第3話
魔王の魂と合体して異世界転生!
生まれ変わった真・わたしは最強ッッッ!!
なんてのはただのカラ元気です。おはようございますリッカです。
腹が減っては戦はできぬと言うけれど、まず腹が減った状態からリスタートを切らされるのはコレ如何に。
すぐに腹が減る燃費の悪い身体は異世界でも相変わらずの様で、勇んでみたものの、あまりの空腹で地面にへたり込んでいます。
「あ、これイケそう」
『おいヤメろ! そこら辺の草を食おうとするな!』
「だってこの身体って毒とか効かないんでしょ? ならお腹も壊さないよね」
『ぬぬ、確かにそうだが……魔王が草を食うなどあり得ぬ!』
「大丈夫だよ念のため川で洗ったし」
『そういう問題でもないわ!』
「お、イケルイケル」
道中、腹ペコで行き倒れたわたしは文字通りの『道草を食う』を実行している最中である。
そこら辺に生えている綺麗めな見た目をしている草(ややネギっぽい)を引き千切り、川でザブザブしてからガブガブしてみる。
「これは口の中がピリリとして良いね」
『ふむ、鼻抜けの風味も良く、中々に悪くはない味だーーーーじゃなくてだな!』
言い忘れていたがグリ助はわたしの中に魂だけの存在として共存関係にあるらしい。なんでもわたしが空腹だと空腹感を、何かを食べるとその食感と味は等しく感じるそうな。
(こんな食べ物に特化した魔王がいるもんかねえ)
疑心暗鬼になりながらボリボリ草を食っていると、向こうの道端から何やら冷ややかな視線を感じて視線を移した。
「少年?」
腰には剣、身体には軽装ながらも鎧を纏っている。ああ、ロールプレイングゲームでよくある冒険者的なアレだ。
まだ子供らしい顔を精一杯歪めてまあ、可愛い奴め。
「よう少年剣士くん。君も一緒に草でも食うかい?」
「は? あんた馬鹿じゃねえの」
(リアクション普ッ通ぅー。草食ってて草とか言われるかと思ったけど、なんかリアクション冷たくてお姉さんショックだわー)
これ元の世界だとSNSで世界中の笑い者にされていたんだろうなぁ……とか思いつつ、勿体無いので草を食べ切って起き上がった。
「よう少年、食べ物持ってない?」
「いきなり恐喝かよ……やべぇなコイツ」
「わたしは本気だ。見ての通り、お腹が空きすぎて草を食っていたところさ」
「……し、正気じゃねえぞ。おい逃げるぞハンナ!」
「ハンナ?」
よく見れば少年の後ろに白いシルエットがポツリと立っていた。
年齢は十五歳前後だろうか、あどけなさを残した表情のシスターらしき少女だが、驚きと困惑の入り混じる目でわたしを見ている。
「こんにちはハンナちゃん。わたしは怪しくないよ、あとなんか食べるもの持ってない?」
「めちゃくちゃ怪しいだろうが! おいハンナ逃げるぞ!」
「……待ってレック」
そう言ってハンナちゃんはパタパタと歩いてくると、まだ真新しい鞄から何かを取り出した。
「あの、その……良かったら食べて下さい」
「お、パンじゃんありがと!」
「それお前の昼飯じゃーーーーってもう食ってるし!? 遠慮とかねーのかよアンタ!」
「残念ながら持ち合わせておらぬ」
「少しは恥ずかしがれよ! 俺らより断然年上だろうが!」
「今年で二十一歳だ。ハンナちゃん達はいくつ?」
「私達は十六歳です。ええと……」
「わたしの名前はリッカだよ。ふう、少しはお腹が膨れたよ、ありがとうねハンナちゃん」
正直言えばパン一つじゃ腹は満たされてはいないが、ハンナちゃんの優しさで空腹感は薄れた気がする。
世界は違っても人の優しさにホッコリするのは共通なんだなあとシミジミしつつ、一飯の恩を返す為にひとつの提案をした。
「うっし、なんかお礼をしよう。お姉さんに何でも言ってごらん」
「え!? え? ええ?」
「ハンナを困らせるなこのサイクロプス女!」
「はっはっは。元気がいいな少年」
「むごッ! く、苦しい……」
「はわ、わわわわ!」
『……何をやっておるのだ此奴は』
わたしの流儀その一。
『飯を貰ったら何かでお返しするべし!』
◆
十分後。
「偉い!」
「え、えへへ」
ハンナちゃんからかくかくしかじかな話を聞いた。
何でも二人は孤児院出身の冒険者らしく、自分達が世話になったシスターに恩返しする為に冒険者をやっているらしい。
しかしまだ冒険者になりたてらしく、今回が初任務だという。
「二人だけで大丈夫なの? 他にパーティ組む人いなかった?」
「残念ですけど、新しく来た街では私達みたいな初心者を相手にしてくれる人はいなくて……」
「世知辛いねほんとに。さっき食べてた草より辛いかも知れない。ハンナちゃんも食べる草?」
