第8話


 少年少女とパーティを組み、早三日が経とうとしております。


 異世界で新たな生を受けてまだ日が浅いが、どうにもわたしはフィジカル・メンタル共に脳筋らしく、驚くほどにすんなりと順応している。

 戦っては食い、食っては戦いを繰り返した結果、レック少年もハンナちゃんも少しずつ冒険者らしい顔つきになってきた。


「ぜえ、ぜえ……ッ! ば……バカ言ってんなよお前」

「おん?」


 肩で息をしているのはレック少年。


「何やら満身創痍みたいな顔してるね」

「顔してるんじゃなくてそうなんだよ! どこの世界に飯食った直後に戦闘始める奴がいるんだ!」

「だってここ魔物の縄張りじゃん? ゆっくり食べてたら食べられるよ?」

「無茶苦茶過ぎんだろ! 見てみろハンナもーーーー」


 しかし、レック少年の視線の先では、息を荒げるどころか元気に杖を振りかざすハンナちゃんが写った。


「見て下さいお姉さま、私もお姉さまみたいにズガンバキーンって出来てますよ!」

「素晴らしい」

「ヒーラーが物理に特化すんじゃねえよ! え、じゃあウチのパーティ全員が前衛になんの!?」

「型にとらわれない、今風じゃん?」

「ちくしょう……なんでこんな変なことに」

「ほらほらレック少年、右から来るよ」

「ちッ! おらおらおらぁ!」


 荒削りだが筋は良し。

 やはり鍛錬は実戦で積むのが一番手っ取り早いというものだ。わたしもかつては研修より現場で身に付けていた派だからね。


「現場サイコウ!」

「意味わかんねえ!」

「あっはははは⭐︎」


 こうして、ものの二時間ほどでホワイトウルフの縄張りを制圧したのだった。



 ◆



「はい、こちらが報酬になります」

「ありがとうございます」


 北に数キロ先、随分と海から離れた【イミナ】という街を訪れていた。ここは魔物の活性が高く、自衛団でも処理しきれない程魔物で溢れかえっているそうな。

 繁殖力の高い魔物が多く、油断すればすぐに群れを成して人々を襲うと聞く。生存競争の荒波を体現したかのような苛烈な環境に置かれながらも、街は賑わいを見せていた。


 報酬を受け取ったハンナちゃんがテーブルに戻ってくると、わたしはその中身を見てニンマリする。


「すごいね。ホワイトウルフってそこまで強くないのに報酬がオイシイ」

「弱くはねえよ。だってアレ、群単位ならBランクの魔物だぜ?」

「Bランク?」

「冒険者ギルドには、魔物の強さに対してランク付けする制度があるんですよ。基本的には冒険者側にもそれが設定され、ランクが対応する依頼しか受けられません」

「そうなんだー。因みに二人のランクは?」

「駆け出しって言っただろ。最初のEランクだよ」

「え? じゃあホワイトウルフってBランクだから戦えない相手じゃないの?」

「はい。ですから今回はイレギュラーというか、襲われたので急遽撃退したという体で押し通しました」

(中々に強かだなハンナちゃん)

「あまり多様できない手段なので、地道にランクを上げるのがいいと思います」

「ふむ」


 しかしランク制度か。

 てっきり目の前の敵をボコボコにすれば解決だと思っていたけどそうでは無いらしい。


「ランクが上がる基準は?」

「はい。同ランクの依頼を規定の数クリアすれば問題ないです。Eランクの場合だと二十ですね」

「なんだ、一日あれば楽勝だね」

「どんな計算だよゴリッカ」


 ゴリッカとはレック少年が呼び始めたわたしの愛称? である。ゴリラとリッカを足したらしいものだが、なんか強そうなのでヨシ!


「報酬が良ければ沢山美味しいものが食える。美味しいものが食えたらまた頑張れるじゃないか」

「そりゃお前な……」

「とりあえずハンナちゃん、この報酬から武器代と宿代だけ置いといて、残りは晩御飯に全ツッパで」

「はい!」

「おいおい、路銀は確保しねぇの!?」

「甘いなレック少年。食べれる時に限界まで食べておくのがわたしの流儀だ」

「……マジかよ」

「さて、ではメニューの端から端まで!」

「あいあいさー!」


 さあ、宴の時間だ。

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