第60話 料理は時間との勝負?

 エリーズさんは何やら思い詰めた表情で少し横になるわ、と部屋を出ていった。大丈夫かな? やっぱり段階を踏まないでいきなり生クリームを食べたから身体に負担が掛かったのかもしれない。そして気が付いたんだろうね、徐々にスイーツに身体を慣らしていこうと思ってもこの村では難しいってことに。


「エーマちゃん、シャルロットと遊んでくれてありがとう!」


「きゃっ!」


 床に座っているエマちゃんに後ろから覆い被さる様にぎゅっと抱き着いた。シャルロットは虫だから、どうしてもそのビジュアルから受け入れて貰えない可能性もあった。だけどエマちゃんはそんな事気にせず、寧ろ積極的に面倒を見てくれた。私はそれが凄く嬉しかったのだ。シャルロットはもう私の家族だからね、仮にシャルロット自身は気にしないとしても嫌われる姿はやっぱり見たくないよ。


「ノ、ノエルちゃん! どうしたんですか? 寝ますか? いいいいいい一緒に手を繋いで寝ますか?!」


 エマちゃんが凄い鼻息荒くそんな事を言う。別にそれくらい構わないけど。


「いいよ?」


「ガハッ! 耳元で……耳元で……刺激が強すぎ……る」


 エマちゃんは咳をした後何かモニョモニョと呟くと、座ったまま土下座をするみたいにペシャっと潰れて眠ってしまった。今にも眠ってしまいそうな程眠かったのに、無理してシャルロットと遊んでくれていたようだ。


「シャルロットおいで、エマちゃんに感謝だね。遊んで楽しかった?」


 ガチガチ


「そっか。良かったね!」


 でもエマちゃんは土下寝してるし、エリーズさんも寝てしまったし、私たちは一体どうしたら……? 折角だし、お昼ご飯でも作ろうか。一度家に戻って食材を取ってこよう。あ、でもお母さんもお昼ご飯食べるだろうし、いっその事ウチで作ってオルガちゃんとアレクシアさんも呼んで三家でママ友ランチみたいにするのも楽しそうだ。そうしよう!


 着てきた薄手の上着を寝てるエマちゃんに掛けてあげる。エリーズさんの寝てる寝室に入るのは流石に気が引けるからこれで許してくれ。


 そして文字積み木でお昼ご飯を作るから家に来てとメモをする。やっぱりノーコストで伝言残せるのは便利だね。ウチじゃ私しか字が読めないから使えないけど。


 そっとエマちゃん家を出てアレクシアさん家に向かう。悪いけど空の荷車は一旦預かっててもらおう。


「よし、シャルロット! 妖精モードだ!」


 ガチガチっと返事をしたシャルロットが背中に張り付き、フワッと私を持ち上げる。このまま真っ直ぐアレクシアさん家まで飛んで行こう!


 真っ直ぐびゅーんと飛べばすぐにアレクシアさん家に着いた。走った方が早いけどそれは言わないお約束。


 トントン


「オルガちゃーん、アレクシアさーんいますかー」


 ドタドタ走り回る音と共にオルガちゃんが飛び出してきた。


「ウチも母ちゃんもいるぞ! ノエルも久し振りだな!」


「久し振りー。もうお昼ご飯食べたり作ったりしちゃった? 突然だけど、良かったらエリーズさん達も呼んで一緒にどうかなって」


「行く行く! かあちゃーーん! ノエルん家行くことになったぞー!」


「バカ娘ちゃんと説明しろーー」


 オルガちゃんが家の中に叫ぶとアレクシアさんの声が聞こえてきた。埒があかないね。


「ちょっとあがってもいい?」


「いいぞー!」


 家の中に入ってアレクシアさんの所へ行く。


「あぁいたいた、アレクシアさんこんにちはー!」


「お? 何だ来てたのか、いらっしゃい。昨日の今日でどうした?」


「実はこれからお昼ご飯作ろうと思ってて、エリーズさん達も呼ぶつもり何だけど、アレクシアさん達もどうかなーって。メニューはこないだ食べたクリームシチューとハンバーグになっちゃうからアレクシアさんには申し訳無いんだけどさ」


「構わんよ。またあれが食えるなら寧ろ大歓迎だ」


「じゃあテキトーな時間になったら来てよ。これから作るからさ! それじゃあまた後で」


「なぁなぁ、母ちゃんは何を食べたんだ? まさか自分だけ美味いもの食ったのか?」


 後ろで母娘の会話が聞こえてきたが気にせず飛んで帰る。速度は足りないけど、真っ直ぐ飛べるのはやっぱり便利だ。私の身体強化をシャルロットにも施せないか今度試そうかなぁ。今の所スプーンの犠牲虚しく、強化は自分しか出来ていないけど、私の魔力をたらふく食べてるシャルロットならワンチャンないかな? もっかいゲロゲロ進化させてみる……? 流石に可哀想か、気長に待とう。


 空から眺める村はいつもと一味違っていて、新鮮だ。流石に空を飛んでもティヴィルの街は見えないね。


「シャルロットは私と飛ぶのは好き? それとも大変?」


 ガチガチ


 二個聞いちゃったからわからんわ。そんなこんなでシュタッと我が家に到着!


