第42話 冒険者パーティー

 丸っこい耳を付けたやたらとガタイの良いオジサンがアレクシアさんに迫っている。オジサンはそのガタイからも想像出来るように戦闘職なのかハーフプレートメイルっていうの? 結構金属で覆われた鎧を上半身に身に着けて、背中には盾を背負っている。ゲームで言えば多分タンク職ってやつなんだろうね。そんな厳ついオジサンが、高身長とはいえ細身の女性に言い寄る姿は完全に事件にしか見えない。衛兵さん呼ぶか?


 厨房の出入り口でそんな事を考えていると、外から三人の冒険者っぽい人が入ってきた。


「グスタフ何やってんのよ。同じパーティーとして恥ずかしいから他の宿泊客に迷惑かけないで頂戴。……あら? あなたまさかアレクシア?」


「ほんとにゃ! アレクシアがいるにゃ!」


「……」


 弓を背負った細身の女性と、猫耳を付けた小柄な女性、それとグスタフと呼ばれていた人と同じくらいガタイのいい男性の三人がアレクシアさんの方へと向かっていった。アレクシアさんの名前を出していたし、どうやら知り合いみたいだから衛兵さんの出番はなしだね。冒険者っぽい出で立ちだからアレクシアさんが冒険者をやって居た頃の知り合いとかなのかな?


「お、あんたら久しぶりだな! こいつをさっさと引き取ってくれよ。人の飯にタカってくるからうざくてしょうがない」


「せめてどこで買ったかくらい教えてくれたっていいじゃねーか」


「にゃに? アレクシアはにゃに食べてるにゃ? にゃ―にも見せるにゃ!」


 何かアレクシアさんの周りに集まってギャーギャー騒いでいるけど、私戻りにくくない……? あるよね、お昼休みとかに席を立って戻って来たら私の席の周りに人が集まってて困るやつ。話盛り上がってるところにちょっとごめんねって割り込むのは普通にしんどいからやめてほしかった。だからといって私が遠慮するのも何か違う気がするし。私は苦い思い出にフタをして行動へ移ることにした。だってまだご飯を食べてる途中なのだ、さっさとどいてもらうに限る。


 一番扱い安そうなのは多分騒いでるケモ耳オジサンだね。あの場所からどいてもらう方法は簡単で、要するにそこに居たくないと思わせればいいのだ!


 私はさささーっと近付いてアレクシアさんの前におかわりを置いてあげる。たんとお食べ。そしてオジサンの顔を見てから目を見開きこう言うのだ。


「……パパ……? パパっ!」


「……は?」


 オジサンは困惑し、他の人たちはオジサンと私を交互に見る。アレクシアさんは私の助けに安堵したのか、ため息一つついて食事を再開した。私は混乱するオジサンに畳みかけるように勢いよく抱き着く。鎧着けてるから私のおでこが激しくぶつかって除夜の鐘みたいな鈍い音がしたが構わない。今は親子の感動再会シーンなのだ、誰も気にしちゃいないよ!


「パパ! やっと会えた! どうしてノエルの事置いてっちゃったの!? ずっとずっと待ってたんだよ?」


「待て! 待て待て待て! 俺はお前みたいな怪物少女知らないぞ! 誰だよお前!」


「酷い! 何でノエルの事知らないとか言うの?!」


 というか怪物少女って何? マジで失礼じゃないか? 私はひしっと抱き着いている腕に徐々に力を込めて万力の様に締めていく。失礼な事を言った貴様には鎧が一生脱げなくなる呪いをかけてやろう。金属鎧をラバースーツみたいに体ぴっちりにジャストフィットさせてあげるね。


「バッ、バカやめろ! 鎧ミシミシ言ってるから! 離せ!」


「グスタフ、私たちあなたにこんな子供が居たなんて知らなかったわ。こんな小さい子をほっぽり出して冒険者やってたの? 信じられないわ」


「そうにゃ! 流石にどうかと思うにゃ!」


「……」


 三人から責められ始めたオジサンはもう私たちに構っている余裕なんてない。このままだとパーティー解散の危機だからね、必死になって言い訳してくれ。私はその隙に席に座ってご飯の続きを食べ始める。


「……アレクシアさん、あの人たちのせいで冷めちゃったよ。最悪」


「いやあんだけ引っ掻き回して急に飯食い始めるのもどうかと思うぞ。にしてもこの白いスープうめーな。パンをつけるともっと美味くなるけど知ってたか?」


「知ってるよー? 後でデザートも作るからお腹一杯にしないでね」


 アレクシアさんはクリームシチューがだいぶ気に入ったみたいで良かったよ。食後のデザートに作るクレープは生クリームとイチゴをたっぷり使おう。チョコレートソースもあれば良かったんだけどチョコレートがないからなぁ。カカオが原料だってのは知ってるけど、絶対作れないわ。カカオとかいう豆からあのチョコレートを作り出すとか最早錬金術でしょ。


