2.乱世の世、美プラで作る「生きた人間」のおはなし

 2015年はフレームアームズ・ガールの第1弾、轟雷が発売された年です。

 これ以前の美少女プラモデルといえば、基本的には非可動のスケールモデルに近いものがほとんどだったと思います。

 更に2000年代後半のキャラクターモデルは、低価格かつクオリティの高いアクションフィギュアが主流でした。

 代表的なシリーズであるリボルテックや、美プラとの関係も深い武装神姫が2006年発売。

 後発のfigmaは2008年に発売されました。

 バンダイが発売するロボット系の完成品シリーズも、この辺りから活発になりました。時期的にROBOT魂が代表的でしょうか。


 1/12スケール相当のホビー商品は、アクションフィギュア全盛期といえる状態でした。

 しかし2009年以降、可動式美少女プラモでは最初期に位置する『一撃殺虫!!ホイホイさん』や、『レイキャシール』のプラスチックモデルがコトブキヤから発売されました。

 アクションフィギュアではなく、プラモデルとしてです。


 当然、発売当初はニッチなプラモデルのジャンルでした。

 しかしパーツが色分けされており、また目などの塗装の難しい部分は最初から塗装済みで販売するなど、現在の美プラのスタンダードはこの頃から確立していました。

 それでも、この頃の美プラは知る人ぞ知るというジャンル。

 各社が挙って作るといった流れには至りませんでした。


 しかし、2010年以降のフィギュアにかかるコスト高騰などから、その流れは変わります。(諸説あるそうですが)

 例えば、低価格アクションフィギュアの代表格だった『figma』では、初期の価格は税込み2619円でしたが2015年には5907円と、倍を超える価格です。(比較対象はNo.001の長門有希とNo.253の高坂穂乃果)

 現在に至っては、もはや低価格路線といえるものではありません。

 そこで、製造工程の自動化が進んでおり、主に人件費を抑えることのできるプラモデルに注目するメーカーが現れたという訳です。


 そして満を持して、FAガール轟雷が2015年5月に発売。

(実は価格帯については当時のfigmaより少し安い程度。まあプラモなので)

 有名な話ですが、この初版の轟雷は文字通り瞬殺の勢いで売れていきました。

 その後スティレット、マテリアと新作が発売され、結果現在にまで続く大ヒットシリーズとなるわけです。

 なお、自分はアニメのFAガールから美プラ沼に浸かったクチでして、この頃の勢いを肌で感じていた訳ではありません。

 でもアニメ放送直後のFAガールもまた、発売まもなく完売といった状況でした。

 更には今の30MSよりも再販ペースが遅いため、入手はより困難。文字通りの争奪戦が起きていました。

 ……今と変わらんね。


 前置きが長くなりましたが、つまり2015年の躍進を皮切りに、美プラ界隈は一気に熱が高まっていったわけです。

 そうなると、ノウハウを有する他社が参戦するのは必然でしょう。

 これまで培ってきたプラモのノウハウをキャラプラに応用してきたバンダイは、後に30MSを発売。

 ガレージキットを主戦場としてきたボークスは、プラキットシリーズのブロッカーズから派生した美少女プラモデル、ブロッカーズFIOREを打ち出しました。

 プラモ業界の老舗アオシマも、自社で取り扱っているマクロスシリーズと合わせた美少女プラモデルを2018年から発売しています。


 今では国内外、多くのメーカーが美少女プラモデルを発売する、言うなれば美プラ戦国時代。

 時は2021年、各社がしのぎを削る乱世の世に、新たな美少女プラモデルシリーズ『ギルティプリンセス』が誕生しました。

 販売元はグッドスマイルカンパニー(グッスマ)。

 開発は先ほど名前を挙げたアクションフィギュア界隈の大御所、figmaを手掛ける長年の相棒マックスファクトリーです。


 グッスマはフィギュアを購入される方ならご存じでしょうが、代理店業務も行っています。

 そのためプラモデルに関しても、グッスマのMODEROIDや、マックスファクトリーのPLAMAX。他にも少数ですが代理販売のプラモデルを取り扱っています。

 近々この2社合同企画のPLAMATEAというのも出ますね。こちらは版権キャラクターのプラモデルになるそうです。


 現在グッスマは『chitocerium(チトセリウム)』という美プラシリーズを展開しています。

 こちらはメガミデバイスでお馴染みのマシニーカ素体というものを利用したキットです。

 マシニーカ素体はそれこそメガミデバイスの時にするべき内容だと思うので、今回は割愛です。

 対するPLAMAX。

 こちらは可動非可動問わず、あらゆるプラモデルがラインナップされている半ばカオスなシリーズとなっております。

 その中で美プラのカテゴリとして代表的なのは、ギルティプリンセスとゴッズオーダーでしょう。



                  ●



 さて、PLAMAXの2シリーズを話題に挙げましたが、今回はギルティプリンセスを取り上げていきたいと思います。

 PLAMAX初の美プラカテゴリというのもありますが、一番は出来るだけ初心者向きのシリーズを取り扱いたいという考えからです。ゴッズオーダーはちょっと敷居が上がる感じなので。


