第12話 金策相談会
エマちゃんのなんか違う遊び方も含め、女王の命令ゲームをしばらく楽しんだ。エマちゃんも最初の命令以外ではゲームコンセプトに合った手を上げるや、耳を触るなどの簡単な命令になったのでちょっとしたイタズラだったみたいだね。良かったよ、あのまま変な方向性のゲームにならなくて……。
「そういえば行商人さんの話はどうしますか?」
一段落ついて少し休憩となった頃、エマちゃんが思い出したように尋ねてきた。
「それねー。ホントどうしよっかなぁ」
一応アイディアはあったのだ。子供のオモチャ関係で知育系とか運動系とかさ。だけど子供が使う物となると安全面を考えなければならないのよ。小さい子はなんでも口に運んでしまうし、少し大きい子になると予想外の使い方をしたりする。そういうのを考えると素材や加工の道具が必要になってきちゃう。
二人でうんうん唸ってるとエマちゃんが声を上げた。
「そうだ、ノエルちゃん! お母さんにも聞いてみようよ! 大人だったら何か思いつくかもしれないよ?」
「確かにそうだね……。うん! 試しに聞くだけ聞いてみようか! そうと決まればさっそくレッツゴー!」
エマちゃんの手を引いて部屋を飛び出す。こうやって手を引くと嬉しそうなんだよねー。
リビングに向かうとエリーズさんが部屋の掃除をしていた。
「エマちゃんママ! 今ちょっといいですか?」
「あらー、さっきまで楽しそうにしてたのにどうしたのー?」
「えっと、ちょっと相談がありまして……。まず最初に――」
エリーズさんと向かい合って席に座り、今日エマちゃんのお家に来るに至った経緯、エマちゃんに相談をした結果何故か女王の命令ゲームをしたこと、そして今エリーズさんにも聞いてみようかとなったことを説明した。
私が喋ってる間、エマちゃんは手持ち無沙汰になってるのでお手々にぎにぎしたり、特にルールの説明もしないまま指相撲のようなことを仕掛けた。うん、嬉しそうに一生懸命指を動かしてるね。
「そうだったのねー。でも私から先に一言ね、さっきまでやってた女王の命令ゲームは凄く楽しそうな遊びだけど、名前だけ変えましょうね? 誰かに聞かれたらちょっと良くないかもしれないわ」
「わかりました! じゃあ取り敢えずエリーズさんの命令って名前にしときます」
やはり王政なのかな? 下手に名前を使うと不敬罪だなんだと難癖付けられる可能性があるのかもしれない。日本人の感覚的にはそれくらい良いのでは、と思わなくもないが、現実に王侯貴族が存在する世界だとそうは言えないのかも。元々サイモンだったから拘りもないし、エリーズさんの命令に変更だ!
「えっと……、まぁいいわ。危険はさったわけですからね、ええ、取りあえずいいわ。それでどんなアイディアならあるの?」
「この前作ろうとした、いろはカルタと同じ様な頭を使うおもちゃと、身体を使うおもちゃを考えました。だけどそのどちらも子供が対象だからどうしても安全面とかを考えると自分で作るのは難しくて……」
「アイディアが浮かぶのも凄いけど、作ったあとの問題点もみえてるなんて本当に凄いわー。じゃあ一緒に考えてみるから具体的にどんな物か聞いてもいいかしら?」
「いいですよー! 頭を使うおもちゃはいろはカルタと似た物です! 木を四角い箱のように切って、各面に文字を一つずつ彫っておくんです。それを色んな文字で沢山用意すれば、並び替えるだけ単語を作ったり文章を作って楽しく文字を学べます。小さい子なら重ねて遊ぶ事もできるし、読める様になったら、お家で簡単な手紙みたいな使い方もできると思うんですけど……どうですか?」
エリーズさんは私の話を聞いてから何かを考える様に頬に手を当てている。エマちゃんもお母さんのマネをしているのか同じポーズを取っている。このくらいの年齢って周りのマネを良くするから言動に注意せねば!