「お母さんただいまぁー! ちょっと突然の思いつきでエリーズさん家とアレクシアさん家の面々をお昼ご飯にご招待しちゃったー! 平気?」


「はぁー……。ほんとにノエルは突然ね……。招待したのはいいけど何作るの? いつもの食事って訳じゃないんでしょう?」


「うん! 街でも作ったんだけど、クリームシチューとハンバーグを作るよ! 牛乳は早く使っちゃわないと日持ちしないしさ。もう全部使っちゃおうと思って。お母さんも手伝ってね」


 二人並んでお料理をする。初めて一緒にお料理した時はほとんど何もさせて貰えなかったっけ。


「ねぇお母さん、覚えてる? 私が本物のスープを作ってあげましょうって言いながら結局いつものスープ完成したの」


「ふふっ、覚えてるわよー? あなたが初めて暴れる以外に女の子らしい事しようとした日ですもの」


 お母さんは昔を懐かしむように少し遠い目をしている。まだまだ本物のスープとは言えないけど、やっと美味しいスープを振舞ってあげられるね。


 相変わらず何肉かわからないお肉を包丁でダダダダダっとミンチにする。どうやらそれがうるさかったようでレオが泣き出してしまった。


「お母さん、ここは任せてレオの所に行ってあげて! 赤ん坊は泣いても構って貰えないと大変な事になるんだって聞いた事あるよ!」


「行くけどそれ平気……? なんでお肉そんなめちゃくちゃにしてるのよ……」


 お母さんは恐ろしい物でも見るような目でミンチを見ながらレオのところに向かった。今日の食事はレオの離乳食にするには味が濃いだろうし、レオのご飯はお母さんに任せよう。


 お母さんが居ない間にちゃっちゃとクリームシチューもハンバーグも作っていく。今回はチーズを入れてチーズインハンバーグにしよう! これならアレクシアさんも驚くこと間違いなしだ! テキパキと作業を進めていると、あっという間に後は焼くだけ。これでお客さんの到着を待つだけ……だ……と思ったけどやらかした。やらかした! だからソースが作れないんだって! 串焼き屋もないんだよ! お父さんのお土産で買ってきた赤ワインでそれっぽく作る? 多分玉ねぎとバターかなんか入れて煮詰めればそれっぽく……いやダメだ、今日はエマちゃんもオルガちゃんもいるから、万が一上手く出来なくてアルコールが残ったりしたら大変だ。私の浅い知識じゃ怖すぎる。


 こうなったら仕方がないか……。串焼き屋だ。街まで行って、全力で帰ってくる。それしかない!


「シャルロット、私ちょっと街までびゅーんて走ってくるね。たぶんシャルロットも危ないから待ってて」


 ガチ……ガチ


 渋々って感じかな? もう時間がない。お金とギルドカードをバッグに入れて……。


「お母さん、ちょっと、ちょっとだけ出かけてくる! 待ってて!」


「出かけるってど――」


 私は家を飛び出した。門を潜る時間も惜しいから村の柵は飛び越えた。ここからは更に速度をあげよう。バッグは前に抱いて空気抵抗を減らす様に姿勢を少し前かがみにする。後は身体強化マシマシだ!


 これどれくらいのスピード出てるんだろう? 体感時間十分も掛からずに外壁が見えてきた。一度目印にこの辺の地面壊しとこう。帰りに迷子になりたくないからね! 道を壊すと迷惑がかかっちゃうから少し離れた草むらにカカト落としをする。ボゴンと音を立てて地面がエグれた。そこまで派手じゃないけど私が分かれば事足りるし、後は急いで人の少ない東門へ行こう。


 東門にはこの前仲良くなった門番さんがいた。ラッキー!


「やっほー! 門番さん。あのね、今緊急事態で早く通りたいんだ。はい、これギルドカード。本当はもっと門番さんと遊んでか――」


「よーし確認したから通れー? 時間ないんだろ? 俺のことはいいから早く行けー? 頼むから早く行ってくれー?」


「気を使わせちゃったね、またすぐ戻って来るから待ってて!」


 門番さんはギルドカードの確認もおざなりに急いでいる私を通してくれた。持つべきものは友だね!


 宿屋休日近くの串焼き屋まで屋根の上を走って真っ直ぐ向かい、私はソースを買い付けた。串焼き屋の店主にはお前か、お前だったのかと謎の言葉を頂いた。


 後は帰ってソースを作るだけだ!

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