第8話後輩ちゃんとチャラ男先輩
姫乃が立ち去って俺は膝だけでなく、ついには両手両膝をつく。
しばしその格好。
その俺の前にスカートの短い誰かがしゃがみ込む。
俺はそれだけで俺のすぐそばまで来たのが誰かわかった。
「……高野。
パンツ見えるぞ」
嘘である、ギリギリ見えない。
そこに居たのは
よく見ればわかる程度に栗色に髪を染め、さらりとした髪が垂れる先に、少しはだけたシャツの先に首から下のきめの細かい肌の上に白いハート型のネックレス。
どこかしらギャルっぽい。
なんと俺が所属する文芸部の後輩である。
俺もそうだが、文芸部と言われてイメージされるタイプではない。
姫乃の方が本好きだろう。
いつも本を読んでいると言っていたし、1度だけ長い時間一緒にいられたときに、俺を背もたれにして本に没頭している姿も見たこともある。
「見せてるんです」
「リアルでそれを聞くのは初めてだ。
俺は感動した。
あ、ついでに見えてないからな」
そう言いながら高野のはだけたシャツの中に視線を向けることもなく立ち上がる。
いつまでもしゃがみ込んでいても逆に目立つからだ。
「知ってます。
チャラ先輩は見るならもっと堂々と見ます」
うん、ごめん、中身は隠キャ童貞30歳だからこっそり見るかも。
いまは見なかったけど、見るときは見る。
俺はすぐそばにあるベンチにまで移動して、ストンと腰を下ろしてグデーと背中を伸ばす。
ベンチの側まで付いてきておきながら高野は俺を見つめるばかりで座ろうとしないので、座ったらどうだと手で隣を示すと、体が引っ付かんばかりにちょこんと隣に腰掛けた。
なので、腰を浮かし拳半個分離れる。
ぶー、と不満げに顔を膨らませる高野は可愛い。
よりそばに来られるとさらにわかるが、この子も大概顔が良い。
「高野、チャラ先輩ではない。
チャラ男先輩と言え」
「はぁ〜い、チャラ男センパーイ」
これが俺と高野とのいつものやり取りだ。
高野とは昨年、彼女に同じ文芸部の彼氏が出来るまで数度デートに行っている。
中学の頃なんかは、クラス全員とデートに行くことを目標にして1人を残し全員とデートに行った。
アホなことをしていた。
それだけ色んな子とデートを重ねておいてなんだが、具体的に手を出したもしくは付き合った子の記憶はない。
その記憶がどこまで正しいのか、実は俺もはっきりとは自信がない。
デートをしておきながら全く手を出さないのはどうにもおかしなことに思えるからだ。
その不確かな記憶でいけば高野とは、肉体関係はない、はず。
委員長ともない、はず。
ただ姫乃とはある。
そこだけわかるという奇妙な記憶の残り方だ。
これではまるでチャラ男の俺が姫乃以外に手を出したことがないみたいだ。
そんなチャラ男いるか?
いやまあ、女の子と取っ替え引っ替えデートに誘っているから、チャラいといえばきっちりチャラいわけだが。
考えても突然、わかるようになるとも思えない。
「ところで、どうしたこんなところに?」
「こんなところと言う先輩こそ、どうしてですかぁ?」
質問に質問に返すな。
でもまあ。
「俺の目的はコレだよ」
お気に入りのナタデココのジュースである。
ここにしかないのだから実にわかりやすい。
姫乃とのアレコレを見られていれば、とてつもなくヤバいけど。
「……それ、さっきの綺麗な人からもらったやつですよね?
あれって水鳥先輩でしたか、幼馴染の彼氏がいるとか。
まさか先輩がその幼馴染だったんですね」
「違ぇよ」
なんでそんな勘違いが起こるんだよ。
いま一瞬息が止まりそうだったぞ。
しかし姫乃のこと知ってたんだな。
この高校の全生徒は1000人に近い。
結構なマンモス校だが、やはり有名な人は有名だろう。
俺のこともチャラ男の先輩ということで多少は知られてはいるのかもしれない。
悪いことをするとすぐに噂が広まってしまうので注意が必要だ。
……姫乃とのことバレると、その意味でもアウトかなぁ。
「知ってたのはたまたまですけどね。
彼氏でもないのにジュース1つ受け取るのに、あんなに甘い空気出してたんですか?」
「出てた?
それは妄想だろ」
マズい!
もしも見ただけでそんな雰囲気が出ているなら、とんでもなくマズい。
自らでケジメをつける前にバレてしまい大惨事となるかもしれない。
俺が転生してきた影響だろう。
チャラ男恭平ならきっと上手に隠し切っていたのだろうが。
たった1日でコレかと落ち込みたくなる。
「はい、妄想ですけどね」
妄想なのかよ!?
思わず叫びそうになる言葉を飲み込んだ。
それを口に出せば、逆説的に妄想ではなく事実ですと認めるようなものだ。
「まさか、寝取り!?」
「なんでだよ!?」
そのとおりでーす。
「ダメですよぉ、寝取りは。
あっ、私のことも寝取り浮気します?」
「しねぇよ」
恐ろしい小悪魔的な視線と細い指先を唇に。
指先の肌艶とピンクのグロスの艶が相まって、実に蠱惑的な魅力を放つ。
小悪魔の恐ろしさを実感する。
これは本気で誘惑されれば、ちょっとこの誘惑に乗ってしまおうと思ってしまう男は多数だろう。
可愛いものだなぁとは思うが、俺は特に誘惑はされない。
あざといというほどでもなく自然なのもポイントだ。
「ムウ、誘惑されてくれない」
「わかるか?」
自分の顔をむにむにと揉む。
そんなにわかりやすいなら表情とか練習しといた方がいいな。
あと、やっぱり終わらせるのは急いだ方がいいな。
やっぱり俺が隠し切るのは無理だ。
姫乃のあの顔が曇ることを考えると、なにやら胸の辺りがやたらと苦しいが。
心筋梗塞かなぁ、急いで病院に行かないと。
ぶっちゃけリアルでそんな顔見たら心臓止まる気がする。
俺、やっぱり手遅れだよなぁ。
「でも先輩どうしちゃったんですか?
今までならあの手のマジになってしまう重い感じの人に近寄らなかったじゃないですかぁ」
「親友の彼女だよ」
「親友の彼女寝取っちゃったんですか!?」
「寝取ってねぇよ!」
バッチリ寝取りました!
もうやめて、心臓がマジで痛い。
高野といつも通りのノリなのに、真実をバシバシ言い当てられて辛い!
「……人にマジになってくれるなら諦めなかったのに」
「いまなにか言ったか?」
「なんでもないです!」
キレ気味に返された。
バッチリ聞こえたけども。
チャラ男の俺……、ほんとなにしてくれちゃってんの?
「でもチャラ男先輩が寝取ってくれるなら考えます」
「考えるな、考えるな。
そんなことしたらお先真っ暗、クズに幸せは訪れることはねぇよ」
これは確かな事実だ。
寝取り浮気をして結ばれた2人が幸せになる可能性はない。
……心臓、マジ痛ぇえ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます