第6話 今日は仲良く三人でその壱
今日はママさん会議が行われるみたいです。会場は我が家である。
お客様のおもてなしをしたいけど、生憎と我が家にお茶やお菓子なんて小洒落たものはありません! この村にもちっちゃなお店があるにはあるんだけど、生活に必要な最低限の物が置いてあるだけのお店だから嗜好品なんかは手に入らないから仕方がない。だからこの村に無いようなものは基本行商人がくるまで手に入らない。お菓子なんて食べられません! 食べたいけど!
本日のママさん会議の参加者はお母さんと、エマちゃんママ、オルガちゃんママの三人だ。当然子供達もやってくるのでそちらのおもてなしは私にまかせて下さい! 保育園の先生の様に楽しくみんなと遊びますよ!
まだ来ないかなーと窓から外を眺めているとエマちゃん親子がやってくるのが見えた。おーいと手を大きく振り回すとエリーズさんが気が付いてエマちゃんに教えてあげている。
転ばない様に足下をみていたエマちゃんも顔をあげて小さく手を振りかえしてくれた。エリーズさんも控え目ながら手を振ってくれている。
親子揃って清楚だね。私も昔は、黙って一切動かなければ文句なしに大和撫子だ、とよく褒められてたから一緒だね。私は手を振り合ってるとなんだか楽しくなってきてぴょんぴょん跳ねながら大きく両手を振った。
お母さんにエマちゃん親子がきたよと声を張り上げて教えてから玄関までダッシュする! エマちゃん達早く着かないかな、と玄関の扉の前でソワソワしてるとお母さんもやってきた。
「少しは落ち着いたら? エマちゃんに笑われちゃうわよ?」
「だって早く遊びたいんだもん」
しかたがない子ね、と言いたげな眼差しで私を見ているが気にしない。もうすぐ来るのはわかっているのだから少しくらい変わらないとわかっていながらも何故だか落ち着かないんだよね。それからすぐに弱々しいノックが聞こえたからいらっしゃい、とドアを開けてあげる。
「エマちゃんおはよう! エマちゃんママもおはよう! 少し散らかってて申し訳ないけど我が家だと思って遠慮せず寛いでってね」
「ふふっ、ええ。ありがとう。ノエルちゃんはしっかり者ね」
「なんかごめんねエリーズ、この子妙に張り切っちゃって」
「全然! うちの子ももう少しノエルちゃんみたいに元気いっぱいだと嬉しいんだけど……」
玄関からすでにママさん会議始まってそうだわこれ。待ってたらいつまでも離れられないね。
「エマちゃん早くお部屋行こ! ……エマちゃん?」
なんか下向いて我が家がどうとか二人のお家とかブツブツ呟いてるけどよく聞こえない。
エマちゃんが急にガバッと顔を上げる。
「ノエルちゃん、ただいま!」
「ん? おかえり?」
おママごとかな? 気合入れて言ってきたから少し驚いたよ。どこか満足げなエマちゃんの手を引いて今日遊ぶ部屋まで引っ張っていく。それじゃレッツゴー!
……エマちゃんは繋いでいない方の手を頬に当てながら嬉しそうに体を左右に捻っているけど、この子たまにこうやって一人旅にでるよね。お姉さん少し寂しいですぞ!
部屋に入っても未だ一人旅をしているエマちゃんを床に座らせる。さて、オルガちゃんが来たら軽い運動をしようと思ってるけど、それまではどうしようかな? ほんとだったら折り紙とかやりたいんだけど私は紙を見たことがない。そもそも子供が遊ぶ様な道具すら我が家にはないのだ。知育とか娯楽っていうのが未発達な文化なのか? エマちゃん家でも見た事ないからウチだけってことは無いと思う。
まぁ遊び道具は今度作るとして、きっとオルガちゃんも直ぐに来るだろうから、今は何も要らないあっち向いてホイでもしてオルガちゃんの到着を待つとしようかな。
「エマちゃんそろそろ帰ってきてー」
「ノエルちゃん、ただいま!」
「あ、うん。それ気に入ったの? おかえりエマちゃん。あっち向いてホイやろ! 知ってる?」
エマちゃんはふるふると首を横に振った。
「じゃあルールを説明するね! 最初にジャンケンをして、勝った方が『あっち向いてホイ』って合図を出しながら上下左右のどこかを指差します。ジャンケンに負けた方は相手の合図に合わせて上下左右のどこかに顔をむけるの。この時、指でさされたのと同じ方向を向いちゃうと負けだよー。わかったかなー?」
身振り手振りを交えながら説明をすると、エマちゃんは何となくはわかってくれたのか少し不安そうに首を縦に振った。
「大丈夫! 何回かやってくうちに上手くできると思う! 取り敢えずやってみよう! それじゃいっくよージャンケンポン!」
私は力一杯グーを出して、エマちゃんは首をかしげた。ジャンケンにそんな手はないぞ、エマちゃんよ。
「ジャンケンって何ですか?」
そこからか……。改めて説明してから、何度かやっているうちにエマちゃんもルールがわかったのかニッコニコであっち向いてホイに一喜一憂している。すごい楽しそうで嬉しいよ。何だか私までテンション上がってきたぞ! しかしエマちゃんはあっち向いてホイをやるのは今日が初めての素人だ。もしかしたらエマちゃんはもうこのゲームに慣れたつもりでいるのかもしれないが、君は果て無きあっち向いてホイ道の一歩目を踏み出したに過ぎない。このゲームは単純に運で勝負が決まるようなものではないんだよ。お姉さんがあっち向いてホイの上級テクニックを見せてあげましょう!
