『モーニングコール』

pipipi


pipipi


………ライト、つけるのも億劫だな。

いつも寝起きは最悪の気分。


今日も始まった月曜日Monday



外は……晴れみたいだ。

僕は曇りが好きだけど、まぁ今週はいいか。

モスキートに刺された頬が赤く腫れている。

腫れた箇所を撫でながら、そうさ、気分は晴れるがわけない。


今朝はお茶漬けにしよう。

ご飯を盛りつけ、お茶漬けの封を切る。

……上手く切れないな、どちらからも切れるって嘘じゃない?

とりあえず、さっさと米を胃袋にしまおう。





待って。

鏡見て驚いた。

これが、朝の僕の姿か。



醜い野獣のような寝ぐせで別人みたいだ。


———いや、これが本当の自分なのか?



嗚呼、そうか。いつも美化していたんだ。

化粧がなんだ、美容なんだとかいいか、今日は。



本当の自分で戦うか、今日を。


なんてことはない、いつも通りだ。

今までだって繰り返しの日々なんだ。





あー、オーライ、オーケイ。

そんなもんだ。



僕の一日は目立つことない。


いつだって働いて、汗かいて、帰って眠って、この先の未来は決まってる。


変わることない———僕自身はね。


変わるのはどうせ天気くらいで、世界中がお祭りだとしても、僕にとってはただの平日だ。




「ラララ」


つい口遊む、ダルダルな週の始まりに
鳴る靴音に、蝉時雨。


誰が横を通り過ぎても同じ顔、
目の下にできたクマ。


それぞれの足で歩いてるはずなのに、ふと気付いたら同じ場所へ行く。

機械仕掛けのような月曜日Monday



「そんなもんさ」






電車に揺られてぶつかる肩。
窓の外から見える青空。

晴れやかな空過ぎて、何故かうざい。


家にはたまった洗濯の山があるから、
今すぐ帰りたいけど

……嗚呼、帰りたくないなぁ。


ホームで下を向いて歩く、転ばぬように。


pipipipi


……業務連絡で鳴るだけのケータイ、「鍵お願いします」。


捨ててしまいたいけど捨てれない。



そうだ。サボり始めたあのアプリを消して、また代わりの何かを探そう。





「ラララ」


つい口遊む独り言にリズム。

いつも変わらない、ダルダルな週の始まり。



カタカタ鳴るキーボードの音に、部屋の外から聞こえる電話の音。


机の横を誰かが通り過ぎても、みんな同じ顔。


目の下にできたクマが目立つ。



自分の夢に向けてそれぞれの足で歩いていたはずなのに、気付いたら同じ場所へ。

機械仕掛けのような月曜日Monday。



「そんなもんさ……ああ、そんなもんさ」






ちょっと待って、もう少しで終わるから。

20:00を過ぎた頃にenterキーでピリオドを打つ。

さぁ、帰るかな我が家マイハウスに。

夢うつつに、ただ、帰っても変わらない。


回れ左に鍵を開けて、独り言。


「ただいま」


……来ない返事。


帰りがけにスーパーで買った冷凍食品をレンジでチンして、


「温めてくれるのはお前だけだ」



———なんて、恥ずかしい独り言に酔いしれる。



缶ビールで口を泡で満たして、パソコンの前に座って推しを見る。



『生きてるだけで偉い!』


本当にそうかい?

どうだい、心の中の自分?



そんなに簡単イージーな日々じゃないことに、


哲学的な考えになって、誰も彼も気づいた週明け。



「ラララ」

手軽にお湯を浴びて、慣れたリズムを口遊む。


草臥れた身体に湯が跳ねる、ダルダルな週の始まり。



滝みたいな風貌のシャワーの水音に、クラクションの響く窓の外。


幼い頃に都市伝説の番組を見て怖がった鏡も、もう変哲もない。

今や横を僕が通り過ぎても、いつもと同じ顔が映るだけ。



目の下にできたクマを今度はちゃんと隠して、

「ああ、君は今日も可愛いな」

だなんて呟く、出来上がった赤い顔。



お花屋さんとか、女優とか、パティシエとか、

かつてはそれぞれの足で歩いてるはずなのに、気付いたら同じ場所へ。

機械仕掛けサラリーマンのような月曜日Monday。





そんなダルダルな週の始まりに鳴る、靴の音。

お隣さんの帰ってきた音が、壁を通して聞こえる。


配信が終わってパソコンの電源を落とすと映る自分の顔。


今日という今日を、それぞれの足で歩いたとしても辿り着く先は同じ場所。

明日は火曜日、特に用事も何もない、変わらない月曜日Monday。




「そんなもんさ……まぁ、そんなもんさ」


「おはよう、僕。また会おうね、明日の僕」


「おやすみ」



ライトを切る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る