第49話 街への帰還
行きは二人だったお出掛けも、帰りは仲間が増えて三人だ。増えた一人はキラーハニービー(仮)の女王蜂、名前はシャルロット。
何故(仮)なのかというと、虹色ゲロ魔法で光の繭に包まれてから姿が少し変わってしまったからだね。アレクシアさん曰くキラーハニービーではなくなったんじゃないかって。
ちなみに名前の由来はお菓子。お妃様の名前から付けられたとか言われてるお菓子だね。女王蜂だしピッタリでしょ?
そのシャルロットは今私の背中にしがみついてずっと私の魔力を食べ続けている。意外と少食なのか魔力が減ってる感覚はあまりない。もし魔力は消費した分だけ最大量が増えていくならこれは凄いことになるかもしれないよね。
私は身体強化とシャルロットに魔力を食べさせる事で常に消費し、シャルロットは食べて補充しながら姿を隠す魔法で常に消費するのだ。二人とも無限に魔力増えていかない?
何か考え事をして、少し歩くのが遅くなっているアレクシアさんの前を、私とシャルロットは跳ねながら歩く。今はもう森を抜けて街まで続く土の道を歩いている。シャルロットの生まれ育った場所がさっきまでいた森なのかはわからないけど、森を抜ける時も特に何も感じてなさそうだった。薄情な子だよ。
私が片足でピョンとジャンプして、シャルロットはそれに合わせてフワリと私を持ち上げる。ゆっくりフワフワ地面に向かい、片足でちょんと着地する。そしてまた片足でピョンと跳ねるのを繰り返し繰り返し練習している。
この軽やかな妖精ウォークを完全にマスターすることが出来たら湖の中心でやるんだ。水面にちょんと波紋が広がるくらいフワリと着地出来れば妖精らしさ極まれり、って感じでしょ?
「シャルロット私たち良い感じだね。でも辛くなる前に言ってね? 無理するような事でもないし」
ふんわり着地、ふんわり着地。
「それ、飛んだままじゃダメなのか?」
「ダメってことはないけど、それだとなんか芸が無くない? ほら」
私はシャルロットに任せて空を飛ぶ。傍から見れば空を飛んでるけど、私からすればただの運搬なのだ。土の道沿いに真っ直ぐすーっと飛ぶ。
「どう? 可愛いとか感想ある? ないでしょ? 浮いてるなぁくらいなもので物足りなくない?」
私はまた妖精ウォークに切り替える。たまにアレクシアさんの方へ振り返ったり、ポーズを変えたりする。
「確かになぁ。さっきの飛んだままの場合だと移動してるだけって感じだが、その飛び跳ねる方は可愛らしく見える。色々考えてんだなー」
「でしょー?」
これでも前世は女子高生をやっていたのだ。写真や動画で可愛く見える様に、面白く見える様に立ち回るのはよくある事だったよ。いつも誰かが動画撮ってんだからね。
「それで色々考えてるノエルさんはシャルロットを街に連れていく方法は考えたのか?」
「も、もちろんだよ?」
予想外の話に妖精ウォークが乱れてしまった。ピョンとするタイミングがズレて普通に飛んでるよ。
「このまま妖精ウォークで普通に入ればいいんだよ。人間普通じゃない事でも堂々とやられると案外何も言えなくなるんだよ?」
「それ後になってバレた時にシャルロットだけ追い出されるかもしれないぞ?」
今度はシャルロットが妖精ウォークを乱してしまった。片足でピョンとジャンプしてそのままスタっと着地しちゃった。シャルロットは私の肩に顔を埋めてイヤイヤしてるね。
「シャルロットがそれは嫌だって。お得意のイヤイヤしてるよ」
「無難にちゃんと説明するしかないよなぁ。なぁ、今更なんだが魔法云々の前にガッツリ目立つが良いのか?」
「どうなんだろ? 普通に考えたら大人しくしてろって怒られる奴じゃないかな?」
そして怒られる時はきっと保護者であるアレクシアさんも一緒だ。
「いっそアレクシアさんに付いてきちゃったって事にしたらどう? それで私の護衛を任せてるみたいなさ。それならB級冒険者だし、私が連れてきたより安心感とか説得力とかあると思うけど」
「とりあえずはその方向性で連れて行くかー。私村に帰ったらジゼルとエリーズに怒られるんだろうなぁ。今から憂鬱だ」
アレクシアさんはハァと溜息を付いた。少なくとも私はシャルロットの件でお母さん達から怒られる事は無いと思っている。文句を言われそうになったら蜂蜜を出せばいい。そしてこう言うのだ。この蜂蜜を作ったのはシャルロットの配下です、と。
まだ食べていないから正確にはわからないが、砂糖である程度のやらかしはお目溢しして貰えたんだから最高級蜂蜜の生産者連れてきましたーって言えば寧ろ褒められる可能性だってあるぞ。今は一匹だけだけどね。
だからアレクシアさんが今やるべき事は、未来について嘆き悲しむのではなく、シャルロットに媚びへつらう事なんだよ?
「ねぇー。シャルロットー」
●
街の東門近くまでやってきた。つい夢中になって妖精ウォークを披露しながらここまで来てしまったね。東門の入場待ちはやはり少なくて、早めに帰ってきた冒険者がちらほら居る程度だ。すぐに私たちの番が来るだろう。
「ねぇねぇ、もうお昼は過ぎちゃったけどお昼ご飯食べるでしょ? さっき言ってた蜂蜜トーストでいいかな?」
「いいんじゃねーか? でも夕飯はしっかり食いたい」
「それじゃあ街に戻ったら簡単にお買い物済ませよっか。調味料は買ったし、マリーさんとこの本店で良いよね。あ、門番さんお疲れ様でーす。これ身分証でーす」
「待て、その背中の羽はなんだ?」
ナチュラルに通ろうとしたけど無理だったね。意外としっかり仕事してるぞ。
「あぁ、すまない。実はキラーハニービーが懐いてしまってな。一緒に居たいと離れないんだよ」
「シャルロットー、姿見せてあげてー」
キラキラ光を纏って私の背中に張り付いたままのシャルロットが姿を表す。表したよね? 背中側だからわからない。
「どう? 見える?」
「あ、あぁ。お嬢ちゃんは平気か? 俺には捕まって連れ去られる一歩手前にしか見えないが」
「大丈夫だよ? シャルロットとは仲良しになったから。この子街に入れたらダメ?」
「正直未登録で檻にも入れてない魔物は入れられないぞ。悪いな」
「シャルロットバイバイだってさ」
シャルロットお得意のイヤイヤが発動。首を必死に振るイヤイヤだけじゃなくて、引き剥がされまいと私の身体に脚を食い込ませる様に力一杯しがみつく。
「シャルロットイヤだってさ。こんなに嫌がってるのにお兄さんはシャルロット追い出すの? それならしょうがないから私も街に入らないよ。シャルロット一人ぼっちにできないしさ。ワガママ言ってごめんねお兄さん。私は人の生活を忘れて森で生きていくよ」
「まてまてまて、わかった。少し面倒だが、小型の魔物用の檻を用意するからそこに入れろ。それで冒険者ギルドで登録を済ませれば問題はなくなる」
「そんなルール合ったか?」
「あるぞ。馬車を引かせる従魔や貴族のペットなんかを街に入れる為の仕組みだ。普通は使わんから知らないのも無理ないさ。当然魔物が何か問題を起こした場合は登録者に責任が行くから気を付けろよ」
そう言って門番さんは持ち場を離れて暫くした後、詰所から荷車を引いてきた。荷台部分にはそれほど大きくはないケージが乗せられている。
「ほら、荷車も一緒に貸してやるからここに魔物入れろ」
だってさ、シャルロット。離れないね。
「シャルロットどうしてる? 私背中だから見えないんだよね。なんか肩のところグリグリしてるから予想できるけど一応どうしてる?」
「シャルロットはお得意のイヤイヤしてるぞ。なぁ、シャルロット。お前がここに入らないとここでお別れになるぞ? それでいいのか?」
シャルロットはお別れが余っ程嫌だったのか、アレクシアさんの説得に応じて渋々、それはもう仕方なくといった雰囲気を滲ませながら、少し狭い檻へと飛んで入っていった。
私を掴んだまま。
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