第46話 いざ街の外へ!

 受付嬢のおススメにあった採取用の道具が買えるお店でビンを何個か買った。やっぱりガラスの加工は技術的にまだ成熟していないのか結構いい値段がしたけど、これも美味しいと評判の蜂蜜の為だと思えばなんのその、だ。是非とも沢山取ってお家にお土産として持ち帰りたい。でも赤ん坊って蜂蜜ダメなんだっけ? 妊婦がダメなんだっけ? 正確にはわからないからレオにはあげられないしレオ用には別のお土産も考えないとね。


 私とアレクシアさんはメモに従って東門へと向かう。キラーハニービーが目撃されたのは東門から暫く歩いた先にある森だとメモには書いてある。


 アレクシアさん曰く、東門と西門を使うのは主に冒険者だそうだ。国の中心部へ行くには北門、隣国へ向かうなら南門を使う人が大半なんだってさ。だから比較的空いてる東西の門は多少遠回りになろうと毎日のように街を出入りする冒険者が使うそうだ。待つくらいなら歩くって心持ちなのかな? わからんでもないよ。


 金属を叩く音や罵声にも似た活気ある声が鳴り響く職人街を通り抜けると東門へと辿り着いた。東門は南門に比べて多少小さく見える程度で大差ないが、待機列は圧倒的に少ない。大きな広場に大きな門、そこに集まる疎らな人々、なんだかゴーストタウンって感じがするね。


 私は作ったばかりの身分証を握り締めて街の外へ出る列へと並んだ。やはり並んでいる人も冒険者っぽい装いの人が多くて普段着で子供の私は少し浮いてる感じがする。


「ねぇアレクシアさん、私も防具買った方がいいかな? どうせ買うなら可愛いのがいいな」


「ノエルに防具っているのか……? よっぽど良い防具じゃなければ短剣でも刺さったりするぞ?」


「そんなに脆いの? 意味無くない?」


「お前と一緒にするなって。防具を付けてても攻撃は貰わない前提で動かなきゃダメだ。魔物の中には大型の奴も少なくない。極端な話この門くらいの身の丈の魔物にぶん殴られた時に防具付けてたから平気でしたーとはいかないだろ? 物によるが大抵は万が一に備えた程度の性能だな」


「そんなもんかー」


 そんな話をしてると、私たちの検査の番になった。


「次! 身分証を」


 私は待ってましたと言わんばかりに出来たてホヤホヤのギルドカードを渡す。門番さんはそれをチラッと見て私に返す。


「日が暮れると門は開けられないからそれまでに戻るように。次!」


 それだけ? ほう、嬢ちゃんは小さいのに立派な冒険者なんだなぁとか、悪い事は言わないから街中の依頼をやりなさいとかそういうやり取りないの? 街に入ってきた時もそうだったけど、イマイチテーマパーク的な盛り上がりに欠けるよなぁ。


「なに呆けてんだ? 早く行くぞ」


「はぁーい」



 東門を抜けるとそれほど遠くない場所に森が見える。たぶんあれが例の森だね。また暫くの間、踏み固められた土の道を延々と歩いて森へ向かわなきゃならない。この世界は目的地まで歩く途中でオシャレなカフェを見付けたり、少し変わった作りの家やマンション、オブジェなんかを見かけることもない。本当に移動は退屈だ。私一人だったら全力で走ってるよ。私は心をすり減らしながら歩いた。


 一時間半くらい歩いただろうか、ようやく森の前までやってきた。


「ねぇ、アレクシアさん。私今の道を帰りも歩くって考えただけでもう泣きそうなんだけど。私の忍耐力が足りないだけで皆我慢しながら退屈な道を歩いてるの? せめて地面に線でもあれば、線から落ちたら死ぬゲーム出来たのにそれすらないじゃない」


「線があってもそんな恐ろしいゲーム誰もやらないぞ。普通はもっと緊張感もって移動してるから、よっぽどのアホじゃなきゃそこまで退屈さは感じないんだよ」


 アレクシアさんはため息をついてそう言った。遠回しにアホ呼ばわりされてる様な気がしないでもないが、今はそれより森だね!


