第11話 女王の命令ゲーム

 お料理革命は失敗に終わった。結局のところ私は各種調味料が揃っている前提の料理力しかないのだ。つまり逆に言えば調味料さえ、食材さえあれば色々と料理ができるわけでして、それならば話は簡単だよ。買えばいいのだ!


「お母さん、私街にお買い物行きたいな!」


「突然なあに? わざわざ街まで行って何を買いたいの?」


「お砂糖とかお料理で使う調味料が欲しいの! この前お料理したらもっと色々作ってみたくなったんだけどダメ?」


「んー、お料理がダメなわけじゃないのよ? ただ、街へ行くのも、調味料を買うのも難しいのよね」


「どうして?」


「街は結構遠くてね、一日では帰って来られないのよ。それに街へ向かうまでに魔物が出たり危ない事もあるのよ? 怖いでしょう?」


 日帰りはできないからちょっと行きますかーってノリでは行けないのね……。必然的に泊まり掛けになるわけで、実質一泊旅行?


 街へは一度行ってみたいけど、調味料を買いに旅行ってなると私も流石になぁ……。


「それにね、お砂糖とかってすっごく高いから買えないのよ。せっかくお料理に興味持ってくれたのにごめんね」


 それは正直予想していた。地球でも昔は香辛料が金と同等の価値を持っていた時代もあったって聞いたことがあるし。それなら村でお金を稼ぐ方法ってあるのかな? 何一つないってことはないんだろうけど、村にお金持ちが居る訳じゃないから希望は薄いよね。皆が持ってないんだからお金を払う人がいない。


 つまり街へ行って調味料を買うためにはお金が必要で、お金を稼ぐ為には街へ行く必要がある訳だね。あれ? これ詰んだのでは?


「もうそろそろ行商人さんがくる頃だと思うし、今度来たら一緒に見てみる? お料理に使える安い何かがあるかもしれないわよ?」


「うん! 面白そうだし行きたい!」


 高価な調味料をわざわざ危険を冒してまで売れないであろう田舎の村に運ぶかな? その辺りの期待は薄そうだけど、お母さんの言うとおり何か掘り出し物や異世界ならではの物があるかもしれないし楽しみだね!


 ただ欲しいものがあっても我が家にはお金がないから思うようには多分買えないだろうなぁ。そうなるとやっぱりお金を稼ぐ必要が出てくるわけで、話は振り出しだ。とほほ。


 ……いや、お店の方からやってきてくれるのであれば必ずしもお金は必要ないのでは? 買い取って貰えるような何かを用意すればいいんじゃない? 畑の物を勝手に売るわけにもいかないし、遠くに見える森に売れそうなものを取りに行くこともできないから、作る方向で考えてみようかな。


 エマちゃんにも協力してもらおう。私一人で何かを考えて作るよりも、二人でうんうん考えればきっと妙案が浮かぶはず! それに行商人がおじさんだったら美少女二人が作った泥だんごでも買ってくれるのでは? もし買ってくれてもそれはそれで気持ち悪いから普通に嫌だけど。


 オルガちゃんは私たちと違って頭脳労働は苦手だろうし、人手が必要になったら声をかけよう。


 お母さんにちょっとだけエマちゃんに会いに行ってくると声だけかけてダッシュだ。グズグズしてると勝手に行くなとか約束はしてるのかとか呼び止められるからね、仕方ないね。


身体強化かけてダッシュすればお隣さんなんて一瞬で着く。やっぱ魔法は便利だね!


 木のドアをノックして声をかける。


「ノエルでーす! エマちゃんいますかー?」


「あらあら、いらっしゃいノエルちゃん。エマならお部屋にいるわよー」


「エマちゃんママおはよう! お邪魔しても大丈夫ですか?」


「ふふ、お邪魔だなんてとんでもない。いつでも来ていいわよ。さぁ上がって上がって!」


 エリーズさんは相変わらず綺麗ですな。ただ、村に住んでるのにお忍び感出てる村娘スタイルも相変わらずだね。そんなことを考えながら家に上がらせてもらう。約束してるわけじゃないしエマちゃん驚くかな? そんな急に来られても……みたいな顔されたら普通にへこむぞ。……あれ? なんか変に緊張してきた! と、取り敢えずエマちゃんのお部屋をノックしてみよう。


 コンコン


「……エマちゃん? ノエルだけど急に来てごめんね? あの、もし忙しかったりしたら帰るけど大丈夫かな……?」


 話してる途中から部屋の中でドタバタしてるし帰った方がよさそうかな? なんか勢いで来たけど普通に迷惑だよなー。私にしては珍しく考えが足りなかった。反省。


「な、なんかごめんね? また今度来るから今日は帰ることにするよ。邪魔しちゃ――」


「お待たせしました! ちょっと部屋が散らかってたから片付けてたの! ノエルちゃんは邪魔なんかじゃないよ? いつでも来て? 何なら住んで? お帰りノエルちゃん! 今日からここが私たちのお部屋だよ!」


