第19話 『悪夢の草原』

 翌日。

 ウェインは、レーンとディア、エルとアヤナの5人で『悪夢の草原』に行くことになった。目的はこの編成がチームとして機能するかどうかと、エルとアヤナの能力査定である。置いてきたモニカは、一緒に連れて行って欲しいとかなり強く言っていたが。彼女には座学がある。そもそも未成年だし。


 ウェインは魔法学院の制服の上に革鎧、腰にショートソードと後ろ腰に大型ナイフを装備。

 ディアも似た装備で、革鎧、ショートソード、ナイフである。


 アヤナは鎧を着けていない。魔法学院の制服に、腰には「実家の倉庫から持ってきた」というサーベルと後ろ腰に中型のナイフ。いつもの黒髪ロングは後ろでまとめてある。

 エルは制服の他は杖を持っているだけの軽装備。彼女の金髪セミロングも、少しまとめているようだったが……ウェインにはそういう知識はない。


 そしてレーンは、剣はバスタードソード、腰にショートソード、大型ナイフ。そして他にも武器を仕込んでいるようだった。前衛なのに鎧が革鎧なので高機動・高火力の見本である。


 そして今回、彼レーンが暫定的なリーダーだった。

 当初は、後方からのほうが戦況がわかっていいとウェインをリーダーに推したレーンだったが、当のウェインがレーンの経験の豊富さなどを考慮し結局レーンが暫定リーダーになった。


 『悪夢の草原』まではラクスから、徒歩で西に二日かかる。


 だがウェインたちは例によって街道を進み、夜は村などで宿を取るので野営はしない。

 安全なラクス近辺なので、楽にそういう行軍ができた。


 道中は何の問題も起きずに『悪夢の草原』に着いた。そこは街道上の片方の道を、ロープと立て看板で進入注意としている場所だった。さらにレオン王国軍の軍人が数名いた。

 ウェインは訊ねる。

「すいません、『悪夢の草原』ってここですか?」

「そうですよ。侵入するなら気をつけてください。あと、日に二度は近くの村からマジックアイテムを売りに来る商人たちがいるんで、必要ならばそれで揃えてもいいでしょう」

「ありがとうございます」

 ウェインは先を促した。


『悪夢の草原』に侵入する。

 まだ陽は高い。今日のうちに戦闘をすませておきたい。5人は再び歩き出した。

 物騒な名前と裏腹に、『悪夢の草原』はそこらにある草原地帯とほとんど同じ景観だった。草木が伸びて荒れ放題になっているところは、やや違うだろうか。

 歩きながら、アヤナが言う。

「『悪夢の草原』は昔からあるけど、何でそこに魔物や野生生物が出るかは誰にもわからないらしい

わ。ここを研究するチームも魔法学院にあるみたいだけど」

 ディアは小首を傾げている。

「人間がやってきては狩りをするわけでしょ? 狩り尽くしちゃわないのかな。それとも本当に、どこかから湧いて出てくるのかも……」

「そうねディア。一度大掛かりな討伐が行われたらしいわよ。でも結局は元に戻っちゃった。そこが不思議みたい」

「逆にさ、放置し続けてたらどうなるんだろうね」

「それも昔似た実験をやったことがあるみたいだけど、ある程度の人口密度って言うのかな。それを超えて増殖だか繁殖だかはしなかったみたい」

「ふーん。出現するのは『悪魔』だけじゃないのね? 猛獣とかもいるんだ?」

「そうみたい。凶暴な野生生物も出るらしいけど……でも子供の個体は出てこないんだって。どうにも理解しがたい場所よね」


 ディアの赤茶けたポニーテールがちょこんとした。

「お、あっちに人影発見!」

 ディアの指差す方に、数人の人間たちが動いている光景があった。

「悪魔か野生動物に襲われているみたい。ねえねえウェイン、助けに行く?」

「んー、いらないんじゃないかな。ここはそういう場所だってわかってるだろうし。まあもし助けを求めに来たら応じれば」

「そうね。あ、動きがなくなった。なんか話してるみたいだけど、敵をやっつけたみたいだね」

「俺達も『敵』を探そう。しっかし不可思議な場所を、訓練施設代わりに使う人間たちの感覚って恐ろしいよな」

 アヤナが言う。

「よく考えればそうね。でもまあ便利だし」

「実戦経験なんて、簡単に選んでできるものじゃないのにな。……エル、大丈夫か?」

 杖を握りしめているエルは、何度か肯いた。少し緊張しているようだ。

「うん。まだ疲れてないわ」

「もし戦いになったら、ポジショニングに気をつけて。エルは誰かの後ろに入ることだけを考えればいい」

 ウェインがそう言い終えたあたりで、先頭を行くレーンが声を上げた。

「発見した。正面遠くの草むらの中、何者かが潜んでる。数、およそ10」

 レーンに言われてウェインは目を凝らす。正面遠くの草むらの中に、野生生物が潜んでいるのを確かに発見した。皆、それぞれが武器を準備する。


「まずは普通に戦えばいいんだな? エルは後ろに。アヤナ、エルについてやってくれ。それと後方警戒。レーンとディアをトップにして、その後ろから俺がフォローする」

 簡単な陣形を組んで、ウェインたちはその野生動物に近づいていった。野生動物たちも発見されたことを悟り、何頭も立ち上がっている。見た目は狼のようだ。

 レーンが言った。

「『ワーウルフ』だな。凶暴だが、たいしたことのない相手だ。数は10体ちょい。こちらを包囲したがっている」

 そこでレーンが、唐突に言った。

「あんなのウェインの魔法があれば楽勝だよ。それでウェイン、ちょっと相談があるんだが」

「なんだ?」

「まずは俺一人で好きにやらせてくれないか?」

「なんだよそれは? ここには能力査定と、俺たちがチームとして機能するかの確認が目的で来ているはずだ。レーン一人にやらせたら意味がない」

「まあまあ。敵はもっと強いのを探せばいいだろう? ちょっと試したいことがあるんだ」

「試したいこと?」

「二刀流さ。アレを実戦レベルで使えるか、もう一度やってみたい」


 レーンの二刀流。それは戦場でウェインと対峙した時に、結果的に形だけ見れたものだった。実際どういうものかは見ていないのでわからない。

「よし、いいだろうレーン。引き出しを増やしておきたい気持ちはわかる」

「ありがたい。じゃあ俺は中央に突撃するが、援護はいらない、疲れたら自分で戻ってくる。ウェインたちは陣形を崩さないように注意してくれ」

 レーンはそう言うと、両手で構えていたバスタードソードは右手だけで持ち、左手で逆手のまま左腰のショートソードを引き抜き、それをクルッと半回転させた。

 右手にバスタードソード、左手にショートソード。果たしてレーンの二刀流は、どれほどのものなのか。

 ウェインだけでなく、その場の全員が注目した。


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