第45話 ギルドでの登録
無事に甘い物による被害者を増やした私達は、冒険者ギルドへ向かっている。冒険者ギルドは私達がティヴィルの街へ入った南門と呼ばれる所から近いらしい。
朝早くから色んな屋台が開かれた大通りは凄く賑やかで、お祭りのような活気をしている。やっぱり私は中央通りのお高い雰囲気よりも、こっちのわちゃわちゃ騒がしい方が肌に合っているなぁと思いながらアレクシアさんと歩く。
暫く歩いていると、冒険者らしき人達が沢山出入りする大きな建物が姿を表した。
「ほらノエル、あそこがギルドだ。デケーだろ? 訓練場とか解体場なんかもあるから中はもっとデケーぞ」
冒険者ギルドは表から見えるだけでも、周りの建物三つ四つ分くらい大きくて、入口もだだっ広くてドアもついてない。出入りの激しさや大きな物なんかを入れるのに入口は広く作られてるんだろうか? でもドアが無いんじゃ中で働く人達は大変そうだね。夏は暑くて冬は寒そう……。
そんな事を考えながらギルドへ入ると、中は想像よりは賑わっていなかった。入って正面の方に受付があり、右側に掲示板の様なものを見ている人達、左側には椅子やテーブルが沢山置いてある。
「なんか思ってたほど人がいないね。広いからそう見えるのかな?」
「それもあるかもしれないが、大抵の冒険者は朝早くから来て旨い依頼を取り合ってさっさと街を出ていくんだよ。だから朝早くと、そいつらが帰ってくる夕方くらいが一番混んでるな。ほら、冒険者登録するんだろ? 受付に行こう」
私はキョロキョロ見回しながらアレクシアさんの後ろを付いていく。王道のテンプレなんかだと冒険者ギルドに入ってきた子供の私を沢山の人がジロジロと見て、不良冒険者みたいな人が絡む展開が待ってるはずなんだけど……。なんか誰も私の事なんか気にしてなさそうだね。
「すまない、この子の登録をお願いしたい」
「ようこそ、冒険者ギルドへ。登録ですとこちらへ記入をお願いします。代筆などもできますがいかがなさいますか?」
「自分で書くから平気です!」
「フフッ。そうですか。それでは記入をお願いします」
受付の綺麗なお姉さんは手を挙げて返事する私を微笑ましそうに見て記入を促した。登録用紙は名前、年齢、出身地、得意な事くらいしか書くことがない。サラサラっと書いていて出身地の欄で筆が止まる。……あの村なんて名前なんだろ?
「ねぇアレクシアさん。あの村って名前何? 出身地なんて書けばいいの?」
「ん? そういや私も名前知らんな……。村でいいよ村で」
「そんなテキトーな」
身分証作る書類の住所欄に村の一言で終わらせていいの? まぁ書いてみてダメなら正直に言おう。書き終えた書類を受付のお姉さんに渡す。
「はい、書けました」
受付のお姉さんは私の提出した書類を丁寧に確認している。
「はい、結構です。ではこちらの情報で登録させていただきます」
普通に通った。本人確認書類の提出とかもなくてこんなザルに作れちゃうのを身分証として使うとか、最早なんの意味があるんだか……。受付のお姉さんが何かの道具を暫くイジった後、水晶玉をカウンターの上に置いた。
「それではこちらの水晶玉に手を乗せて貰えますか?……はい、結構です。それではギルドカードを作ってきますので、こちらをお読みになってお待ちください」
三ページくらいしかない薄い冊子を渡された。中をパラパラっと確認してみると、冒険者ギルドについての説明が書かれてるみたいだ。街中限定のFランクから始まって、Aランクが実質一番上みたいだ。そうなると果てなき風の人達もアレクシアさんも凄いんだね。
冊子を流し読みして、暇になったので掲示板の方を見る。大きな掲示板の前では何組かのパーティーらしき人達が話し合いながら掲示板を見ている。たぶん張り出された依頼を吟味してるんだろう。
テーブルが沢山置いてある所は売店もあるのか、何かを飲み食いしてる人が目に入る。冒険者ギルド限定スイーツとかはないのかな? ギルドメンバー限定スペシャルパフェとかさ。
「お待たせしました。こちらがノエル様のギルドカードです。万が一無くされてしまいましたら出来るだけ早くギルドに届け出てくださいね。届け出なかった人がギルドカードを悪用されて逮捕された事例もありますので気をつけてください」
金属プレートの様なギルドカードには私の名前と年齢、性別、登録した街の名前、ランクが書かれている。ランクはFランクで多分登録したばかりの最低ランクだろうね。私もギルドカードを手に入れたぞとドヤ顔で振り返るとアレクシアさんは居なくなってた。冷たくね? なんか席に座って飲んでるし。
「以上で登録は終了となりますが、何か質問はありますか?」
冒険者関連の質問はアレクシアさんに聞けばいいか。それよりも重要な事がある。
「えっとちょっと聞きたいんですけど、なんか近くでキラーハニービー? が目撃されたとか何とかって聞いて……。それの情報を貰えますか?」
「そうですね……。ノエル様はまだ街中限定のFランクですので申し訳ありませんがお教えできません」
受付のお姉さんは整った顔に手を当て、少し考えてからそう答えた。情報にランク制限でもあるのかな?