 おぉ。エマちゃんテンションめっちゃ高いじゃん。一人で会話進んでって私住むことになったわ。


「エマちゃんおはよー。はい、おはようのぎゅううううう!」


「きゃあああノエルちゃんぎゅううううう!」


 ……この子意外と力強いわ。二度と離さないと言わんばかりに抱きしめてくるけど、普通の五歳児だったら泣いてるレベルで締め付けてくるね。


「どうどう、落ち着いてエマちゃん。慌てすぎて呼吸乱れてるから」


「すうぅ……はあぁー……お待たせしました。取り敢えず部屋にあがって下さい」


 そう言って部屋に通されたので、取り敢えず部屋の端っこにあるイスへ座る。人の家って通いなれた家でも自宅とは違う匂いだからなんかちょっとだけ落ち着かないよね。これ動物的な縄張り意識なのかなぁ。


「それで今日は突然どうしたんですか?」


「えっとね、今日お母さんに聞いたんだけど、たぶん近いうちに行商人さんが来るんだってさ。それで何か行商人に売って、代わりにお買い物がしたいんだけどエマちゃんが行商人だったら何が欲しい? どういうのがあったら買い取る?」


「んー……私だったらですか。欲しい物と言われると思い浮かばないですね。でも、ノエルちゃんと一緒に遊べるなら私はそれが一番嬉しいかな? えへへ」


 少しはにかんだ様に笑いながらそんなことを言ってくれる。お姉さんと遊ぶかい? たくさん遊ぶかい?


「そんな嬉しいこと言われたらたくさん遊んじゃうよー! 今日は何して遊びたい? お外? お部屋?」


「いいんですか? 今日は行商人さんに何を売るか考えるんじゃないんですか?」


「そんなのどうでもいいよ! じゃあ外は暑いし今日は部屋で遊ぼっか!」


 少し遠慮気味な表情をしていたけど、ノリノリで遊ぼうという私に流されるようにエマちゃんもワクワクした顔になった。


 しなければいけない事を後回しにしてでも遊ぶ、この遊びマスターのお姉さんが子供も楽しめる遊びで楽しませてあげましょう! きっとエマちゃんは夜眠るときに今日という一日がどれほど楽しかったのかを思い出し、頬を緩ませながら夢の世界へと旅経つのだ!


「それじゃあ、今日の遊びは……女王の命令ゲームをします!」


 女王様ゲームってなんかちょっとネーミング失敗したかも知れないけど、変な遊びではないよ。前世の海外で言うところのサイモンが言ったって遊びをこちら側に名称変更してみた。


 急にサイモンが言った通りにする遊びです、って言われても誰? って話になっちゃうでしょ? というか誰よサイモン。私も知らないわ。


「それではキョトンとした顔のエマちゃんにルールを説明します! 凄くざっくり説明すると、この女王様ゲームは女王様の命令に従うゲームです!」


 少し困った顔をしながら頷くエマちゃんを見て少し不安になる。女王様っているよね……? サイモンの命令に従うよりはわかりやすいよね……?


「えっと、ここまでは大丈夫……? うん、じゃあ試しにやってみよう! 私が『女王の命令、立って!』と言ったらエマちゃんは立たないとダメね。じゃあ女王様の命令、立って!」


 何となく理解はし始めたようだけど、どうゲームになるのかわからないのか、首を傾げながら立ってくれた。


「ありがとう、もう座っていいよー。……はい、今私は女王の命令って言ってないのにエマちゃんは座っちゃったから失敗です! これでどういうゲームかわかったかな? 改めて言うと、女王の命令って言った時だけ従って、言ってない時は従っちゃだめだよー」


「一応わかりました」


 ルールは理解したけど面白そうには思えないのかあまりワクワクしてない。ここからだぞ、エマちゃん!


「じゃあ始めるよー! 女王の命令、右手上げて! 女王の命令、左手も上げて! はい下げて! 下げるのは女王の命令、って言ってないからダメだよー残念でしたー!」


 エマちゃんはハッとした顔で下ろしてしまった左手を見つめている。ふふふ、侮ったなエマちゃん! このゲームは言われた通りにすればいいんでしょ? なんて考え方では足元を掬われるぞ!


「フフッ、エマちゃん引っかかったー! 罰ゲーム、くすぐりの刑に処す!」


 きゃあきゃあ言いながらもどこか受け入れ態勢のエマちゃんをくすぐりながら二人で部屋を転がる。最初明らかに乗り気じゃなかったけど楽しんでくれてるっぽいから良かった。くすぐられて笑ってるだけで楽しくはないとか言われたら切ないぞ。


「どう? もう一回やる?」


「やります! 今度は私が女王様やっていいですか?」


「いいよー! かかってきなさーい!」


「それじゃあ行きます! 女王の命令、私を抱きしめなさい! 女王の命令、もっと強く抱きしめなさい!」


 エマちゃんなんか違う。それちょっと王様ゲームっぽくなってる。いや言われた通りにするけどさ……。

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