第29話借金は身体で払えと?

「なんで?」

「借金には担保がいりますよね?」


 稀李がもっともそうなことを言いながら、真剣な目で俺を見つめてくる。


「まあ、普通はそうだね」

「なので私が自ら担保になるべきかと」

 そう言って稀李は自らの胸に手を当て、堂々と言い放った。


 いつの時代の話よ?


 俺はチャラ男ではなく、悪徳金貸しか?

 まあ、担保というのは正当なものなので、悪徳金貸しだけでなく真っ当な金貸しもなにかしら要求するだろうけど。


 んでもって、現代でもそういう身体での要求をする奴らはいるわけではあるけれど!


 だが、そもそも担保というなら真幸への信用で十分だ。

 こいつならこの金を騙し取ったりしないし。


 あとまあ、真幸になら騙されてもいいかなと思う自分がいる。


 それを改めて告げようと口を開く前に。

「ダメ!」

 そう言って姫乃が稀李と俺の間に割って入り、その背に稀李を守るようにしながら俺をまっすぐ見つめる。


「恭平くん、借金の担保には私がなります!

 私を……にしてください!」


 うんうん、美しき姉妹的幼馴染愛だ。

 ……って、だからなんで俺が悪徳金貸しみたいになってんだ?

 俺、担保を要求したっけ?


「担保なんていらねぇよ。

 どうしても必要なら真幸への信用が担保みたいなもんだ」


 だが、姫乃と稀李はなおも食い下がる。


「それはダメです、恭平さん!

 借金にはちゃんと担保を取らないと。

 なので私が恭平さんの嫁に……」


「ダメ!

 稀李ちゃんといえども恭平くんは渡せない!

 恭平くん、私をお嫁にして!」


 うんうん、美少女2人のどちらかを借金のかたに嫁にして……。

 いまどき小説でもあまり使われないネタだよなぁ。


 そもそも姫乃が春田家の借金の代わりにというのは変だよな。


 チャラ男としては、よしっ、では2人とも嫁にとでも言うべきなのだろうか。


 そんな2人を無視して真幸は覚悟を決めた目で、大きく頷き俺に応える。


「これは借りるが、なんとしてもすぐ返すから」

「あまり無理すんなよ。

 利息がつくわけでもないんだから」


「じゃあ、利息の代わりに私を好きに」

「ダメ! 恭平くんには私を……にしてもらわないと!」

 姫乃と稀李は互いに、ぐぬぬとうなり。


「恭平さん!」

「恭平くん!」

「「どっち!」」


 いや、どっちとか言われても。

 俺は2人をジーッと見つめてから真幸の方に顔を向ける。


「なあ、真幸。

 俺はいつからラブコメハーレム主人公になったんだ?」

「ずっとそうだっただろ?

 鈍感で難聴系だし」


 鈍感で難聴系だと?

 愛の告白をされておいて、聞こえなかったとか言って誤魔化す不届き者のヤツだな。

 見ていて異常にイライラするやつだ。


 ……なんで真幸は納得するように、うんうんと頷いているんだ?


 これを口実に姫乃を家に持ち帰ろうか、と頭によぎったがとにかくこの場は必死に我慢した。


 代わりにチャラ男モードが発動して。

「……そっかぁ、借金のかたでないと可愛い2人は嫁に来てくれないのか、残念」


 寂しそうに言うと2人はハッとした顔をする。

 姫乃に至っては俺に詰め寄り言い放つ。


「そんなことない!

 恭平くん……てる!」


 肝心な部分がなんて言ったか聞き取れなかったけど。

「ごめん、姫乃。

 いまなんて言った?」


 それにはなぜか真幸が深いため息を吐く。

「やっぱ難聴系だよなぁ」


 俺同様、稀李は事態が飲み込めないらしく俺と姫乃と真幸を交互に見て。

「恭平さん、愛してる!」

 なぜかそう言った。


「ありがと、でも俺みたいなチャラ男のクズ男はダメだぞ」

「あ、そういう感じ……?」


 俺の返事に稀李がなぜか目をぱちぱちとさせる。


 それからなぜか稀李弥は姫乃の方に顔を向け。

「ヒメちゃん、もう一度恭平さんに言ってみて?」


 姫乃は頷き、再度、俺の目を見て告げる。

「恭平くん、……てるよ」


「恭平さん、聞こえました?」

 稀李はずずいと身を乗り出すように俺に尋ねたので、俺は首を横に振る。


「あー、そういう感じ?

 これは……まあ、なんというか」

 稀李は困ったような顔で笑う。

 それに姫乃は真剣な目をして答える。


「だから一生かけるつもり。

 それでいつか伝わってくれるといいなって思ってる」


 そう言いながら俺の目を真っ直ぐに貫くように見つめてくる。

 伝われ、伝われと訴えるように。


 よっぽど真剣になっているらしく、俺の目を見つめながら顔が段々近づいて来たので。

 俺は姫乃のアゴに手を添えチャラ男っぽく告げてやる。


「それ以上、近づくなら魅力的な唇にキスしちゃうよ」


 それから姫乃の唇をついっと指で触れる。

 さっきの仕返し。


 余裕そうにそう言ってはみたが、ここが人の家でなければ、忠告すらせずに姫乃の唇を奪っていたことだろう。


 本気の最後通告だったりする。


 姫乃の唇、美味しいよね……。

 30歳の童貞をからかうと危険です、ご注意ください。


 すると姫乃は目を見開き、見るからに顔を赤くして。


「ひぃいあぁぁあああああ!?」

 目が潤んだいまにも泣き出しそうな顔で叫び、真っ赤な顔してぴょんと俺から距離を取って、その場で丸まりぴるぴる震え出す。


「ヒ、ヒメちゃん!?

 大丈夫!?

 キズは致命傷だけど大丈夫!?」


 なんのキズが致命傷なのかわからないけど、怪我されるのは困るなぁ。


 俺はプルプル震えながら涙目でなにかを訴える姫乃を見ながら、なんとなくそんなことを思う。


「キョキョキョ、恭平くん!

 そそそそ、そんなことは2人っきりのときにお願いします!!

 ちゃちゃちゃ、ちゃんと準備しておきますから!」


「準備って……なんの?」

「心の!」


 真幸はそんな俺たちを呆れた顔で見つつ。

「恭平、とりあえずヒノへ身体で支払ってあげろよ?」


 あれ?

 いつのまにか俺が支払う話になってる!?

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