第24話 目撃者


 千佐都の特技を武器に不審者の捜索が続いた。


「探すのはいいとしてその前にやることがあるんじゃない?」


「やること?」


 千佐都は意味深に俺に問いかける。


「生の声。まずはその不審者を見たって言う人の話を聞きたいんだけど」


「何で?」


「バカね。何をするにしても前情報がないと得るものも得られないじゃない」


「な、なるほど。でも、俺はその目撃した人は知らないからぁ」


『それなら私、知っています』


 俺たちの会話を聞いていた心が音声で返事をする。


「本当か?」


『メールでその生徒の情報を送るので一度会ってみれば何か分かると思います』


「そうか。ありがとう。心」


 すぐに心からその生徒の情報がメールで送られた。

 有村千穂利ありむらちほり。二年B組。ソフトテニス部キャプテン。

 見た目はおっとりと言うかナヨナヨ感が強い。

 小動物のようでマスコット的なポジジョンのようなものが見て取れた。


「えっと。話って何でしょうか」


「有村さん。話っていうのは……」


「ま、待って下さい。告白ですか? それならまだ心の準備ができていないので待って貰えませんか?」


「告白? 何のことだ?」


「違うんですか?」


「あのね。私が一緒にいるのにそんなわけないでしょ。先輩、自意識過剰過ぎませんか?」


 美紗都は先輩相手にも関わらず噛み付いた。


「そ、そうですよね。ごめんなさい。それで話というのは?」


「不審者についてだ。有村さん。不審者を見たって生徒会に報告しましたよね?」


「はい。しましたね」


「当時の状況を教えてもらえませんか?」


「はい。あれは一週間前のことです。私が部活を終えて帰る時でした。最後まで残っていた私は帰りが十九時になっていました。自転車で帰ろうと荷物を積んでいた時です。フェンスの外に人影が見えたんです。誰だろうと顔を見上げたら季節外れの黒いコートを羽織った人がいたんです。フードまで深く被っていたのと夜だったので顔は見なかったけど、多分男だと思います。身長は百七十センチくらいとやや高めだったと思います。気味が悪いと思って急いで自転車を走らせました」


「それでその不審者は何をしていたか分かりますか?」


「さぁ……あ、そういえば」と有村さんは何かを思い出したように言う。


「確かあの日、望遠鏡を持っていました。外から何かを覗いていたと思います」


「どこを見ていたか分かりますか?」


「正確には分かりませんけど、校舎の3階の方を見ていたような……」


「駐輪場側の校舎の三階がある部屋って確か生徒会室じゃない?」と美紗都は助言する。


「心!」


『一週間前と言えば丁度、遅くまで球技大会の段取りをしていた日ですね』


 不審者は生徒会が目的?


「ありがとう。有村さん。貴重な話をありがとう」


「いえ、またいつでも聞いて下さいね」


 有村さんにお礼を言った後、廊下を歩きながら美紗都と横並びで会話をする。


「いい情報だったな。美紗都」


「そうね」と美紗都はどうもぎこちない返事をした。


「どうかしたか?」


「何かが引っかかるのよねぇ」


「引っかかるって何が?」


「有村千穂利。あの子、違和感なかった?」


「違和感? 別に特に気にならなかったけど?」


「何で暗がりなのに男だとか、見ている場所が三階だとか言い切れるのかなって」


「別に言い切っているわけじゃなくておそらくとか多分って意味だろ? 別に不思議なことなんてないじゃないか」


「まぁ、そうも取れるか」


 納得したようなそうではないような微妙な感じで美紗都は答えた。


「心、他にその不審者を目撃したって生徒はいないのか?」


『他にもいるにはいるんですけど、有村さん以外は匿名での報告になっています。ただ、毎日のように報告が上がっているので生徒会としても無視できないこととなっています』


「匿名?」


 匿名という言葉に俺も美紗都も疑惑を持った。

 これは何かあると。


「ふふ。やっぱり私の感じた違和感は間違っていないようね」


 何かを察したように美紗都は不敵な笑みを浮かべた。


『美紗都。どういうこと?』


「ふふ。心、あんたポンコツね。いや、心だけじゃない。生徒会全員がポンコツよ」


『いきなり何? 私はともかく皆をバカにする発言は美紗都だろうと許さないわよ』


 電話越しからも分かるようにピリッとした不穏な空気を感じた俺はすぐに仲裁に入る。


「美紗都。喧嘩を売るような発言はやめてくれ。心も落ち着け。美紗都はそんなつもりで言ったわけじゃないから」


「菊池くん。察しの悪いあなたでも今回の件は分かったんじゃないの?」

「それは、まぁ……」


「心。合流しましょう。今回の不審者騒動に関して話し合いましょう」


『分かりました』


 美紗都は今の状況を楽しむようにニヤニヤと笑いが溢れる。

 問題の答えを知って心より有利に立てたことが嬉しいようである。

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