第7話


 ◆



 ビッググリズリーの肉を平らげ、満腹とはいかないまでもある程度は腹を満たす事が出来た。

 人間腹が膨れると寛容になるというか、異世界に転生させられた事すら許せてしまう。


「このまま寝っかなー」

『待て待て』

「ん?」


 歯切れの悪い切り出し方でグリ助が呟く。食ったら寝る、それがこの世界の理じゃないのか?


『リッカよ。お前はこの少年らをどうするつとりだ?』

「とって食ったりはしないよ!」

『当たり前だ馬鹿者! その……この後は放っておくつもりか?』

「ははーん察した」


 得心いった。魂は混ざっていても思考は別々なわたし達だが生憎そこまで鈍くない。腹が膨れたならば、考えるべきは“これからの事”である。

 食後の休憩がてら、少し遠くで涼んでいる二人に駆け寄った。


「レック少年とハンナちゃん。二人は孤児院を出てからは流浪の冒険者をしているんだよね?」

「はい。まだ満足に稼げてはいませんが、ゆくゆくは仕送りという形を取ろうかと」

「うんうん。そして今はパーティを組むのにも苦戦しているんだよね?」

「あー、俺らまだ弱っちいからな」

「はいそこ自分を卑下しない。誰だって最初はザコなんだよ」

「お前は最初っからバカ強そうだけどな」

「褒めるな照れる」


 おっと、話が逸れたので軌道修正。


「そこで提案なんだけど、な・な・なんと! この最強爆食サディスティック癒し系のわたしが君達のパーティに入ってあげようではないか!」

「え?」

「は? リッカが俺らのパーティに? つか肩書き意味わかんねぇ何それこわい」

「不服か少年?」

「いや……その、俺は別に」

「さ、賛成です! 私はリッカさんの加入に大賛成です!」

「おーよしよし、ハンナちゃんは素直でかぁいいねぇ〜」

「えへへ」

「……いいのかよ。お前だって旅の中でなんかやる事あるんじゃねえの?」

「食べる事、以上!」

「マジか?」

「マジだ」


 イエス、大マジだ。

 わたしは現世で餓死した。食べる事が大好きな人間にとって餓死は最も残酷な幕引きと言えるだろう。

 だから食べる。腹がはち切れるまで食べまくる。これが異世界に来てからの、たった一つの使命でもあるのだ。


(グリ助との約束でもあるもんね)


 人間の食に魅了された飢餓の魔王。

 数奇な運命であるが、食べる事が利害の一致となるなら何の弊害もない。わたしが食べてグリ助も満たされる、Win-Winじゃないか!


「てな訳でさっそく提案します」

「えらく唐突だな、なんだよ」

「その①君達のレベリングをしながら街で美味しいものを食べてます。②街で美味しいものを食べます。③装備を充実させつつ美味しいものを食べます」

「食い意地遠慮しろ!」

「大事なので」


 レベリングと装備の充実はマストだろう。わたしはゲームはやらないがゲーム配信動画で配信者が言っていた間違いない。


「この世界の美味しいものを食べ尽くし、そのついでに君らを最強の冒険者に育て上げようじゃないか」

「俺らついでかよ……」

「私はリッカさんと一緒にいれるなら」

「え?」

「ああ、リッカお姉さま」

「ハンナ……お前もしかして」

「よっしゃ行くぞ野郎共!」


 背景、まだ知らぬ異世界のご飯屋さんへ。

 これからわたしが食材を枯らしに行こうと思うので、買い出し頑張って下さい。


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