 ギルティプリンセスは、他社が自らの技術を応用しているように、マックスファクトリーが長年携わってきたfigmaの構造が上手く取り込まれたキットとなっています。

 その最たる特徴といえば、やはり柔らかさ。特に『曲線美』であるといえるでしょう。

 シリーズコンセプトとしても、プラスチックでありながらも肌や服の柔らかさについて特にこだわりを持つのが、このギルティプリンセスです。


 美少女立体物全てにおいて、曲線とは文字通り見栄えを左右するバロメーターです。少なくとも自分はそう思います。

 顔パーツ一つとっても、ちょっとでもおかしな輪郭をしていれば、それだけで可愛さは半減。それどころか完全に失われる場合だってあります。

 そのようなジャンルにおいて、マックスファクトリーがこれまで培ってきた曲線美の表現力は、素晴らしいものといえるでしょう。


 今回取り上げるギルティプリンセスでも、FAガールやメガミデバイス、30MSといった代表的なシリーズと並べてみると、特に脚の違いが顕著に出ていることが分かると思います。

 これはfigmaの特徴でもありますが、正面から見た時に関節が目立たなくなるよう設計されており、他シリーズよりも自然な立ち姿を見せてくれます。

 後に、コトブキヤの創彩少女庭園やアルカナディアといったシリーズでも取り入れられており、メカニカルな要素を重視した他シリーズとは違うコンセプトであることが伺えます。


 また、他のシリーズではカスタマイズ性を意識しており、本体あるいは武装等に何かしらの軸穴が設けられ、同社、あるいは他社の発売するパーツとの組み換え遊びが出来るのが一般的です。

 しかしこちらのシリーズは、基本的にギルティプリンセスというシリーズ内でのみ完結したものとなっています。

 それも小道具や一部装飾といったものが中心で、本体については他社に多く用意されている3ミリ穴がほぼ存在しません。

 こういったことからも、ギルティプリンセスはプラモデルよりもfigmaのようなアクションフィギュアに近い立ち位置にあると考えています。

 メガミデバイスや30MSとは、遊び方が異なるというわけです。


 さて、ここからは初心者の方へ、ギルティプリンセスがどれだけ勧められるか考えていきます。

 まず組み立て難易度ですが、バンダイのプラモデルに比べるとパーツ数は多いですが、組み立てやすさに関してはお勧めできるレベルです。

 見栄え重視のために複雑な構造を有していない分、作りが比較的単純なためです。

 おかげで手間のかかる工程が少なく、組み上げたものにデカールを貼ればそれだけでイラストに近い完成度になります。


 ですが単純な構造というのは、プラモで重要視されることも多い可動範囲を犠牲にしていることを意味しています。

 このシリーズについては、可愛らしいポーズを取らせる分には問題のない可動範囲を確保した分、ダイナミックなポーズは苦手といった具合でしょう。

 とはいえ、元々その可愛らしさを重視したシリーズなので、それをマイナスと見るかどうかは個人の考えに寄りますね。

 また、オプションパーツなどを用いた組み換えも、このシリーズが苦手としているところです。

 プレイバリューに関しては、作って飾ることがメインになると思われるので、そこまで高いとは言えないでしょう。


 価格についてですが、比較対象にバンダイの製品を含めると酷評することしか出来なくなるので、30MS発売以前の美プラの感覚で語らせてもらいます。


 ギルティプリンセスは、実売価格でいえば美プラの中でも比較的安価な部類になります。

 というのも、このシリーズ自体発売即完売みたいなことがないので、市場に在庫があることが理由の一つです。

 そういった点からも買いやすく、美プラとしては入手が容易な部類に入るでしょう。

 いや、むしろ全てにおいてそうであれ。


 では最後に、前回と同じく箇条書きによる個人的ギルティプリンセスの所感を。

・構造がシンプルなので、プラモデル経験者ならまず問題ない

・美プラとしては比較的安価。ただし飾るのがメインのため、プレイバリューは程々

・毎日少しずつ作る場合でも、完成までの時間はさほどかからない

・必須道具はニッパー。デカールを貼るならばピンセットや綿棒、水を用意

・完成したものはアクションフィギュアに近い


 買いやすい。完成品が可愛らしいということからも、個人的には美プラ初心者の方にお勧めしたい一品。

 一つ作るだけでもいいので、機会があれば手に取っていただきたいです。


 グッスマの美プラ参入で、これまでメカ×美少女が主流だった美少女プラモデルの世界に、フィギュアのような柔らかい要素が加わりました。

 ますます世界観が豊かになっていく美少女プラモデル。

 この先も、良いキットに出会える機会が増えそうです。



 次回予定『美プラもあくまでキャラクタープラモデル』


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