第63話 仲直り

 早く怒られてきなさい、と神父様に教会から追い出されてしまった。教会の扉は誰にでもあいてる、みたいな話聞いたことある気がするんですけど? 追い出されたんですけど?


 神父様は深く考えずに怒られてきなさい、なんて簡単に言うけどどうして早く言わなかったのかと、勝手に街へ行くな、の豪華二本立てで怒られるのだ。そんな簡単に終わるような話じゃない。


 どうしたらなるべく怒られずに済むのか考えながらトボトボ歩いていると、お家が見えてきた。何故か家の前にはお父さんが立っている。もしかしてお母さんが未だに怒り心頭で家の中は危険地帯になっているのかもしれない。


 家の前まで来たらお父さんが私の目線に合わせて屈んだ。


「ノエル、おかえりなさい。大体の事はママから聞いたよ。ノエルの気持ちとか覚悟とか頑張りとか……そういうのを無視して怒ってしまったのはママが悪いと思う。そこは後でちゃんと謝ってもらおう。だけどね? ママだってノエルと離れたくなくて、ついワガママを言ってしまったんだよ。……だからさ、ママのこと許してあげられないかな?」


 許してあげるも何も、私はそもそも怒ってはいない。驚いたし、言いたい事もあるけど許す許さないなんて大袈裟な話ではないよ?


「お父さん私は――」


「いいよ、ノエル。パパはわかってるから。だってノエルは頑張ってるもん。街に行って、沢山頑張って来たんでしょ? 街の話はパパまだ聞いてないけど、商会の人と連日連夜話し合って対策を練ったり、お貴族様に良いように使われないで済むように色んな人に挨拶して根回ししたりさ、きっとパパやママには想像もできないような沢山の努力をして、それでやっと手に入れた辺境伯との謁見でしょ? それをママが何とかしろーみたいに言い始めたらノエルだって怒るのは無理ないよ」


「いやだから、お父さん――」


 お父さんは待ったと手を突き出して話を続ける。


「でもね! それでもやっぱり子供と離れる事になってしまう親としては、例えどんな事情であっても、わかりましたと頷けるものではないんだよ。パパとママがノエルの心にしっかりと寄り添えているかは正直わからない。その癖親の気持ちをわかって欲しいなんていうのは虫が良すぎるとは思う。だけどこれだけは覚えていて欲しいんだ、パパとママはノエルの事もレオの事も世界一愛してるんだよって……。だからね、ノエル、ママと仲直りしよう? このままお別れなんて悲しすぎるでしょ?」


 なんかお父さんが一人で盛り上がって私の話を聞こうとしない。そしてちょいちょい入るパパは娘のこと一番理解してます! みたいな顔がイラッとする。お母さんのヒステリックよりイラッとする。


 結局はいと答えるまでパパはわかってるよトークが続くんでしょ?


「わかったからもう入ってい? 疲れちゃったよ」


「そうか……! パパの話をわかってくれたか……ッ! さすがはウチの娘だ!」


 そう言って抱きつこうとするお父さんを身体強化で躱して家に入る。まさかはいを選択しても続くとは思わなかったね。完全に罠だ。


「ただいまー」


 玄関を開けて家に入る。お父さんが入ってくる前に扉は閉めちゃおうね!


「ノエルッ!」


 今度はお母さんが走ってきてそのままの勢いで私を抱きしめる。シャルロットは素早く離れたみたいだね。


「ごめんなさいっ……! 私……私ったらあなたの気持ちも考えないで自分勝手に喚き散らして……。本当にごめんなさい……」


 お母さんは今までにないくらい強い力で抱き締めている。まるで、私が何処にも行かないように、消えてしまわないように。もう二度と離さないと言わんばかりに……。


 ……これはラストチャンスなのでは? ここで親子の悲しい別れを演出しつつ、一度うやむやでむにゃむにゃにしてしまうのだ。レオと私とお母さんの三人で仲良くベッドに入り、子供らしい将来を語るのだ。私が大きくなったら必ず迎えに来るから、そしたら家族三人で街で暮らそうねと。そして謁見を終わらせて、ほとぼりが冷めた頃、辺境伯様から許しを得たという設定で家の扉を勢いよく開ける私。 お母さん! ノエル! 親子感動の再会、流れ出すBGM! 

