている。会議参加者は私、シャルロット、リリ、料理長、アンズだ。
今日の議題は、『春の終わりから初夏くらいの果物ってなんか微妙』だ。というのも、スイーツ開発をしていく中で、やはり果物が欠かせない。だけど前世と違って、旬が過ぎれば先ず手に入らないのだ。お金を払ってどうこうという問題じゃない。輸送の都合であったり、そもそもビニールハウスとかがないから作れない。そして作れないのだから買えないのだ。
「夏にスイーツ作りに使いやすいのはやっぱり桃かなぁ」
「しかし、まだ手に入らないので練習はできませんよ? 師匠」
「じゃあ小豆は? 小豆はいつが旬?」
「冬だね。でもなんで豆?」
じゃあダメじゃん。あんこもできそうにない。そうなるとブルーベリー、ラズベリー、桃あたりがメイン? ベリー系は大好きだけど、そこには王としてイチゴも欲しかった。
「では果物無しではスイーツ作れませんの? アイスでしたらそのままでも美味しいですわよ!」
「アイスは作るけどそればっかりはお腹冷えちゃうし、果物無しだと見栄え的にも彩りがねぇ」
リリのアイスに対する熱い信頼はさておき、今回は美味しければ良いというのとは少し違う。何せ他家のお貴族様を招いてのお茶会だから、やっぱり見栄えやインパクトもしっかりと与えたいのだ。プリンを一つだすよりも、プリンアラモードを出したいんだよ。じゃなければ盛り塩パンにインパクトで負けちゃう気がする。あんなの出されたら悪霊退散だよ。……ん? 自分でも何言ってるかわからん。
「やっぱキラーハニービーのハチミツをメインにするしかないかなぁ」
「……そもそも、キラーハニービーのハチミツは簡単に手に入る物ではありませんよ? 普通」
そういえばそうなんだっけ。もうパンに掛けたりしてあたり前のように食べてたから忘れてたわ。
「シャルロットいつもありがとねー」
ファーの部分に頬ずりしながら撫でると、シャルロットは嬉しそうにおしりを揺らす。いつでもシャルロットのファーの部分は甘い匂いがするよ。……あれ?
「そうだ! 飴細工! 飴細工で飾り付けをしよう!」
以前シャルロットのファーは飴細工なんじゃないかって食べようとしてイヤイヤされたのを思い出した。飴細工は私もあまり良くわからないけど、それなら皆で練習だ!
シャルロットにゴレムスくんを呼んでくるようにお願いして、私は早速チャレンジしてみよう。料理長もアンズも、飴細工が何かわかりませんが手伝いますよと言ってくれた。多分砂糖と水を混ぜて火にかければそれっぽいのができると思うけど、分量も時間もわからない。色んな配分で試してやってみるしかないね。
料理長とアンズが鍋を見ててくれる間に、アイスを作る準備をする。
「もしかしてアイスですの? わたくしの出番ですわね!」
「うん、これはリリにしか作れない特別な物だからね。お願いするよ」
「ええ、ええ! この世界一の水魔法使いであるわたくしがノエルの為に力を貸してさしあげましょう!」
リリは頼られると喜ぶのだ。何だかお貴族様なのに使われてる感あるけど平気? それからアイス作りと飴作りを並行して続けた。
しばらくすると、シャルロットのアゴを鳴らすガチガチって音が聞こえてきた。どうやらゴレムスくんが到着したみたい。魔力とインゴットのどちらが良いか聞くと、コアを露出させたので犬の鳴き声を出しながらドカンと魔力を流し込む。
「それじゃあゴレムスくん、対価も払ったことだしお仕事の時間だよ! 先ずは薄い板状で、これくらいの半円にたくさんへこませた物作れる?」
私は身振り手振りでゴレムスくんに伝えると、ヘッドバンギングで答えてくれた。厨房用アダマンタイトインゴットをグネグネと動かして、ゴレムスくんはザックリと私の要望を叶えてくれた。これを後は細かく調整していく。作り直しがスグにできて、微調整もできるなんて便利だよなぁ。
完成した二枚のドーム状の製氷皿みたいなのを、飴細工班の所に持っていく。
「どんな感じ?」
「こんな感じですが、かき混ぜると何故か固まりました」
料理長は完成形を知らないので、かき混ぜて固まったパターンと、固まっていないパターンの二通りを用意してくれたみたい。
「固まっちゃった方は今回はダメかな。アンズは?」
「私の方は鍋を揺らす程度にしたので固まってないよ」
かき混ぜると上手くできないみたい。これでまた一歩前進だよ!
私は鍋を水に付けながら様子を見る。温度を下げながら良い感じのトロミになるのをかき混ぜて調整し、試しに作って見ることにする。
フォークですくって、手早くドームに垂らしていく。これ粘度が高いから手にかかったりしたら火傷しそうだよ。
ドームのへこみに流す様に垂らした方と、裏返してドームの膨らみに垂らす二パターンを用意したがはっきり言って下手くそだ。なんか細さは均一じゃないし、ダマみたいになってる所もある。まぁ試作だし、実際に作るのは料理人達だからね……。私は下手でも良いんだよ、うん。
後はお玉の裏にスプーンで太めに垂らしてドーム状の格子を作ってみたり、ただ垂らしたものをスプーンで広げてみたりと色んな形を作ってみた。この辺も研究してもらおう。
アイス班のリリもゴレムスくんに協力してもらって仕上げのコロコロタイムに入ったみたい。ゴレムスくんと、少し楽しそうにボトルを転がしている。
完成したシンプルなアイスを、少し成形してお皿に盛り付ける。やはりそれだけだと見栄えは地味だね。ブルーベリーソースをアイスに網目状にかけて、お皿にも垂らす。
最後にドーム状の飴細工をのせて完成なんだけど……へこみに垂らした方は取り出すのが不可能だね。パリパリ割れちゃう。ドーム状の方は慎重にカポッと取れば何とかなった。油を薄く塗ったりすればいいのかな? これもまた学びだね。
アイスに板状の飴細工を刺して、ドームを立て掛ける様にのせてっと。
「はい、完成! どうかな?」
「可愛らしいですわ!」
「華やかになりましたね、流石は師匠です!」
ブルーベリーソースで色味が加わって、黄金色の飴細工が立体感を出してくれている。初めて作ったにしては上出来でしょう! 私も満足だ。
「でもこれどうやって食べますの?」
「そんなの簡単だよ。えい」
私が普通にスプーンで叩いてパリッと割ると、その場にいた全員が悲鳴ともとれる声をあげた。
「綺麗だけど食べられる飾りだからね。ほらあーん」
リリにあーんをして食べさせ、シャルロットにもパリパリの飴細工を食べさせてあげる。味自体はただの砂糖を溶かしたような物だから特別美味しくもないけど、パリパリと音が鳴るのが楽しいのかシャルロットはおしりを揺らした。
「ほら、これなんかシャルロットのファーに似てない? 色が違うけどさ」
私はフォークで高いところから垂らしたほそーい糸状の飴細工の束を手に取ってシャルロットに見せると、シャルロットはガチガチとアゴを鳴らして同意をしてくれた。
そんなシャルロットのファーを一撫でしてから、ファーをじっと見ながらパリパリと飴細工を食べる。するとシャルロットは羽から虹色の光を出しながら、ゴレムスくんの後ろに急いで隠れるのだった。
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