第21話 試合開始


 ジャンプボールは俺が担当したが、疲労もあり通常のジャンプ力が出せなかった。

 そのせいもあり、初手は敵チームにボールが渡ってしまった。


「ドンマイ! 次行こう」


 美紗都は励ましながらボールに手を伸ばす。

 しかし、ハンドリングで交わされボールは奪えない。

 まるで赤子を捻るように敵は高身長を生かしたロングパスで攻めて行く。


「高過ぎるパスでボールが届かない」


「あんなパスずるい」


 女子組はどうしようもない体格差に愕然とする。

 そしてボールがシュートされたその時である。

 パシッと俺はゴール前でボールを弾いた。


「しまった!」


 ドリブルで敵陣に踏み込もうとしたその時だ。

 三人掛かりで俺は敵に囲まれた。

 完全にマークされている。俺さえ潰せたらそこで勝ち筋がないと分かっているようだ。

 動けない。でもこのままではやられる。

 ボールを持っていられるのは二十四秒と決まっている。

 時間だけが刻々と過ぎていく。


「へい! 菊池くん。僕にパスを!」


 鳴川がパスを求めた。今の鳴川はノーマークだ。


「鳴川! 頼む!」


 ボールを投げたその時である。

 勢い余って鳴川から大きく外れてボールはコートの外へいく。


「任せて!」


 溢れたボールは心が掴んだ。このままゴールまで行けば点数は確実だ。

「ビー」とタイマーの音が響く。二十四秒が過ぎてしまったのだ。

 そこからは酷いものだった。点数の差はどんどん広がり、逆転は絶望である。

 前半戦が終わり、後半戦前の休憩タイムのことである。


「くっ! せっかく練習してもやっぱりバスケ部のエースに叶いっこない」


「確かに。もう疲れちゃった」


「……負けを認めるのも一つの手ね」


 俺以外諦めていた。いや、俺もどこかで諦めている。

 だが、一人諦めていない人がいる。


「最後までやろうよ。たとえ負けてもやりきろう。諦めたらそこで……なんだっけ」


 心は諦めない精神を訴えた。だが、しまらない発言に皆笑っていた。


「諦めたらそこで試合終了……でしょ? 言うなら覚えていなさいよ」


 美紗都は呆れるように言った。


「確かにこのままじゃ悔しい」


「最後まで戦って散ってこそ美学じゃないか。それを忘れていたよ」


 諦めから最後までやりきる流れができていた。

 心の一言で皆の気持ちが一つになった。やっぱり心の発言には影響力がある。


「皆、一つお願いがあるんだ。唯一勝てる方法だ。協力してくれ」


 俺は攻略法を話した。今の俺たちが勝てる唯一の方法。もうこれしかない。

 後半戦が始まってボールは美紗都に渡った。


「菊池くん!」


「おう!」


 俺にボールが渡った瞬間、予想通り敵は三人掛かりでディフェンスに入った。

 完全に身動きができない。


「ふん。潰せ!」


 ボールを奪われる瞬間である。

 俺は大きく構えた。その格好に敵は違和感を感じたはずだ。


「まさか」


「そのまさかだ!」


 俺はそのままゴールに向けてボールを投げた。

 味方ゴール位置から敵ゴールへのシュートにその場にいた全員は困惑した。


「ヤケクソかよ。そんなところから入るわけが……」


 ボールはゴールに向かって吸い寄せられるように入った。


「うそ!」


「そんなのありかよ」


「まぐれかよ。運のいい奴め!」


 スリーポイントシュート。いや、ファイブポイントシュートくらいの位置である。

 俺が編み出した勝ち筋。それはスリーポイントシュートを決めまくって逆転すること。

 これなら敵がいくら強くても関係ない。

 そこから味方にはボールが渡った瞬間、最優先で俺にボールが渡るようにしていた。

 受け取ったボールはドンドンとスリーポイントを決めていく。

 みるみると点数が縮まって二点差となった。

 残り時間は残り一分。次にスリーポイントを決めたら逆転だ。


「菊池桃矢を潰せ!」


 スリーポイントが打てないように四人で固められた。体制からして打てない。

 こうなったら。

 俺は足をバネのようにして大きくジャンプした。

 空中に飛んだ俺は無防備だ。


「いっけー!」


 ボールを投げてゴール目掛けて一直線。

 だが、次の瞬間である。

 バコーンとボールはゴールを突き破り、ゴールは破壊された。

 そこで試合終了となった。


「やべ。学校の備品、壊しちゃった」


 勝敗よりも俺は弁償というのが頭に浮かんでいた。

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