「でも街中限定だからって外へ出るのが禁止されてる訳じゃないですよね? だってそれなら私は村からここまで来られてないわけで。んーっと、じゃあそれなら安全の為にも周辺の魔物の情報はできるだけ聞いておいた方がいいんじゃないかなぁーって思うんです。だからキラーハニービーの情報教えて貰えますか?」
「それは良いお考えですね。ですがキラーハニービー限定で確認するのは何か嫌な予感がするのでやはりお断りいたします」
この受付嬢可愛い顔して結構頑固だな。でも甘いよ。これから採るキラーハニービーの蜂蜜より甘い。所詮私もあなたも甘い物の前には無力、その事を理解させてあげましょう。
「そっかぁ。残念だなー。あ、そうだ。ちょっと口開けてもらえますか?」
首を傾げながらも口を開けたのでバタークッキーを一枚ねじ込んでやった。急に口に物を突っ込まれて目を白黒させた受付嬢も本能には抗えない。口に入れられた優しい甘さのバタークッキーをサクサクと食べ始める。
「どうですか? これ私お手製のバタークッキーです。美味しいでしょう? きっとキラーハニービーの蜂蜜を使えばもっと美味しい物が作れると思うんです。そして私は甘い物を前にしたら絶対に諦めない。受付嬢さん、あなたが情報を私にくれれば私は代わりにこのクッキーをあなたにあげましょう。もしそれでもあなたが断るというのなら、私はこのクッキーをもって別の受付に行くだけです。どうしますか? あなたが頑なに拒んだところで、結局私は誰かから情報は貰うのにあなたはクッキーが貰えない。別の誰かが情報の対価としてこのクッキーを食べるんです。あなたはそれで良いんですか?」
受付嬢は何かに耐えるように歯を食いしばった。けれどそれも長くは続かないだろう。彼女もまた、甘い物の前に屈服するのだ。
「可愛い容姿にその提案、あなたはまるで悪魔のような人ですね。良いでしょう! 私が断る事で誰かを堕落させてしまうのなら、いっそ変わりに私が魂を売って皆を守ってみせましょう。これがギルドに寄せられているキラーハニービーの情報と、採取するのに必要な道具が買えるオススメなお店の位置です。さぁ契約の対価を支払って貰いましょう」
受付嬢はそう言ってさらさらっと書いたメモ用紙を渡してきた。この人自分は被害者ですって主張してるけどクッキー欲しいだけだね。あるある、ダイエット中だから甘い物を食べない様にしながらも、賞味期限切れで捨てる訳にはいかないよねって食べちゃうみたいな。
「今後とも宜しくお願いしますね」
私はそう言いながらクッキーの入った小袋を渡した。これは賄賂ではない、正当な取引です!
私はスキップしながらアレクシアさんの所へ向かう。
「随分時間かかったな」
「待たせてごめんね。それとクッキーで買収してキラーハニービーの情報手に入れてきたよ! 褒めて褒めて!」
「おお、すげーな」
後になって気がついたけど、本人は引退したつもりとはいえB級冒険者のアレクシアさんが受付で聞いたらそれで解決してたよね。それを指摘せずに雑に褒めてくれたのはアレクシアさんなりの優しさなんだろう。
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