『死神』
「なぁ、答えてくれ。お前さんはいつ、
"死神"が街灯に照らされる黒色の大振りな鎌を背負い、薄ら笑みを浮かべながら
「………へへ、さ、さぁな。
お、俺は、惚れた女が居てよ、カッコいい所を見せたくて———」
ガンッ!
男が地面に頬を擦り付けたまま、死神に向かって必死に弁明すると、突然目の前のコンクリートの地面が割れ、破片が男の両目に突き刺さる。荒廃した
「不思議な文化だな。
写真を見る限り、
死神の手から男の頭に十数枚のフィルム写真がばら
「あ、あれはッ、"依頼"だったんだ! 金に目が眩んで………同じ人殺しなら分かるだろ!? 病が
「………その"依頼"は誰から受けた?」
「"
「なんだ、よく分かってるじゃないか」
冷淡な言葉だけが振り下ろされた。
男は冷や汗でシャツがぐっしょりと濡れていた。微かにアンモニア臭もする。
「お前から聞きたいことは山ほどある。僕に、詳しく話してご覧。
………話す気が無いならさっさと言ってくれよ?」
◇◇◇
都市全体が消灯し、日を
「いつから僕は、悪党に染まった
僕には掛け替えのない弟がいる。彼の夢は、困っている人々を助ける
平和の為に闘い、子どもたちの心を美しく彩る、そんな存在になりたいのだとずっと言っていた。弟はまだ平和だった時代に、体術と剣術を学んでいた。
それこそ、全国大会に出場するほどの実力があったんだ。
ボランティアも欠かさず、齢や人格、身分に関わらず、多くの人々を助け続けた。
その内には、僕もいた。両親を亡くした僕らは、お互いを助け合いながら生きてきた。
彼はいつも言っていた。
『困っている人に優劣は生まれない。
僕は、絶対見殺しにも手にかけることはしない』
………正にヒーローの素質だった。実際問題、彼にはそれができた。
それだけの実力があり、そのための訓練も沢山積んできたのを見てきた。
その姿に、一個人として、今まで何度勇気づけられたことか。
だが、生まれる場所が悪かった。
祖国はインフレを起こし、貨幣の価値が著しく低下した。他国の貨幣を幾らか借りてどうにか凌ごうとしているものの、生活は今まで以上に厳しいものとなった。
やがて世間には、大金を払わねば治療不可の病が戦禍と共に蔓延し、遂には「不治の病」と呼ばれる程の猛威を振るうようになる。そして、不運なことに、姿の見えない
僕は軋む足で駆け回り、病を治すために凡ゆる手段を使った。
パンクした医療機関と交渉して、なんとか病室を借りるところまでは上手くいった。
しかし、なんと国内の医療機関ではどうにもならないらしく、
インフレを起こした祖国ではその治療のための金額すら払えない人がほとんどだった。
そんな時に、"
"依頼"を受ければ、多額の賞金が手に入る。依頼内容は様々で、何の役に立つのか分からない行動ですら依頼によって賞金が掛けられていた。だけれど、その大半は非人道的なものばかりだった。
………弟のためと言えど、弟が守りたかった僕達の住む国に、仇なすことはできなかった。人殺しなんて、最も救いようのない罪だったから。
甘いことばかり思っていた果てには
「もし僕が死んじゃっても、
刹那、闘志が宿った。
これ以上に、武器を取らない理由にならない言葉は無かった。
「弟以外にヒーローに相応しい人間なんて、居ないだろ」
そこから、弟の夢と正義を絶やさぬ為に出稼ぎに行った。手段は一切選ばず、何だってやった。時には"依頼"を受けてまで、弟の医療費を稼いだ。その金銭の
そうだ、
だけれど、一人また一人と手に掛ける度に、ふと思う。
大切な家族の為に行う強盗や殺人は、弟にとって正しい行為なのだろうか。
血濡れた硬貨で買った見舞いの花束と延命処置に、俺自身の正義の心はあったのだろうか。
いいや、"死神"として武器を取ってしまった以上、もう絶対的にヒーローになることはできない。だが、いつか病を克服した
ならばせめて、初めては救いようのない真の悪役を。
ある日、僕は"依頼"を新たに受けた。
あともう少しで、弟の病気を治すための医療費が貯まる。
これがきっと最後だ。
依頼内容は———
〈———に、
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