「いくつか聞いてもいいかしら? これを作る上での問題点はなあに?」
「えっと、簡単に言うと手間が掛かることです。さっきも言ったように子供が対象だから間違えて口に入れて飲み込んだりしないように、手のひらサイズくらいで作らないといけないと思います。それを何個も何個も作るとなるとやっぱり道具が無いと大変ですよ……」
「それはそうよねー。見栄えを考えるなら同じ大きさで揃えないといけないでしょうしねー」
「ですです! それと木で作るわけだから角を丸めたり、ささくれたりしないように削らないとダメだと思います」
そういう問題もあるわね、と呟いてからエリーズさんはまた一人の世界に飛び立ってしまった。エマちゃんも流石に長い話に飽きてきたのか退屈そうだ。ぼーっとしながら足をぷらぷらさせてる。
「エリーズさんの命令! 右手をあげて!」
「!?」
突然始まったゲームに驚きながらも右手を上げるエマちゃん。お手々繋いでたから私の左手まであげちゃったよ。
「エリーズさんの命令! お手々離して!」
「い、いやです! その命令は聞けません!」
なんでよ。ゲームにならないでしょうが。取りあえず疲れるから下ろして貰おう。
「じゃあとりあえず手おろそうよ。疲れちゃうからさ……おーいエマちゃん、右手おろしてー。……あっ、エリーズさんの命令! 右手下ろして!」
やっと下ろしてくれた。誰だこのめんどくさい遊び始めたやつ! 今無視されたかと思ったわ。
「……なんか私の名前で命令が下されるのを見ると複雑ねー」
「あ、おかえりなさい。それで何か思いついた事はありますか?」
「えぇ。あるわよ。結局のところ問題点というのは作るときの話でしょう? それなら簡単だわー。諸々を注意してできる人に作って貰えばいいのよー。これについても後でジゼルさんに相談ね。さっき言っていた身体を使う方のおもちゃはどういう物なの?」
「その話は今度でもいいですか? 思ったより長い話になってしまってエマちゃんが退屈そうです」
私の手をにぎにぎしたり両手で包んだりしながら暇をつぶしていたエマちゃんが私ですか、という顔をしながら首を傾げている。ぶっちゃけ五歳児がこんな話聞いてても理解できないし興味もわかないから暇でしょう。
「そうねぇ。できれば今日中にジゼルさんとも話しておきたいのよねぇ。ねぇ、エマ。エマのノエルちゃん、少しだけお母さんにも貸してくれる? お母さんはお話ができれば十分だから、エマは好きなだけノエルちゃんにぎゅって抱き着いててもいいの。もう少しだけ待てるかしら?」
「いいですよ!」
いやあの、私の許可は? でもエマちゃんがほったらかしじゃ可哀そうだしくっ付いてるだけってのも結局は暇でしょ。あ、そうだ。
「じゃあエマちゃん、ちょっとイスから降りて床に座ろっか」
「? わかりました」
私は床に腰を下ろしてからまっすぐに足を伸ばして膝をポンポン、と叩く。
「エマちゃんはここに頭を乗せて寝っ転がって? 足はあっち向きね」
膝枕を知らなかったのか首を傾げていたが、指示通りに寝転がった瞬間からエマちゃん大興奮だ。フンスフンスと鼻息が聞こえるぞ。暇ならいっそお昼寝をさせてしまえと思ったのにそんな興奮してて寝れる?
「ほらエマちゃん落ち着いて。はい、目を閉じて? よくできました、よしよし」
頭を撫で始めはさらに興奮してしまったが、流石は五歳児、遊んだ後に寝転がってしまえば眠さには抗えまい。ソースは私。
「あらあら、うまい事寝かしつけたわねー。それじゃあ話の続きをしましょうか」
「そうですね。んーと、私が考えたのは長い棒を二本用意して、そこに足を乗せるところを作るんです。遊ぶときは棒を地面に立てて足場に乗る感じです」
私が作ろうと思ったのは竹馬だ。小学生の頃、レクリエーションのような授業で近所に住んでいたお爺さん達が竹馬の作り方を教えてくれたことがあった。昔の遊び、みたいな授業だったのかな? そこまでは覚えていないけど、身体を動かすのが大好きだった私は放課後に大喜びで出来たばかりの竹馬で走り回ったのを今でも覚えている。身振り手振りを交えながらどんな形で、どう遊ぶのかを伝えた。
「どうでしょう? みんな楽しめると思ったんですけど、これも作る上でやっぱり安全面が気になってしまって……。時に子供は予想だにしない使い方をしますからね、それなりに大きい棒ともなると単純に振り回すだけでも危険ですし……」
「フフッ、えぇ、そうね。私も同じように思うけれど、まさか五歳児の口からそんな言葉がでるなんて思わなかったわー。」
「ッ!? えとそのー、あれです。五歳児ならではの実体験、とでも言いましょうか……えっと、はい。……ノエルごちゃい! むつかしいことはわかりゃないです!」
「別に問いただしたりしないから大丈夫よ。洗礼式の日でしょう? 何かがあったのは。ただね、私が気が付いているのだから、ご両親もわかっているはずよ? 言いたくないのであれば仕方がないけれど、そうでないのなら近々何かしら教えてあげた方がいいと思うわ。自分の子供の事だもの、どんなことでも知りたいと思うのが親心というものよ」
……耳が痛い話だった。正直な話、洗礼式の日以降、純粋なノエルだった頃の様には両親と接することが出来なくなっていた。私が少し距離を取ってしまっているのも当然、両親だってわかっているだろう。心の中にあるノエルの部分と、瑞希の部分が上手く擦り合わせられていないのだと思う。私はノエルであるのと同時に、未だに瑞希でもあるのだ。だから両親に甘えるとなるとどうしても遠慮が出てしまう。
話して平気なのか、どこまで話すべきなのか正直わからないけどエリーズさんが言うとおりタイミングを見て何かしら伝えるべきなんだろうな。
「なんかすみません……」
「気にしないで? それよりももう少し具体案を聞いてからジゼルさんにも相談しましょう。そうすれば何を売るのかは解決できるはずよ」
そう言ってウインクをするエリーズさんの気遣いに乗る形で、私たちは話を進めていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます