第47話 キラーハニービーとの交渉
キラーハニービーに置いていかれないように尾行を続ける事約一時間、遂に巣を見つける事に成功した。巣は私より遥かに大きく、木の幹を支えに、まるで蟻塚の様にそびえ立っていた。まぁ三十センチもあるキラーハニービーの巣が小さいわけもないし、枝にぶら下げられるほど軽いわけもないよね。でも巣の大きさとキラーハニービーの大きさを比較すると数自体はそんなに居ないようだ。精々が百匹くらいだろうか?
私達が一定の距離まで近付いた為か、何十匹ものキラーハニービーが顎をガチガチ鳴らしながらこちらを見ている。多分これが威嚇で、これ以上近付けば攻撃されるんだろう。
「それで、こっからはどうするんだ?」
「まぁちょっと行ってくるからアレクシアさんは離れててよ」
私は身体強化マシマシで巣へと近付く。最高級の蜂蜜の為とはいえ、随分と手間をかけさせてくれたものだ。もう目の前にあるんだから遠慮はいらないね。
共存の為に必要なのは敵対しないこと、そしてお互いの利益になる事を示すのが大切だと私は思う。
身体強化を増し増しにして、威嚇などお構い無しにドンドン巣に近づく私にキラーハニービー達は一斉に襲い掛かる。襲い掛かって来てるけど、私は自分の顔を両手で隠してるから何をされてるか正直わからない。おしりの針を使ってるのか、噛み付いているのかわからないが、全ての攻撃を真っ向から受け止めながら歩みを止めることなく巣へと近付く。因みに顔を覆ったのは流石にキモイからです。大量の巨大ミツバチをゼロ距離で見たくないし、顔に張り付かれたくない。指の隙間から確認すると、巣の近くまで来たので作戦第二段階に突入する。
「キラーハニービーの女王よ。あなたは完全に包囲されている」
「おーい、全身包囲されてんのノエルだぞー。大丈夫かー?」
「キラーハニービーの女王よ。私は完全に包囲されている。しかし、私が包囲されている時、相手もまた包囲されているのだ」
「わけわからんぞ? ほんと平気か? 助けいるか?」
少し焦ったような声が聞こえてきたから、振り返ってアレクシアさんがいるであろう方向へ大丈夫だよと片手を振る。何匹か殴った気がするけど大丈夫だよね?
私はまた巣の方に向き直り女王蜂に呼びかける。
「なぁ、女王よ。私は敵じゃないよ。わかるでしょ? これだけ攻撃されていながら反撃はしていないんだからさ。少し交渉がしたいから出てきておくれ」
すると、あれ程騒がしかった私の周りから、蜂の気配が遠のいた。どうやら女王のお出ましかな。指の隙間からそろーり前を確認する。
私の一メートルくらい前には今まで居たキラーハニービーの倍近くはあるだろう大きさのキラーハニービーが飛んでいる。なんかフワフワのファーみたいなのが首回りや手足に付いていてゴージャス感が強いが、やっぱり見た目は虫だ。出来ればもう少しだけでもデフォルメして欲しかったと思うのは私の贅沢なのかな。
「あなたがこの巣の女王蜂ね? 今更だけど、出てきたって事は言葉がわかるって事でいいんだよね?」
これでわからんとか言われたら今まで何してたのって話になるよ。大量の蜂に襲われながらも一生懸命蜂に声をかけ続ける美少女とか、完全に頭が悪いって誤解されるぞ。
幸いにもコミュニケーションが取れるようで、女王蜂は首を縦に振った。
「実は貴方達の作った蜜を分けて欲しくてここまでやってきたの。勿論、全部よこせとか、タダで寄越せなんて言わないよ? 八割、いや九割、うん。九割貰える?」
女王蜂は私の要求が余っ程不服だったのか、顎をガチガチと威嚇の様に鳴らしている。阿呆め、人が下手に出れば調子に乗りやがって。
私も身体強化を更に強く掛けて負けじと歯をガチガチと鳴らす。やんのかゴルァ。ガチガチ、ガチガチ。
「いや、ノエル。お前の言葉は通じてんだから喋ればいいだろ。それに九割は流石にあんまりじゃねーか?」
もう安全だと思ったのか、アレクシアさんがすぐ後ろまで来てた。
「たしかにね。そこまで取るんだったらいっそ全部取ればいいだろって思わなくもない。え? つまりそういう事!?」
「違う。全然違う。コイツらだって必要だから蜜を集めてるんだろ? それを九割も盗られたら堪らんよ」
アレクシアさんの言葉に同意するように首を縦に一生懸命振っている。悪いけど頭もげそうだからあんまり振らないで欲しいな。虫ってすぐ手足もげるしさ。目の前でゴロッと頭取れたら軽くトラウマになるから辞めてね。
「わかったよ。欲に目がくらんだけど、こんな大きさの巣なんだから九割も持って帰れないしね。代わりにこのビンに入れてよ。それなら平気?」
私は買ってきたばかりの大き目のビンを三つ程バッグから取り出して地面に置いた。それをみた女王は不承不承といった様子で働き蜂に指示を出して運ばせている。彼らがビンに詰めてくれるのかな? 助かります。
「それで? ノエルは対価として何をこいつらにやるんだ? 花でも育てるか?」
「ん? そんな時間かかる事しないよ。アレクシアさんが前に言ってたでしょ? 魔物は魔力を喰って成長してるって、だから魔力で払うよ」
私は女王蜂の頭を掴んで口に指を突っ込む。五歳の頃、火や水の魔法を使おうと思って一生懸命練習した魔力の放出がここで初めて役に立つね。今までは攻撃にも防御にも何にも使えなかったけど、きっと今日のこのエサやりの為にあの日々は存在したのだ。やはり訓練は私を裏切らない。
少し戸惑った様子を見せていた女王蜂も、私が魔力を食べさせてくれている事を察してか大人しく吸っている。ただ、なんというか遠慮してるのか吸う量が少ない。遠慮せずドーンといけ? ほれドーンと。
「なぁ、絵面が結構ヤバいのとソイツなんか嫌がってないか?」
「なんで? 嫌がってないよ? 魔力ちゃんと吸ってるし」
「いやでも頭を左右に動かして、手足で一生懸命お前のこと叩いてない? それ私にはイヤイヤってやってるようにしか見えないが」
「アレクシアさんわかってないなー。ウチのレオだって私が抱っこするといっつも大体こんな感じよ?」
「お、おい。マジでやめとけ? なんかグッタリし始めたぞ……?」
心配性過ぎるアレクシアさんが騒ぎ始めたので一旦指を引っこ抜く。ホバリングしてた女王は私が指を引っこ抜くと同時に地面へ力無くヒラヒラと落ちていく。
「あ、あれ? だ、大丈夫? 食べ過ぎて体重くなっちゃったかなぁ?」
「だからやめろって言ったじゃん。なんか震えてるぞソイツ、怒ってないか?」
「ご飯貰って怒るとかある?! ないよね。多分生まれて初めて知った満腹って状態に感動して震えてるんだよ。そ、そうでしょ?」
地面に蹲るようにして震えている女王蜂は、限界を迎えてしまったのかおびただしい量の虹色のキラキラを口から吐き出したのだった。
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