第23話俺は転生者である

「真幸、ちょっといいか?」


 真幸はちょっと待ってろと言うだけ言って、飯をかき込んで速攻で食い終わる。

 普段はそこまで早食いではないだろうから、かなり気を使わせたようだ。


 食ってる弁当は相変わらず姫乃の手作りのようだが。


 食後のドリンクを洒落込むわけではないが、それなりにデリケートな話になるかもと、連れ立ってやってきたのはナタデココの自販機がある場所。


 ここで姫乃と隠れてキスをしたのだと思うと、その彼氏を連れてくるのはどうにも最悪な気分だが他に手頃な場所もない。


 自販機の前で真幸はサイダーを俺はナタデココを取り出して。

 早速、本題の朝のことについて尋ねた。


「俺とヒノはちゃんと別れたから安心しろ。

 周りには付き合ってたフリをしてたと説明する」


 なんと返して良いかわからず、黙ったままになってしまった俺に真幸は肩をポンッと叩く。


「全ての人が相手の破滅を願うわけじゃない。

 付き合ってたフリも……まったくの嘘というわけでもないしな」


 そうか、とだけ答え俺はそれ以上どう言っていいかわからなかった。

 じゃあ俺が、とは口が裂けても言えない。

 俺にはその資格はない。


 俺の様子に気づいた真幸は尋ねる。


「姫乃のこと好きか?」


 困った内面を顔に出し苦笑いで俺は頷く。


 あの日、告げた通りだ。

 どれほど経とうとも、今後、俺たちがどうなろうともずっと命を賭けられるぐらいに。


「お前には適当なこと言えないからな。

 ……悪いな、俺は姫乃が好きだ」


「それなら泣かせてくれるな」

 間髪入れずに真幸は真剣な目でそう言った。

 恋愛的な意味ではなく幼馴染という関係性の深さを羨ましいと思った。


 姫乃は俺のことで泣いてくれ……たな。


 それが本当はどういう意味なのか、モヤがかかって理解することができない。


 なにより俺は……。


 言っておかないといけないことがある。

 真幸にも、姫乃にも。


 改めて2人に言っておかないといけないことがあると告げると。


「夢野も一緒に聞いていいか?

 俺たちの事情知ってるから」


 一瞬、意外に思ったが俺と姫乃がラブホから出てきたとき、そういえば夢野もいたなと今頃思い出した。


 俺の内面のことで真幸と姫乃に迷惑をかけるのだ。

 2人の味方は多いほど良い。

 俺は頷いてそれを受け入れた。


 放課後までどうにも落ち着かない時間だった。


 流れる歴史の授業はいっそ凶悪な暴力なように、疲労した身体に眠気として襲ってきた。


 それを防いだのは、ふとした際にチラチラとこちらを見る姫乃の姿だ。


 なんだかいけないことをしているようで、それが誰かに指摘されやしないかと、むしろ俺の方がハラハラしてしまった。


 そして放課後。

 俺たちは誰もいなくなった真幸の教室に集まる。


 そうは言っても夢野は真幸と同じクラスなので集まるも何もないが。

 真幸と夢野が机を挟んで俺の前に。


 なぜか姫乃は俺のすぐ隣に椅子を持ってきて座り。

「よいしょっと……」


 さらにはなぜか真幸たちの目の前で俺の左手を握り込み、あろうことか恋人繋ぎをして。

 一仕事終えたように小さく満足げに頷く。

「これでよしっと……」


 なにがよいのでしょうか、姫乃サン……?


 もちろん、姫乃に密かに好意を抱く俺はその手を振り払うわけがない。


 俺は姫乃の柔らかな手の感触を感じて思わず、右手で体温が上がっていく顔を半分隠す。


 なにかの間違いか、俺の想像を超える話し合いが姫乃たちの間で行われた結果だろうか。


 もしくは高度にして柔軟な状況判断を有する復讐劇かとさえ思う。


 元より、姫乃の行動一つで簡単に地獄にも天国にも行ってしまう簡単な俺ではあるが。


 ……でもやっぱり、恋人繋ぎされる理由はさっぱりわからない。


「ヒメ……、なりふり構わなくなったね」

「うん、躊躇ちゅうちょしたら戦場では散るだけだから。

 後悔もためらいもしないことにしたから」


 ここはいつから戦場に?

 もはや言っていることが意味不明だ。


 そもそもが姫乃が泣いて、それを保護して、真幸が迎えに来て、なんとか姫乃が家に帰れたのが昨日のことなのだ。


 俺たちの関係性がバレたこと自体がまだ数日しか経っていないのだ。


 その帰り道で俺たちのことを真幸たちが許容するなにかを話したのだろうが、それでこうも劇的に変わるものだろうか。


 第一、姫乃からしたら本人の同意の上とはいえ、口車に乗せられて浮気に走ってしまったのだ。


 寝取り浮気の興奮から冷めれば、救いのないような地獄の未来に引きずり込んだ俺に、逆に憎しみの一つも湧くのではないだろうか。


 もしくは彼らも俺と同じ転生でも果たしたのかとさえ思った。


 それでも、そんな戸惑いを振り払い俺は顔をしかっとあげて。

 ついに3人に真実を告げた。


「俺は転生者だ。

 いずれ以前のチャラ男の俺に戻ってしまう可能性がある」


 ……きっと信じてはもらえないだろうが。

 あと童貞であることは秘密にしよう、うん。

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