第27話 告白と嘘
土下座をする有村千穂利の土下座に対して心は呆然としていた。
無理もない。周りに嘘を流し、迷惑をかけた理由が自分と会話するきっかけが欲しかったというものだったのだから。
ここは心の判断に任せたいところである。俺からは何も言えない。
「えっと、頭を上げてください。有村さん」
心の優しい呼びかけに有村さんは顔を上げる。
「純粋な理由だけに周りに迷惑をかけた行為は確かに許されるものではありません。何かしらの処分をしないと生徒会として示しが付かないと私は感じます」
「はい。勿論、どんな処罰も受け入れる覚悟です。何でも仰って下さい」
「では、処分を言い渡します。有村千穂利さん。これからは二度とこのような真似をしないで下さい」
「え? あの、それだけですか?」
キョトンと有村さんは拍子抜けしたように口を開けた。
「まぁ、この件は生徒会しか知らない事実ですので大ごとにする必要はないでしょう。桃矢さんと美紗都には余計な手間を取らせてしまいましたが、それに異論はありませんか?」
「心がそう言うなら俺は何もないよ」
「ちょっと面白みに欠けるけど、仕方がないわね」
美紗都は渋々といった感じで承諾した様子である。
「はい。ではこれにて話は終わりです」
心は両手を合わせて笑顔でそう言った。
「ま、待って下さい。皆さんが良くても私は納得出来ません。少しくらい痛い目に合わないと納得出来ません」
有村さんは待ったをかける。
「そう言われましても……ねぇ?」と心は俺に助けを求める。
「有村さん。心は何も処分することで反省させようとしている訳じゃない。反省の色を見抜けたことと普段の行いを評価したからそう言っているんだ」
「どう言うことですか?」
「つまり、有村さんの人間性に免じたってことさ。今回は行き過ぎた行動になってしまったけど、普段の有村さんは他人の見えないところに気を配れるし、真面目なところを見越したからなんだ。だからこれからに期待しているって意味で心は判断した訳だ」
「そ、その通りです。桃矢さんが私の言いたいことを言ってくれました」
少し焦ったように心は言う。
「だから無理に処分を受ける必要はないんだよ。有村さん」
それを聞いた有村さんはポロリと涙が溢れた。
「あ、ありがとうございます。こんな私にここまで言ってくれて嬉しいです」
「泣かないで。有村さん」
心は有村さんを慰めてホッとした時である。
「あの、このタイミングで言うのはどうかと思いますけど、一ついいですか?」
「なぁに?」
すると、有村さんは少し言い辛そうにしながら言った。
「えっと、その……天山さん。私と付き合ってくれませんか?」
生の告白現場に俺と美紗都は見てはいけないものを見てしまったように後ろを向く。
しかも女の子同士と言う特殊なものに反応が難しい。
これには心も返答に困る。それでも答えなければならない圧があったのだ。
「えっと、ごめんなさい」
ペコリと心はお辞儀をして断った。
「私にはその、好きな人がいるので有村さんとは付き合えません。ですが、そう言う目で見ない条件であれば友達になりませんか?」
「は、はい。是非! これからも仲良くして下さい!」
成立とはならないまでも意外な形で話は進んだことに俺は呆気にとられる。
それでいいのかと。
だが、お互いがそれでいいのであればいいのだろう。
これにてこの騒動について目星が付けられた。
その日の帰り。送迎車内でのことだ。
「一時はどうなるかと思ったけど、無事に解決できて良かったな。心」
「そう……ですね」と心は引っかかった様子である。
「生徒会には今回の件はなんて言うつもりなんだ?」
「報告者の勘違いでしたと説明するつもりです」
「それで納得してもらえるかな?」
「どうでしょう。私一人だと心細いので桃矢さんも一緒に言ってくれたら助かります」
「おう、それは任せておけ」
「あ、やっぱりいいです。桃矢さんは嘘が下手ですから」
「なんだよ、それ。俺だって嘘くらい言えるわ」
「じゃ、私に何か嘘を付いて下さい」
俺は数秒、嘘を考えた。
「心、知っているか? タコって実は宇宙から来た宇宙生物なんだぜ?」
「うーん。やっぱり私一人で報告しておきますね」
「なんでだよ。リアルな嘘だっただろ」
「本気で言っています? 桃矢さんに嘘は似合わないですよ」
「似合う似合わないってなんだよ。じゃ、心。俺に嘘を付いてみろ」
「私が桃矢さんに?」
「俺のことを散々罵ったんだ。これで心の嘘が大したことなかったら人のこと言えないからな」
「桃矢さん。私、実はこう見えて双子なんですよ。私は妹なんですけど、姉は海外留学中なんです。今度の連休にこっちに遊びに来るそうなのでその時に紹介させてもらっていいですか?」
「え?
「はい。嘘でした。桃矢さんメッチャ騙されているじゃないですか」
「え? 今の全部嘘? うわあああ。本気にしちゃったじゃんかよ。恥ずかしい」
疲れているはずなのに帰りの車内は大いに盛り上がっていた。
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