「その白いのにゃーも食べたいにゃ!」


「お、ニーナはこっち来たのか。向こうはいいのか?」


「別に良いにゃ。冷静になって考えればグスタフからこんにゃ可愛い子は生まれねーのにゃ」


 気が付いたら猫獣人のニーナさん? がアレクシアさんの隣に座ってた。問題の人たちはというと、必死に何かを説明しているオジサンと、それを底冷えするくらい冷たい眼差しで見るお姉さん、そして特に何の役にもたってなさそうな寡黙な男性の三人が少し離れた所で話し合っているね。


 私は村でも街でも妖精って呼ばれるくらいには美少女だから、今更可愛いと言われた所で正直もう慣れっこだ。左利きの人が何か書くたびに『左利きなんですね』って言われるのと同じくらい慣れっこだ。だからそのヨイショはあまり刺さらないよ!


「ニーナさんでいいのかな? 私はノエルです! シチューならまだあるから持ってきますよ! 好きなだけ食べてくださいね」


 そう言って私は鼻歌を歌いながら厨房からお鍋ごとシチューを持ってくる。ニーナさんどれくらい食べる? 山盛り? 山盛り食べるか? 遠慮しないで食べなさい。本当は対価を支払ってほしいところだけどニーナさんだけ特別だ。


「これ凄いうめーにゃ!」


「だろ? うめーだろ? パンつけてもうめーぞ?」


 何故か得意気なアレクシアさんとウマウマ言いながら食べるニーナさん。結構仲良さそうだね?


「ところでアレクシアさんはニーナさん達とは知り合いなの?」


「ああ。私が冒険者やってた頃に何度か一緒に依頼受けたりもしたな。所謂冒険者仲間ってやつだ。確かBランクだったよな?」


「今はもうAランクにゃ」


「すげーじゃねーか!」


 冒険者のランクシステムを良く知らないけど普通に考えればAランクなら最高峰って感じだよね。凄腕の冒険者か、カッコいいね!


「私も冒険者登録したい! デザート食べ終わったら冒険者登録行こうよ!」


「良いけどそれより先に服を買いに行かないか? 一泊くらいだと思ってたから着替えないんだよ。お前だって着替えたいだろ? その服ぴょん吉のせいで――」


「それ以上言ったらデザート出さないよ」

 

 このノンデリアレクシアさんはまた乙女に臭いとか言おうとしたでしょ。私も着替えなんか持ってきてないから服を買うのは賛成だ。テキトーに着れる古着でも買えばいいよね。


 街に来てから金遣いが荒い気がする。都会での暮らしはやっぱりお金が掛かるんだね。ジェルマンさんから連絡がくるまで冒険者として少しは稼いでおこう。


「冒険者は危ない仕事だにゃ。それなのにノエルは冒険者になりたいのにゃ?」


 なりたいかと言われたらなりたい。ただ、どうしてもなりたいかというと、そこまでの気持ちはなくて、興味本位、ちょっとどんな感じなのかやってみたい、その程度の気持ちしかない。


 昨日初めて魔物と相対した時、私は魔物を殺すことができなかった。冒険者をやりたい人が魔物は殺せませんなんて言い出したら舐めてるとしか思えないよね……。お肉を好き好んで食べている以上、私は生き物の命を奪っている。それを理解していながら、覚悟が足りないからその役目を人に押し付けているだけだ。殺せません、でもこれからもお肉は食べます、言葉にしてみると随分と身勝手な話だよ……。


「その嬢ちゃんが危ない依頼なんてほとんどねーだろ。そうだろ? アレクシア」


「……どうだかな」


 もう一人のノンデリが無事にパーティーメンバーの誤解を解いたのか仲間を引き連れてこっちにやってきた。というか別に来なくてもいいんだけどなんでゾロゾロと集まってくる? そして何故何の断りもなく座る?


「ねぇパパ? なんで私の事そんな風に言うの?」


「だからパパじゃねーって……。お前強いだろ? 俺くらいの冒険者になると強者はわかるんだよ。お前からは今まで出会ったどの魔物よりヤバそうな匂いがする」


「匂いとか言うな!」


 私はノンデリのおでこに高速でスプーンを投げつけた。今の私は匂いの話には敏感なのだ。


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