ブチブチと引きちぎって手渡す。するとハンナちゃんは困った様な表情を浮かべつつ、遠慮気味にわたしの手を押し戻してきた。
「いえ……と言うか、それ思いっきり毒草ですけどお腹大丈夫なんですか?」
「ぜんぜんへーき」
「やっぱり化け物じゃねえかよサイクロプス女め」
「またハグしてやろうか少年」
「!? やや、やめろよ」
顔を赤くして可愛い奴め、思春期かよ。
「よろしい。じゃあこのリッカお姉さんがパーティに入ってやろう」
「おいおい冒険者舐めんなよ。つーかお前、丸腰のクセに戦えるのか?」
「そういえば……」
どうなの? と、心の中でグリ助に問い掛けてみる。あのものゴッツイ角やら羽が生えるのだ。戦闘面に置いても少年少女に引けを取る事はあるまい。
『無論、楽勝だ』
「イエス!」
「!? き、急に大声出すなよ」
「ふはは、戦闘なら全てわたしに任せておけ青少年! 君は隅っこに縮こまってチワワの様に震えて待つがいいさ!」
「んなッ!? チワワってのが何か知らないけどバカにされているのだけは分かるぞ!」
「ちょっと落ち着いてレック。それより……」
「離せよハンナ! コイツにはガツンと言ってやらないとーーーー」
「う、後ろ……見て」
「ん?」
「お?」
わたしとレック少年は揃って視線をグルリと回す。すると、そこには見事な巨躯を持つ、一頭のクマが佇んでいた。
「くま●ンじゃん!」
「ビッググリズリー!? な、なんでこんな雑魚しかいない処に……」
「ビッググリズリー?」
『中級の魔物だな。我の様な魔王からすれば雑魚だが、駆け出しの冒険者には辛い相手だろう』
「グオオオオオオオ!!」
「うわぁー!?」
「ほーんなるほど」
つまりピンチというヤツか!
「逃げるぞハンナ!」
「で、でもでもビッググリズリーの走る速さは人間以上だよ!? きっと追いつかれて殺されちゃう!」
「ちッ、戦うしかねェのか!」
剣を抜き去るレック少年だが、その手はガタガタに震えていた。仕方がない、まだ年端もいかないばかりか駆け出しの冒険者だ。
「わたしも初めて生でクマを見た時は勝てる訳ないと思ったよ」
「冷静に言ってる場合か! お前も戦えるなら手伝え!」
「んー? そんなチクチク言葉を使ういけない少年には手を貸せないカモぉ?」
「ぐぬぬ……足元見やがって」
「ほらほら、『助けてリッカお姉さん!』って言ってごらん?」
「ぐ……ぐぎぎぎ!」
「レック、意地張らないでお願いしようよ! 怪我なんかして帰ればシスターに冒険者辞めさせられちゃう!」
「!? それは……絶対に、ダメだ」
ふむふむ。なるほどそういう約束なのね。
育ててくれた恩を返す為に危険を承知で冒険者になる道を選んだ。若いのにしっかりしてるじゃかいか。
「今の日本の若い奴らに聞かせてやりたいね」
ゴキリと首を鳴らし、一歩前にでる。
「おい、危ないぞ!」
「大丈夫だいじょーぶ」
行けるでしょグリ助?
脳内で発した言葉に、グリ助は余裕に満ちた声で『無論だ』と答えた。
(でもでも、さっきみたいなゴリッゴリに魔王なのは勘弁してよ。この世界基準で強い冒険者くらいを装いなさい)
『おまッ……ふむ、注文の多い宿主だな。ではコレを使え』
一瞬むず痒さを覚えたかと思うと、レック少年達から見えない部位から鱗がメキメキと現れる。それはわたしの体表に纏わりつく事なく、細かく砕けて形を再構築していった。
「おお……なんかカッケぇ!」
「黒い刃物と……槍?」
「すげぇ……本当に強いんじゃねえか、あの女」
現れたのは漆黒の武器達。
右手には鋭利な刃物を携えたナイフらしきものと、左手には三つの矛先を持つフォークらしきものだ。
『クク、恐れ慄くがよい。我が愛用する武器の中でも特にお気に入りの魔王刃(ベリアルナイフ)と魔王槍(アモントライデント)だ』
「よっしゃやってやる! 『切るやつ』と『刺すやつ』な!」
『いやベリアルーーーー』
「おらおらおら!!!」
グリ助の話をバッサリ切って駆け出す。
もう武器の見た目で理解した。これはどう見ても巨大なナイフとフォークだ。流石は腹ペコ魔王を自称するだけあり、武器もそれに因んでいる。
まったく捻りのない展開ではるが、このナイフとフォークは恐ろしく軽く、しかも相当頑丈である。戦う為の武器としては申し分ない。
『お前……そもそも戦った事はあるのか?』
「雰囲気で!」
バイト三つ掛け持ち舐めんなよ。
こちとら体力勝負は当たり前で、常に身体を動かしてきたんだ。クマと戦うなんて朝飯前よ。
脳内で『いや、そうはならんだろう』と聞こえた気もするが、とりあえず目の前のクマ公から処す事に決めた。
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