第20話 体力お化けの菊池くん


 球技大会の最初の項目

 ハンドボールの試合が始まった。

 ジャンプボールでは俺が優勢。味方へボールが渡った。

 ハンドボールとはバスケとサッカーを混ぜたようなスポーツだ。


「パス!」


 俺は味方にパスを求める。

 しかし、投げる直後にボールを奪われてしまい、敵チームへボールが渡ってしまう。


「しまっ……」


 敵のチームワークは完璧でそのままゴールまで駆け抜けてしまう。

 頼みの綱はキーパーのみ。


「くそ! 来るなら来い!」


 キーパーは身構えるが敵のシュートは防げない。


「ゴール! D組一点獲得!」


 開始早々、敵チームに得点が入ってしまう。


「つ、強い」


「やっぱり寄せ集めのチームじゃ歯が立たないか」


「終わった」


 チームメイトは実力の差を感じたようで今の得点で戦意を喪失させてしまった。

 チーム戦のため、結束力が欠けてしまえば一人では勝つことができない。

 だからと言ってここで諦めるのも惜しい。今の状況で俺にできることは何か。


「悪い。キーパーを変わってもらえるか?」


 俺は味方チームのキーパーにお願いをする。


「別にいいけど」


「ありがとう」


 ここから先、一点も入れさせなければ何かの拍子で得点が入ればまだ勝機はある。

 これだと俺は睨んだ。


「はい。ボール」


 渡されたボールで投げればいいのか。

 とにかく敵チームの陣地まで投げればショートカットになる。

 俺は勢いに身を任せてボールを投げた。


「おりゃ!」


 俺の投げたボールは勢い余って敵のゴールに直接入ってしまった。

 あまりにもぶっ飛んだゴールに全員は呆然としていた。


「あ、今のってゴールになるのかな?」


「ゴ、ゴール!」


 審判の判断により得点に繋がった。

 その調子で俺はチームメイトの力を借りることなく得点を増やしていった。


「試合終了! 勝者はC組です」


 俺のチームが勝った。


「菊池くん。次の試合が始まるよ。急いで来てよ」


 クラスメイトに呼ばれて俺は次の試合に行くことに。

 そうだ。喜んでいる場合も休んでいる余裕もない。

 とにかく数をこなして行くしかない。


「えっと次はなんだっけ」


 スケジュール表を見ると次の競技はテニスだ。

 個人戦なら無駄な気遣いなく試合に望める。

 俺はラケットを借りて試合に参戦する。


「試合終了! 一年C組菊池桃矢さんの勝利です」


 瞬殺で勝利をもぎ取った。


「菊池くん。次の試合が始まる」


「今行く!」


「菊池くん。早く来て」


「すぐ行く!」


「菊池くん!」


「分かった!」


 全く休む間も無く俺は五つの競技をやりきった。

 当然のように俺は全て勝利を収めた。


「さ、流石に限界だ。もう動けん」


「桃矢さん。お疲れ様です。ですが、大変申し上げにくいのですが、そろそろバスケの試合が始まりますよ」


 心は静かに近づき、俺にそう教えてくれた。


「そうだ。まだメインのバスケが残っていた」


「お疲れでしょうが、もう一踏ん張りです。肩貸しますよ」


「ありがとう。心」


 俺は試合場である体育館まで心の肩を借りて向かった。

 体育館に入ると既に試合開始前の挨拶をする段階だった。


「あ、菊池くんだ!」


「やっと来た。遅い」


「この僕を待たせるなんて菊池くんも偉くなったものだね」


 バスケに関しては一人もメンバーは欠けていない。

 しかし、相手はオールバスケ部のE組が相手だ。

 高身長でいかにも強そうである。


「おい。あいつ、試合前からヘロヘロじゃないか」


「ナメられたものだな」


「それとも既に諦めているんじゃないか」


 言いたいことを言う相手チーム。言い返す気力もない。


「大丈夫です。桃矢さん。私たちは練習をしました。例え勝てなくても全力で試合できればそれで満足です。桃矢さんは出来るだけゴール前を守って下さい」


 心だけではなく佐伯さん、美紗都、鳴川も同じ気持ちだった。


「うん。全力でやろう!」


 円陣を組んで試合に望んだ。

 例え勝てなくてもやれることはやる。

 そんな思いから試合が始まった。



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