第25話 推測

 心と合流した俺は化学室の教員室にいた。


「ここって生徒が自由に出入りしていいわけ?」


 真っ先に美紗都はツッコミを入れる。


「まぁ、そこはご愛嬌ってことで」


 何がご愛嬌だと思いつつも俺は言葉を発しなかった。

 心は俺たちが聞き込みや張り込みをしている間は危険を考慮してここに居たわけだ。

 心のボディガードの負担を考えればこのような場所に閉じこもってもらった方が何かと都合が良いので助かる。


「それよりも美紗都。さっきの発言を謝罪しなさい」


「謝罪? 何のこと?」


「私と生徒会のメンバーをポンコツって言ったことよ」


「あぁ、それね。謝罪はしないわ」


 当たり前のように美紗都は言い切った。


「なっ! なにおぉ? えぇんんぐぐぐっ!」


 心は怒りのあまり声に出すが言葉になっていないくらいゴモゴモしている。

 これはまた喧嘩が起こる予感がした俺はあわあわと頭を抱えた。


「心。私が何故ポンコツって言ったのか意味を汲み取りなさい」


「意味を汲み取る?」


「何も意味もなく暴言を吐くほど私は落ちぶれていないわよ」


 いや、意味もなく普通に暴言を吐くようなキャラになっているのは俺だけだろうか。

 だが、心は真剣にこれまでのことを思い返すように瞑想する。

 何かがおかしいことに気付き出した。


「そうか。なるほど」


「気付いたようね。心」


「えぇ、美紗都の言う通り、私はどうやらポンコツだったようね」


 認めちゃったよ。それでいいのか? 学年一の頭脳を持つお嬢様とあろうものがそんなアッサリ認めちゃって。


「ようは今回の騒動の 美紗都さん」


 俺は嫌味っぽく言った。


「その通り。生徒会は揃いも揃ってまんまと架空の存在に振り回されていたのよ」


「確かに最初から存在しないものをいくら探しても見つからない。よくよく考えたら生徒からの報告で私たちは見たことないもの」


「しかもその報告は匿名希望。面と向かって相談を受けていないって言うことにも問題あり」


「その中でも実名で報告があった有村千穂利だけ。これをどう見るか」


「ちょっと待ってよ。美紗都はもしかして有村さんを疑っている? それはおかしいでしょ。もし犯人なら何故、わざわざ自ら報告する必要があるの? 普通匿名で報告するじゃない」


「リアルを出すため」と俺はボソッと呟く。


「え?」


「つまり匿名だけだとただのイタズラに捉えてしまう。だから生の声で現実味を出すことで生徒会を信じさせたんだ」


「菊池くんの言う通り。有村さんは最初から不審者を見たって演技をした」


「でも有村さんはそんな人を騙す人に見えない。考えすぎってことは……?」


「心。


「だからって証拠もないのに疑うような真似は……」


「決めつけはよくないけど、一度本人から聞いてみよう。それで何か分かることもあるんじゃないかな?」


「そうですね。桃矢さんの言う通りです」


「ねぇ、一つ気になったんだけど、心。あんた有村さんと何か関わりでもあるの?」


「え? 何よ、急に」


「だって庇ったり親しげな感じが伝わるのよね。どうなのよ?」


 美紗都に追及された心は少し考え込むようにパチクリと目を見開いた。


「あぁ、別にそこまで親しい間柄でもないんだけど、よく挨拶をしてくれるんだよね。そこまで喋ることはないんだけど、廊下ですれ違う度に満面の笑みであいさつしてくれて可愛い人だなって。よくよく見ると先輩ってことを知ってギャップが可愛いと言うか憎めないなって言うのが正直なところ。あと、テニスコートを見かけると誰よりも頑張っている姿がいいな、私も頑張らなきゃって思わせてくれる人なんだよね。有村さんって」


 心は淡々と有村さんの印象を語った。確かに聞く限りでは人が良さそうな人であることが窺える。

 でも今回の件とは別だ。犯人なのか、無関係なのか確かめる必要があった。


「ソフトテニス部はまだいるかな?」


 俺たちはテニスコートまで足を運んでいた。

 時刻は十八時を回って居た。多くの部活動は帰宅を始める時間だ。

 そんな中でテニスコートは片付けられており、部員の姿もない。


「一足遅かったか。また明日出直そうか」


「いや、まだ部室にいるかもしれない。行きましょう」


 美紗都は諦めきれていない様子でソフトテニス部の部室へ向かった。

 当然、俺も心も引き下がれない。


「ごめん下さい! 誰か居ますか?」


 美紗都が部室を開けたその時である。

 一人、部員が残っていた。そう、有村千穂利だ。

 だが、着替えの途中だったようで下着姿を目撃してしまう。

 俺の存在に気付いた有村さんは赤面になった。


「な、な、な……」


 あぁ、これはあれだ。お約束というやつだ。


「いや、これはちがっ……」


「き、きゃああああああ! 変態!」

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