第6話
そこらで見つけたやや大きめの葉っぱを皿にして、上には焼きたてのビッググリズリーの肉をドンと乗せられていた。
俗にいう漫画肉とやらに近しいビジュアルだが、これほど悪魔的な見た目はそうは無いだろう。
「ではでは」
ガブリと一口。
わたしが取り分けた部位は随分と噛み応えがあり、荒々しい肉の弾力に思わずニンマリした。柔らかい肉も好きだが、時折こういうガツンとした部位も悪くない。
流石に全ての臭みは取れていないが、獣臭さの嫌な所を香草の香りが上書きしてくれる。そしてコクのある脂が口に広がり、まさにわたしは今、肉を食っている! という実感を与えてくれる。
「んまい! どうどうお二人さん?」
一口目を嚥下し、対面に座るレック少年とハンナちゃんに問い掛ける。
「……ん、とっても……おいひいれす」
一生懸命に肉を頬張るハンナちゃん。やや肉の弾力に押し負けているのか、必死に噛む姿は尊ささえ感じる。ハムスターの食事風景みたいだ。
「初めて食ったけど……魔物の肉って美味いんだな」
「うんうん、わたしも初めてだけど」
「マジかよ。当たり前に食ってたから慣れたもんだと思ってた」
「ちなみに戦うのも初めてでーす」
「!? 嘘だろめちゃくちゃかよ」
「んふー。おいひいー」
肉を食っていれば幸せになれる。
いつかのバイトリーダーが言っていたのを思い出した。
(元気かな……ピーク時をワンオペで楽々回してたって豪語してたあの先輩)
どう考えても無理じゃんって思っていたけれど、彼のその言葉だけは鮮明に覚えていた。
『素晴らしい……まさに野生の味そのものだ』
(グリ助?)
『活力が漲ってくる……お前も感じるだろう?』
(んー……ん?)
『鈍い奴め。今の我々は腹が満たされれば強さを増すのだ。言い換えれば、空腹時ほど弱くなる』
(そうなの? ああでもグリ助は飢餓の魔王だか言ってたっけ。お腹が空くのが弱点なんだ)
『弱点というか、自我を失って暴走状態となる』
(……え、それヤバくね?)
『だから早い補給が必要だったのだ。流石に自分の危険なレベルの空腹は把握しているがな』
(怖いこと言うね。ご飯がマズくなっちゃう)
『我々二人の問題だから頭に刻み込んでおけ。逆に言えば質の良い食事をすれば、それだけ大きな力を発揮できる』
(全てはご飯次第、ってこと?)
『うむ』
なるほど、実にシンプルだ。
わたし自身も食べるのは大好きだし、もし叶うのならずっとご飯を食べていたい。トドのつまり、わたしが死んでからグリ助の魂と共鳴したのも納得の理由という訳だ。
「腹一杯だ」
レック少年は再び祈りのポーズをして目を閉じていた。
「もうご馳走様?」
「ゴチソウサマ? それっていただきますみたいなヤツか?」
「そうそう。食べる時は“いただきます”で食べ終わったら“ごちそうさま”って言うんだよ」
「ふーん、じゃあごちそうさま」
「えらい」
「い、いちいち褒めんなよ鬱陶しいな」
「ハンナちゃんはーーーー」
相変わらず口をモニョモニョしている、尊い。
「ハンナは飯を食うのいつも遅いんだよ。いっつも俺が先に終わっちゃうから」
「ごめんねレック……」
「気にしない気にしない。わたしもまだまだ食べるから」
「え、あのデッカい塊肉食べたのにか?」
「まだ腹一分目です」
「ウソ……だろ……ッ」
「ふふん!」
しかし自分でも驚いてはいる。
元々大喰らいではあるが、さっきの肉の大きさを考えれば満腹に近くてもいいレベルだ。
やはりグリ助と融合している分、胃袋のキャパも魔王クラスになっているに違いない。
(それはつまり、前よりもっと美味しいものを食べ続けられるってことだ)
思わず笑みが出てしまう。
不慮の事故? とはいえ、異世界に転生した事に価値を見出せた。願ってもない二度目の人生。それを大好きな食事に全振りできるのであれば、この命には大きな意味がある。
(ねえグリ助)
『なんだ?』
(こらからも沢山、美味しいもの食べようね?)
『……リッカ』
少し間を置き、グリ助はやや照れ臭そうに答える。
『ま、魔王の胃袋を舐めるでないぞ。容易に満腹になれるなどと自惚れるな』
(へいへい)
異世界での爆食ライフ。
明確な目標が生まれ、やっとわたしはこの世界で、本来のわたしとしての生きる意味を見つけた。
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