 うん……いける、いけるぞ! インスピレーションが湧いてきた! ヨーイアクション!


「お母さん……私が、私がいけなかったんだよ……。いつも自分のことばっかでお母さんの気持ちをちゃんと考えられてなかったの……。ダメな娘でごめんなさい……、ごめんなさああああい!!」


「…………ねぇ、ノエル。……あなた私に何か隠してるわね……?」


 なぜしバレたしどうしてだし! 私テンパリングです!

  ちなみにテンパリングとはお菓子作りにおけるチョコレートの温度管理の事だよ! それとテンパるの現在進行形を掛けた甘く蕩けるようなスイーツギャグだ! 最高にテンパってるぜ!


「な、なにも? まっさかー! この後に及んで何を隠すというのですかお母様。それに証拠もなく娘を疑うなんて信じられませんなぁ! っかーせっかく仲直り出来ると思ったのになー!」


 落ち着け、まだ挽回できるぞノエル! 踏ん張りどころだー!


「あなた目が泳いでるわよ。その歳でそんなに泳げるなんて私の娘は人魚だったのかしら……。はぁー……。もういいわよ」


 お母さんは私を抱き上げてイスに座り、後ろから抱き締めるように膝の上に乗せた。


「全くあなたはいつもそう。大切な話をしてる時でも変な事して変な空気になって……。フフフッ、何だか力が抜けちゃうわね」


 お母さんは私の頭に顎をのせて喋る。それ振動が頭蓋骨に響くよ。


「……ちゃんと会えるんでしょう?」


「うん、平気だよ。どうにでもなると思う」


「……そう、ならママも許してあげる。だからノエルも許してね。……あそうだ、結局何を隠してたの?」


 お母さんは私のお腹に両手を回して鼻歌なんて歌いながら身体を揺らしている。お母さんもきっと不安だったんだろうな……。


「隠してたって言うとちょっと語弊があるよ? えっとね、お家から街までの距離ってさ、私がびゅーんと魔法使って走ればお母さんがエマちゃん家まで歩くくらいの時間で着いちゃうんだ。だから特に用事とかない日は帰ろうと思えばすぐ帰ってこられるんだよね。だから私的にはエマちゃんの家に住むのと変わらないかな」


 気のせいかな、エマちゃんの歓声みたいなのが聞こえた気がする。


「あら、ノエルったら魔法使ったらそんなに速いのね。じゃあ頻繁に帰ってきなさい」


「はーい」


「ところでノエル、どうしてそんな事知ってるの? 街へ行ったのはアレクシアと一緒だから一人で走って街に行ったことなんてないわよね……?」


 気のせいかな。お腹に回っているお母さんの手が私をギリギリと強く締め付けてる気がする。ねぇこれ中身出ちゃうよ?


「お、お母さん、怒らないって言ったよね? このままだと出ちゃうから、誰にも見せたことの無いノエルの内側の柔らかい部分出ちゃうから!」


「まるで心の内みたいな言い方ね。ママは怒らないなんて言ってないわよ。ただ上機嫌で許してあげると言っただけ。その後の事なんて知らないわー」


「お母さんずっこい!」


「ただいまー! お、どうやら仲直り出来たみたいだね」


 お父さんが計ったようなタイミングで帰ってきた。絶対にずっと見てたよね。そもそも家の前にいたんだし。


「パパお腹減っちゃったよー。ご飯はノエルが作ったんだって? パパ楽しみだなー!」


 思わず私とお母さんの体がビクッとした。……もうないのだ。たくさん作ったクリームシチューは動けなくなる程食べたオルガちゃんだけでなく、お母さんも他の皆もおかわりした。ハンバーグも同じだ。お父さんの分なんて考えてなかったよ。


「お、お母さん、どうにかしてよ」


「無茶言わないで。……いえ、平気よ。私に考えがあるわ」


 ●



 結局このあと何食わぬ顔でじゃあ用意するねと言っていつもの野菜スープを作った。お父さんは私主催のママ友ランチが開かれた事は知っていても、何を作ったかまでは知らないのだ。


 お父さんは何食わぬ顔で出したいつもの野菜スープを、やっぱり娘の作る料理は美味しいなぁと嬉しそうに残さず食べたのだった。

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