 街へ来る時に寄った森とは別の森のハズなのに、特に違いは感じられない。強いて言うならこっちの森はそこまで深くなさそうだって事くらい?


 私はさっそく身体強化を更に強め、森へ足を踏み入れた。今日は獣の臭いも遠くに感じるね。これでまた近くに獣臭さを感じたらもうぴょん吉とか関係なく私がって事になる所だったよ。


「どうだ? 近くに獣のにお」


「黙って」


「悪かった悪かった」


 アレクシアさんのニヤケ面が腹立つけど仕方がない。森の中は比較的歩きやすく、近くには特に魔物も動物の気配も感じられないから取り敢えず真っ直ぐ進んでみよう。私が先導するように先を歩き、アレクシアさんはその後ろを付いてきている。


「キラーハニービーを見つけるコツとか対処法って何かあるの?」


「小さい羽音を聞き逃さない事と花が多く咲いてる場所を見つける事くらいか? 後は巣もデカイから見落とすことも無いな。基本的には温厚な魔物だが、巣に近付くものには容赦なく攻撃するからな、威嚇されたら不用意に動かず巣を見つけて巣から離れるのが対処法だ」


「アハハハッ! アレクシアさん面白いこと言うね。蜂蜜取りに来たんだから巣に近付かなきゃ本末転倒でしょ」


 キラーハニービーに襲われない為には有効な手段かも知れないけど、蜂蜜取りには使えない対処法だったね。私としてはこの草を燃やすとその煙でキラーハニービーが眠るからとかそういう対処法が知りたかったね。


「その事なんだが、どうやって採るつもりだ? 普通は一匹ずつ駆除して全滅させてから採ることになるがまさか二人でそんな事しないよな?」


「しないよ? 私に任せなさい」


 全滅させて蜂蜜をとる? バカを言わないで。養蜂において大切な事は共存だ。巣箱を設置し、蜂蜜の一部を家賃として徴収するのだ。それを全滅させてしまったら次はもう採ることができないではないか。


 獣臭い魔物は出来るだけ避けながら歩く。若干不安そうなアレクシアさんを引き連れて森の中をウロウロと歩いていると、遠くの方から微かに羽音が聞こえてきた。これで巣が近いなら手間はかからないが、蜜を探して飛び回ってるなら尾行しなければならないね。


 私はアレクシアさんに一声かけて、羽音のする方へと近づいて行く。そこに居たのは三十センチはありそうな蜂が一匹、花の周りを飛び回っている。私の想像ではデフォルメされた可愛らしいずんぐりむっくりな蜂だったけど、現実は結構グロい。単純にデカイ蜂だね。もっと大きかったら地球を防衛する軍を呼ぶべきかもしれない。


 三十センチくらいのサイズの蜂が普通の小さな花の蜜を吸って回ってるけど絶対効率悪いよね。だからソロ活動中なのかな?


「ねぇアレクシアさん。あれって巣に帰るのいつくらいになりそう?」


「いやわからん。気にした事もないしな。待ってみるしかないんじゃないか?」


「そうだね。ちょっと観察してよっか」


 キラーハニービーの働き蜂はあっちこっちへと花から花へ移動しながら蜜を集めている。森のお花畑を飛び回るミツバチを観察していると言えば何だかファンシーで可愛らしいけど、これを自分の意思で終えられないというのが中々に苦痛だ。極端な話、このキラーハニービーのさじ加減一つで私達は今日野宿なのだ。冒険者、ホント大変だな。ガムシャラに探すよりは早いと信じて今は待ち続けよう。


 結局随分と日も高くなり、私もアレクシアさんも目から光が失われ始めた頃になってキラーハニービーもどこかへと飛び始めた。恐らくだけどこれから集めた蜜を蜂蜜にする為に巣に戻るんだろう。頼む、そうであってくれ。そうじゃなかったらぶん殴って泣きながら巣に帰る様仕向けてやる。


 何故か一瞬だけ振り返ったキラーハニービーを見失わないように追いかけるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る