「あっち向いてーー……」
私の急なタメに思わず頭を動かしそうになったエマちゃんははっとした顔をした。そうだ気付いたかエマちゃん、これは心理戦だ! 私の指先の微かな動きと視線誘導、これに釣られることなく、誰かに騙されることなく、本当に自分が進みたかった道を、君は真っ直ぐ歩めるかい?
「……ホイ!」
私は右を差し、エマちゃんは下を向いた。くっ、エマちゃんやるではないか! だけど勝負はこうでなくっちゃ!
「「ジャンケンポン!」」
私はグーを、エマちゃんはパーを出した。勝負事になるとつい力が入ってグーが多くなる私の癖を早くも読まれたようだ。敵ながら天晴だ!
「あっち向いてーーーー………」
こいつ……っ! 上級テクニックを使い始めたぞ! 戦いの中で成長をするとは、エマちゃんなんて恐ろしい子っ!
――――――――――――――
……ねぇ、さすがに長くない? もう多分五分くらい見つめ合ってる状態で止まってるよ? エマちゃんもこの心理戦で精神を摩耗してるのかはぁはぁと呼吸荒くなってきてるし。素人が手を出すには少し早すぎる技だったんだよ。きっと君の身体はもうあっち向いてホイに耐えられない。もうやめるんだ……。
「ノエルーーーー!! 遊びに来たよおおおお!!」
家の外から大きな声が聞こえた。心理戦を続けていたらどうやらオルガちゃんが来たようだね。あっち向いてホイはこれで一旦お開きだ。
「オルガちゃん来たからあっち向いてホイは終わりにして、お出迎え行こっか!」
「うん……。また邪魔された」
中途半端な幕切れに、エマちゃんは不満そうだけど仕方ないね。でもオルガちゃんが来なかったら君の身体は、もう二度とあっち向いてホイが出来なくなっていたかもしれないんだよ?
エマちゃんと一緒に玄関まで行ってドアを開ける。ドアを開けるとオルガちゃんが一人で立っていた。あれ? お母さんと一緒じゃないの?
「ノエルー、ただいまー! あ、間違えた!」
「あはは、オルガちゃんおかえりー!」
「チッ」
失敗失敗と頭をかくオルガちゃんを取り敢えず家に入れてあげる。というか、エマちゃん舌打ちしてなかった? 顔を見てもどうかしましたかと言わんばかりにキョトンとしてる。私の勘違いか……。
「オルガちゃんのママはどうしたの? 急用?」
「母ちゃん遅いから置いてきちゃった!」
いや、五歳児がお母さん振り切って勝手に走るとか、それいっちゃん危ないやつだからね? 村じゃなかったら事故起きてるパターンだよ。腰に手を当てて、どうだ参ったかとでも言いたげなポーズをしているオルガちゃんを影が覆った。
「勝手に走り出すな」
「あいた!」
そう言ってオルガちゃんにゲンコツを落としたこの赤髪の女性がオルガちゃんママなんだろう。オルガちゃんと同じ赤い髪をポニーテールにして、凄く背が高い細身のかっこいい感じの女性だね。
「はじめまして、オルガちゃんママ! 私はノエルです!」
「あぁ、一応はじめまして。もっとちっさい頃に会ってるんだけど流石に覚えてないよな。アレクシアだ。二人ともウチのアホ娘と仲良くしてやってくれ」
上から押さえつける様にガシガシ頭を撫でてくる。ほら、エマちゃんもご挨拶だよ! そっと背中を押してあげるとエマちゃんも一歩前に出て挨拶をする。
「は、はじめまして……。エ、エマです……」
「あぁ、よろしくな」
ガシガシ撫でられたエマちゃんは少しフラついてる。結構パワフルだよね、オルガちゃんママ。私にはわかる、結構鍛えてるタイプの人だ。
「いてて、タンコブできてないかなこれ。まぁいいや、早く三人で遊ぼうよ!」
「その前にお前も挨拶するんだよ!」
オルガちゃんはママさん会議場に引きずられていった。きっと今日の夜は色々叱られるんだろうな、強く生きろよ。
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